姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第二十五話 悲しき原点

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「先程も言ったように、祓い師は我らの様な存在から願いを叶えられることはほぼない。稀に縁を結ぶことで互いを助け合うことがあるので絶対ではないのだがな」
「願いを聞き届けない理由は逸脱……だと言ったが……」
「そうだ。祓い師は単身では願いを果たすのは困難だろう。しかし連携すれば叶えることができる。お前も最近、道祖土スミジから聞いただろう?」
「そう言えば……」

 三条家令嬢、茉莉奈まりなの母は【あやかし】であるちんの毒に蝕まれてしまった。三条マリナの母を救う為にスミジと榑木くれきスバルは協力し毒を消す為の準備を行っているという。そしてそれは叶うだろうと伊庭は思っている。

 この事案……原因は【怪異】ではあるものの、鴆毒は実在するアルカロイド系の毒──そしてその毒は現代医学では解毒できない。しかし、【怪異】に対し【怪異】で打ち消そうという試みが叶えば確かに奇跡の所業でもある。

 祓い師は世界から逸脱した存在だという法起坊の言葉を伊庭は改めて理解した。

「それらを踏まえ……お前の祓い師としての力を目覚めさせた場合、牛鬼討伐の願いは受けられぬ」
「ちょっ……ちょっと待ってくれ。そんな急な話なのか?」
「不満か?」
「いや……不満じゃないが……」
「何も直ぐに祓い師になる訳ではない。切っ掛けを用意してやるだけのことだ。が……同時にそれは祓い師として立つ最初の覚悟でもある。故に明かさぬまま牛鬼討伐の願いを先に確認したのだ」
「り、理屈は分かるが……」

 伊庭としては今回の出来事全て寝耳に水の話だ。覚悟はともかく心の準備が出来ていない。

「ふむ……では、やはり先に牛鬼討伐の話からだな。また問答になるが……只人としてのお前の覚悟と意思を言葉で示せ。勿論、祓い師になれるという先程の話は忘れろ」
「…………」
「まだ迷うか?」
「いや……分かった。その前に聞きたい。何故、人の代表を藤倉さんにしなかったんだ?」

 山道の入り口で待つ藤倉ならば祓い師としての過去があっても今は只人……しかも地元の人間である。願いを聞くのは伊庭よりも相応しい様に思えた。

「それは違うな」
「何が違うんだ?」
「藤倉桜子は自らの負い目で願うからだ。最初に牛鬼を目撃していながら祓い師になってより自ら祓うことが果たせていない。そして今回の出来事……そこには『藤倉桜子が祓い師だった頃』の願いも含まれる」

 必要なのは、牛鬼を知りそれを討伐したいという純粋な『只人目線』の意思……。だから法起坊は、生まれてより只人の視点である伊庭に何度も確認しているのである。

「……。そういうことなら……仕方無いのか」
「良し。話せ」

 小さく溜め息を点いた伊庭は少しづつ願いの原点を語り始める。

「……。俺は……」

 伊庭には幼馴染みがいた。同い年の少女は母の友人の子で、伊庭の実家の近隣に住んでいた。

 伊庭やスミジの故郷は皆が祓い師ではない。スミジの故郷でも祓い師は精々五世帯といったところ……しかも全て道祖土の血筋だ。当然、少女の家系も只人──怪異とは無縁の血筋だった。

 当時、子供だった伊庭は祓い師の存在は知っていても『胡散臭い拝み屋』の類いだと思っていた。故に興味もなく、順当に行けば伊庭は地元で就職し普通の家庭を築いていたかもしれない。

 しかし……伊庭が十一歳の時、幼馴染みの少女が行方不明となり……後に遺体で見付かった。その姿は傷一つなく、魂だけが抜けた様な状態だった。

「初めは信じられなかった。眠っているだけだと思っていたから……。でも、淡々と進む通夜や葬式を見て……あの娘が居ないってようやく実感して……」

 伊庭は人目も憚らず泣いた……。伊庭が声を上げて泣いたのは後にも先にもその時だけである。
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