姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第二十六話 只人の意志

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 それは子供の戯れだったのかもしれない。だが、幼馴染みと伊庭は互いに将来共に在ることを語る程身近な存在だった……。

「心に穴が開くってのはああいうのを言うんだな……そんな日が半月続いた。でも、ある日……親父がスミジの祖父……道祖土のジイさんに仕事を依頼しているのを偶然聞いた。そこで、あの娘を殺したのが【あやかし】だって俺は初めて知った」

 【あやかし】に因る死は事故として見逃されがちだが、道祖土が里に居る故郷でそうならなかったのも運命か……。
 伊庭が聞いたのは、【あやかし】は何処かの地から誰かに憑いて流れてきたのだろうという会話だった。

「……では、お前は【怪異】を憎み復讐する為に『対策室』に入ったのか?」
「違う……。俺は道祖土のジイさんに頼んだんだ。一緒に仇を討たせて欲しいって。そしたらジイさん、俺にゲンコツして言いやがった」

 子供に容赦なく拳骨を落とす大人気なさはさておき、スミジの祖父は伊庭の顔を正面から見据えて諭したという。

『あの娘は人として生き人として死んだ。それを人として悲しんでやるのがお前の仕事だ。ここから先はバケモノ同士の戦争よ……そこにお前の居場所はない』

 そしてスミジの祖父は、伊庭の頭を撫でながら更に言葉を続ける。

『仇は儂が討ってやるのが道理。だがな……視えぬお前はそれに囚われてはならん。お前はお前にできる生き方を見付けろ……そうでないと』

 お前の後ろで心配そうに見ている娘が安心出来んぞ?と……。

「それから道祖土のジイさんは【あやかし】を祓ったって聞いた。討滅したから完全に消えたらしいが、どのみち俺には見えなかっただろうな」
「…………」
「依頼したのは俺の親父で、あの子の遺族は何も知らない。当然感謝される訳でもないのに、道理として筋を通した頑固なジイさんに……俺は憧れたんだ」

 伊庭は祓い師の世界に触れてしまった。もう【あやかし】が居ると知らない頃には戻れなかった。寧ろ、見えない理不尽と戦う意思が強くなる一方だった。

 密かに修行を試みたが霊力は増えなかった。だから伊庭は父のツテを頼り『超法規事例対策室』に入ることにした。どんな形でも【怪異】から人を守りたかったから……。

「だから……俺は牛鬼を放置できない。今回の案件で見付かった遺体……あの人にも家族は居たんだよ。小さな子を残したまま無念にも死んだんだ。これ以上あんな思いをする人達を出したくない……。それに……」
「……何だ?」
「藤倉さんの長年の負い目も何とかしてやりたい。それも祓い師に絡む願いになるのか?」
「いや……。………。もし、祓い師になれなくとも、その意思は変わらぬか?」
「心は……読めるんだろ?」

 しばしの沈黙の末、天狗の面から笑い声が漏れてきた。

「フッフッフ。良かろう……伊庭竜仁。お前の願い、確かに聞き届けた。そして今、石鎚毘古命いしづちひこのみことより助力の許可も得た。助力は限定的ではあるが間違いなく討伐に繋がるだろう」
「そうか……」
「では、続いてお前の今後についてだ。結論から言おう……明日の討伐にお前は付いて行けぬ」
「………。それは何でだ?」
「今から行うのは霊力の強制的な呼び覚まし。だが、それを行えば目醒めた霊力は不安定になり一度使い果たしてお前は倒れる。目覚めるのは明後日となるだろう」

 それではスミジに事情を話す時間すらない……。伊庭は流石に慌てた。

「ち、ちょっと待ってくれ! それはスミジが来てからじゃダメなのか?」
「アヤツは夜明け近くまで戻らぬよ。無駄に駆け巡らせている訳でも無いのでな……」
「………??」
「まぁそれは後に当人に聞けば良かろう。という訳で、だ。伊庭竜仁……」

 法起坊は岩から腰を上げるや否や伊庭の襟首をヒョイと掴み持ち上げた。

「一度死んでこい」
「え!? ちょっ……ど、どういう……うわあぁぁぁぁぁ━━━━━っ………」

 法起坊に放り投げられた伊庭は、悲鳴を上げながら石鎚山の頂より断崖の闇へと消えていった……。


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