104 / 153
◆第六章 古き大妖◆
第二十六話 只人の意志
しおりを挟む
それは子供の戯れだったのかもしれない。だが、幼馴染みと伊庭は互いに将来共に在ることを語る程身近な存在だった……。
「心に穴が開くってのはああいうのを言うんだな……そんな日が半月続いた。でも、ある日……親父がスミジの祖父……道祖土のジイさんに仕事を依頼しているのを偶然聞いた。そこで、あの娘を殺したのが【あやかし】だって俺は初めて知った」
【あやかし】に因る死は事故として見逃されがちだが、道祖土が里に居る故郷でそうならなかったのも運命か……。
伊庭が聞いたのは、【あやかし】は何処かの地から誰かに憑いて流れてきたのだろうという会話だった。
「……では、お前は【怪異】を憎み復讐する為に『対策室』に入ったのか?」
「違う……。俺は道祖土のジイさんに頼んだんだ。一緒に仇を討たせて欲しいって。そしたらジイさん、俺にゲンコツして言いやがった」
子供に容赦なく拳骨を落とす大人気なさはさておき、スミジの祖父は伊庭の顔を正面から見据えて諭したという。
『あの娘は人として生き人として死んだ。それを人として悲しんでやるのがお前の仕事だ。ここから先はバケモノ同士の戦争よ……そこにお前の居場所はない』
そしてスミジの祖父は、伊庭の頭を撫でながら更に言葉を続ける。
『仇は視える儂が討ってやるのが道理。だがな……視えぬお前はそれに囚われてはならん。お前はお前にできる生き方を見付けろ……そうでないと』
お前の後ろで心配そうに見ている娘が安心出来んぞ?と……。
「それから道祖土のジイさんは【あやかし】を祓ったって聞いた。討滅したから完全に消えたらしいが、どのみち俺には見えなかっただろうな」
「…………」
「依頼したのは俺の親父で、あの子の遺族は何も知らない。当然感謝される訳でもないのに、道理として筋を通した頑固なジイさんに……俺は憧れたんだ」
伊庭は祓い師の世界に触れてしまった。もう【あやかし】が居ると知らない頃には戻れなかった。寧ろ、見えない理不尽と戦う意思が強くなる一方だった。
密かに修行を試みたが霊力は増えなかった。だから伊庭は父のツテを頼り『超法規事例対策室』に入ることにした。どんな形でも【怪異】から人を守りたかったから……。
「だから……俺は牛鬼を放置できない。今回の案件で見付かった遺体……あの人にも家族は居たんだよ。小さな子を残したまま無念にも死んだんだ。これ以上あんな思いをする人達を出したくない……。それに……」
「……何だ?」
「藤倉さんの長年の負い目も何とかしてやりたい。それも祓い師に絡む願いになるのか?」
「いや……。………。もし、祓い師になれなくとも、その意思は変わらぬか?」
「心は……読めるんだろ?」
しばしの沈黙の末、天狗の面から笑い声が漏れてきた。
「フッフッフ。良かろう……伊庭竜仁。お前の願い、確かに聞き届けた。そして今、石鎚毘古命より助力の許可も得た。助力は限定的ではあるが間違いなく討伐に繋がるだろう」
「そうか……」
「では、続いてお前の今後についてだ。結論から言おう……明日の討伐にお前は付いて行けぬ」
「………。それは何でだ?」
「今から行うのは霊力の強制的な呼び覚まし。だが、それを行えば目醒めた霊力は不安定になり一度使い果たしてお前は倒れる。目覚めるのは明後日となるだろう」
それではスミジに事情を話す時間すらない……。伊庭は流石に慌てた。
「ち、ちょっと待ってくれ! それはスミジが来てからじゃダメなのか?」
「アヤツは夜明け近くまで戻らぬよ。無駄に駆け巡らせている訳でも無いのでな……」
「………??」
「まぁそれは後に当人に聞けば良かろう。という訳で、だ。伊庭竜仁……」
法起坊は岩から腰を上げるや否や伊庭の襟首をヒョイと掴み持ち上げた。
「一度死んでこい」
「え!? ちょっ……ど、どういう……うわあぁぁぁぁぁ━━━━━っ………」
法起坊に放り投げられた伊庭は、悲鳴を上げながら石鎚山の頂より断崖の闇へと消えていった……。
「心に穴が開くってのはああいうのを言うんだな……そんな日が半月続いた。でも、ある日……親父がスミジの祖父……道祖土のジイさんに仕事を依頼しているのを偶然聞いた。そこで、あの娘を殺したのが【あやかし】だって俺は初めて知った」
【あやかし】に因る死は事故として見逃されがちだが、道祖土が里に居る故郷でそうならなかったのも運命か……。
伊庭が聞いたのは、【あやかし】は何処かの地から誰かに憑いて流れてきたのだろうという会話だった。
「……では、お前は【怪異】を憎み復讐する為に『対策室』に入ったのか?」
「違う……。俺は道祖土のジイさんに頼んだんだ。一緒に仇を討たせて欲しいって。そしたらジイさん、俺にゲンコツして言いやがった」
子供に容赦なく拳骨を落とす大人気なさはさておき、スミジの祖父は伊庭の顔を正面から見据えて諭したという。
『あの娘は人として生き人として死んだ。それを人として悲しんでやるのがお前の仕事だ。ここから先はバケモノ同士の戦争よ……そこにお前の居場所はない』
そしてスミジの祖父は、伊庭の頭を撫でながら更に言葉を続ける。
『仇は視える儂が討ってやるのが道理。だがな……視えぬお前はそれに囚われてはならん。お前はお前にできる生き方を見付けろ……そうでないと』
お前の後ろで心配そうに見ている娘が安心出来んぞ?と……。
「それから道祖土のジイさんは【あやかし】を祓ったって聞いた。討滅したから完全に消えたらしいが、どのみち俺には見えなかっただろうな」
「…………」
「依頼したのは俺の親父で、あの子の遺族は何も知らない。当然感謝される訳でもないのに、道理として筋を通した頑固なジイさんに……俺は憧れたんだ」
伊庭は祓い師の世界に触れてしまった。もう【あやかし】が居ると知らない頃には戻れなかった。寧ろ、見えない理不尽と戦う意思が強くなる一方だった。
密かに修行を試みたが霊力は増えなかった。だから伊庭は父のツテを頼り『超法規事例対策室』に入ることにした。どんな形でも【怪異】から人を守りたかったから……。
「だから……俺は牛鬼を放置できない。今回の案件で見付かった遺体……あの人にも家族は居たんだよ。小さな子を残したまま無念にも死んだんだ。これ以上あんな思いをする人達を出したくない……。それに……」
「……何だ?」
「藤倉さんの長年の負い目も何とかしてやりたい。それも祓い師に絡む願いになるのか?」
「いや……。………。もし、祓い師になれなくとも、その意思は変わらぬか?」
「心は……読めるんだろ?」
しばしの沈黙の末、天狗の面から笑い声が漏れてきた。
「フッフッフ。良かろう……伊庭竜仁。お前の願い、確かに聞き届けた。そして今、石鎚毘古命より助力の許可も得た。助力は限定的ではあるが間違いなく討伐に繋がるだろう」
「そうか……」
「では、続いてお前の今後についてだ。結論から言おう……明日の討伐にお前は付いて行けぬ」
「………。それは何でだ?」
「今から行うのは霊力の強制的な呼び覚まし。だが、それを行えば目醒めた霊力は不安定になり一度使い果たしてお前は倒れる。目覚めるのは明後日となるだろう」
それではスミジに事情を話す時間すらない……。伊庭は流石に慌てた。
「ち、ちょっと待ってくれ! それはスミジが来てからじゃダメなのか?」
「アヤツは夜明け近くまで戻らぬよ。無駄に駆け巡らせている訳でも無いのでな……」
「………??」
「まぁそれは後に当人に聞けば良かろう。という訳で、だ。伊庭竜仁……」
法起坊は岩から腰を上げるや否や伊庭の襟首をヒョイと掴み持ち上げた。
「一度死んでこい」
「え!? ちょっ……ど、どういう……うわあぁぁぁぁぁ━━━━━っ………」
法起坊に放り投げられた伊庭は、悲鳴を上げながら石鎚山の頂より断崖の闇へと消えていった……。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる