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◆第六章 古き大妖◆
第二十九話 師となる者
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「一度に霊力を消費した故、伊庭には休眠が必要となった訳だが……」
「何かあるんですか?」
「伊庭竜仁は霊力の調整を全く知らぬ。睡眠により回復し目覚めても持て余すのは目に見えている。だが、お前では伊庭の師にはなれまい?」
「……そうですね」
強い霊力は肉体すら強化する。調整ができない伊庭では日常生活すら儘ならないだろう。
霊力の最低限の調整は生まれながらに覚えるもの……そうでない場合、師事できる者の元で学ばねば命にさえ関わることもある。
三条家執事にして三条マリナの相棒である嘉藤は、かつて似たようなことで悩んでいた。偶然、天狗・小御嶽正真坊の目にとまり師事を受けたが、同様に伊庭にも師となる者が必要なのだ。
しかし、道祖土はかなり特殊な一族なので伊庭の指導には不向き。無流派であった藤倉の様に弟子に入る選択肢であれば別だが、伊庭は一族の流派の再興を考えている。そうなると他の祓い師では術の秘匿がある為、引き受けない可能性が高い。
現時点で頼れそうなのは三条家執事・嘉藤だが……こればかりは聞いてみるしかない。
そんなスミジの思考を読んだのか、はたまた神通力にて先を見たのかは不明だが、法起坊は一つの提案を持ち掛ける。
「伊庭竜仁をしばし預かる」
「えっ……? そ、それは……」
大天狗にして元人間である石鎚山法起坊に師事できるのであれば確かに渡りに船ではある。だが、スミジは伊庭と離れることに少し不安を覚えた。
「これは関わった者としての責務でもある。伊庭の願いは祓い師になること……実のところ、伊庭家の術は不完全な形で継承されている」
「不完全……」
「過去、伊庭家には一度火災があった。それも【あやかし】の仕業なのだが、その際に文献の一部を焼失している。ある意味では、それで良かったのだろうが」
暗殺に特化した祓い師という形は伊庭の望むものでも無い筈。これを期に新たな伊庭の流派を確立するべきだと法起坊は告げた。
「そういう訳で、だ……道祖土スミジよ。伊庭はこのまま預かる。良いな?」
「………。分かりました。でも一応、伊庭さんが起きたら確認はして下さい」
「分かっている」
結果も含めて神通力で見えているのだろう法起坊の提案……スミジは小さく溜め息を吐いた。
「ところで……」
「牛鬼については既に願いを聞き届けた。が……その前に……」
法起坊はスミジが手にしたままの水晶を指差した。
「そうでした……。これ、何の意味があったんですか?」
「お前が駆け巡った地は全て龍脈の要所だ。そして移動した地を繋げば一つの術となる。反閇の様なものだ」
反閇とは特殊な歩行によるまじないの一種。禹歩ともいう。
本来は歩行法と舞踏による術だが、法起坊は山を一つの舞台とし移動にて描かれる軌道を術式として利用したのだという。
因みにこれは、スミジが透明な石の存在に気付き移動し直すことも全て予見して用意されていたらしい。
「これによりお前の霊力は強化された。今日にも牛鬼とも戦えるだろう」
「き、今日ですか? でも、牛鬼の居場所はまだ……」
「問題ない。但し牛鬼に挑めるのはお前を含め四名のみ……それを考慮し準備を整えよ」
「あ、あと、この水晶は……」
「それは来るべき時に使うことだ。お前はこれから死闘に向かい高めた霊力を全て使い果たすだろう。それでは都合が悪かろう?」
「あ……」
元々は三条マリナの願いの為に高めた霊力……牛鬼討伐の依頼は、山で高めた霊力を使い果たす死闘となるのはスミジも予想していた。
法起坊が用意した水晶は謂わば霊力のストック。三条マリナの母を救う際に水晶に触れれば霊力を高めることができる宝具である。
但し、一度きりの限定ではあるが……。
「何かあるんですか?」
「伊庭竜仁は霊力の調整を全く知らぬ。睡眠により回復し目覚めても持て余すのは目に見えている。だが、お前では伊庭の師にはなれまい?」
「……そうですね」
強い霊力は肉体すら強化する。調整ができない伊庭では日常生活すら儘ならないだろう。
霊力の最低限の調整は生まれながらに覚えるもの……そうでない場合、師事できる者の元で学ばねば命にさえ関わることもある。
三条家執事にして三条マリナの相棒である嘉藤は、かつて似たようなことで悩んでいた。偶然、天狗・小御嶽正真坊の目にとまり師事を受けたが、同様に伊庭にも師となる者が必要なのだ。
しかし、道祖土はかなり特殊な一族なので伊庭の指導には不向き。無流派であった藤倉の様に弟子に入る選択肢であれば別だが、伊庭は一族の流派の再興を考えている。そうなると他の祓い師では術の秘匿がある為、引き受けない可能性が高い。
現時点で頼れそうなのは三条家執事・嘉藤だが……こればかりは聞いてみるしかない。
そんなスミジの思考を読んだのか、はたまた神通力にて先を見たのかは不明だが、法起坊は一つの提案を持ち掛ける。
「伊庭竜仁をしばし預かる」
「えっ……? そ、それは……」
大天狗にして元人間である石鎚山法起坊に師事できるのであれば確かに渡りに船ではある。だが、スミジは伊庭と離れることに少し不安を覚えた。
「これは関わった者としての責務でもある。伊庭の願いは祓い師になること……実のところ、伊庭家の術は不完全な形で継承されている」
「不完全……」
「過去、伊庭家には一度火災があった。それも【あやかし】の仕業なのだが、その際に文献の一部を焼失している。ある意味では、それで良かったのだろうが」
暗殺に特化した祓い師という形は伊庭の望むものでも無い筈。これを期に新たな伊庭の流派を確立するべきだと法起坊は告げた。
「そういう訳で、だ……道祖土スミジよ。伊庭はこのまま預かる。良いな?」
「………。分かりました。でも一応、伊庭さんが起きたら確認はして下さい」
「分かっている」
結果も含めて神通力で見えているのだろう法起坊の提案……スミジは小さく溜め息を吐いた。
「ところで……」
「牛鬼については既に願いを聞き届けた。が……その前に……」
法起坊はスミジが手にしたままの水晶を指差した。
「そうでした……。これ、何の意味があったんですか?」
「お前が駆け巡った地は全て龍脈の要所だ。そして移動した地を繋げば一つの術となる。反閇の様なものだ」
反閇とは特殊な歩行によるまじないの一種。禹歩ともいう。
本来は歩行法と舞踏による術だが、法起坊は山を一つの舞台とし移動にて描かれる軌道を術式として利用したのだという。
因みにこれは、スミジが透明な石の存在に気付き移動し直すことも全て予見して用意されていたらしい。
「これによりお前の霊力は強化された。今日にも牛鬼とも戦えるだろう」
「き、今日ですか? でも、牛鬼の居場所はまだ……」
「問題ない。但し牛鬼に挑めるのはお前を含め四名のみ……それを考慮し準備を整えよ」
「あ、あと、この水晶は……」
「それは来るべき時に使うことだ。お前はこれから死闘に向かい高めた霊力を全て使い果たすだろう。それでは都合が悪かろう?」
「あ……」
元々は三条マリナの願いの為に高めた霊力……牛鬼討伐の依頼は、山で高めた霊力を使い果たす死闘となるのはスミジも予想していた。
法起坊が用意した水晶は謂わば霊力のストック。三条マリナの母を救う際に水晶に触れれば霊力を高めることができる宝具である。
但し、一度きりの限定ではあるが……。
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