姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

文字の大きさ
109 / 153
◆第六章 古き大妖◆

第三十一話 椿嵐、来たる

しおりを挟む
 石鎚山から宇和島・大源寺へ戻ったスミジと藤倉。早朝にも拘らず、大源寺では多くの僧侶達が慌ただしく動き回っていた。

 一方、心源と蒼禅は本堂にて本格的な決戦準備を行っていた。急襲された昨日と違い装備や道具を念入りに準備する心源達は、スミジ達が戻ったことに笑顔を浮かべる。

「おう、戻ったか!」
「はい。お待たせしました」
「なぁに……コッチはコッチで、やるこたぁ山積みだからな……。……。で、首尾は?」
「概ねは良好、といった感じですね。その件でお話があります」
「フム……場所を変えるか」

 心源の部屋へと移動し、スミジ、藤倉、心源、蒼禅の四名のみの対話の場が用意される。

 そこでスミジはこれまでの経緯を伝えた。


 牛鬼討伐に向かえるのは最低限の人数である四名……。加えて、石鎚山法起坊は直接戦わない。飽くまで支援をして貰える、といったものだった。

「成る程な。まぁ待ち続けて気疲れするより遥かにマシだわな」
「四名……という縛りは何故でしょうか?」
「蒼禅……お前や俺ならともかく、有象無象の僧を連れて行っても犠牲が増えると踏んだのかもな。若しくは牛鬼に覚らせねぇ為か……」

 どのみち海岸沿いの住民を守る為にも僧の配置は変えられない。寧ろ実力者たる自分と蒼禅が分断されないのはありがたい、というのが心源の心境だ。

「場所も特定されたなら万々歳よ。となると、肝心な人選だが……お前は当てにして良いんだよな、道祖土スミジ?」
「ええ。その為に戻りましたので」
「これで三人だな。もう一人は……どうするよ?」

 天元明智宗の僧侶を一人加えるのが妥当な線ではある……が、ここで部屋の外から若い僧の声が掛かった。

「失礼します、心源様。お客様がいらしゃいました」
「こんな朝早くにか? 一体誰だ?」
「『対策室』の依頼により派遣されて来た祓い師だそうですが……」
「ふむ。良し……連れてきてくれ」
「承知しました」

 しばしして部屋に現れたのは五十程の女性。

 緑の迷彩柄軍服にミリタリーベスト、そしてその手には日本刀。腰には拳銃らしきものを下げている。
 一見して軍人……だが、確かに強い霊気を感じるので祓い師には違いない。

「失礼する。私の名はかけい椿姫つばき……超法規事例対策室所属・顧問。支援要請を受け加勢に来た」
「良く来て下された。私は……」
「あなたの事は知っている、心源殿。同じ祓い師だ。遠慮は要らんよ」

 この言葉に心源はニヤリと笑みを浮かべる。

「それじゃ遠慮無く……天元明智宗の僧で、俺ぁ心源……こっちは蒼禅だ。アンタのことも知ってるぜ『椿嵐つばきあらし』さんよ?」
「随分懐かしい通り名だな。老いた私には少々過分だが……」
「ハッハッハ。謙遜すんなって。アンタからは研ぎ澄ました日本刀みてぇな気配がするぜ?」

 祓い師・筧椿姫──超法規事例対策室所属の祓い師にして対策室統括顧問の女性。が、本当の所属は上位組織『護国統霊会』……現在の所属は若手育成として志願した一時的なものらしい。
 若い時分には多くの怪異を祓った人物としてその名は広く知られている。戦いの凄まじさから付いた通り名『椿嵐』は、スミジさえも耳にしたことがあった。

 そして……。

「師匠……」
「久し振りだな、桜子」
「ほ? まさか、藤倉署長の師匠だったたぁな……コイツは驚きだ」

 かつて祓い師を目指す藤倉の師を買って出た人物こそ筧だったのだ。

「……。師匠が直接いらっしゃるなら連絡をして欲しかったです」
「何……可愛い元弟子を驚かせたかった。……。元気でやっている様で安心したよ」
「はい……ありがとうございます」


 筧は藤倉に近付くとその頭にソッと触れ微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

処理中です...