姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

文字の大きさ
111 / 153
◆第六章 古き大妖◆

第三十三話 塵輪鬼

しおりを挟む
「私は前衛で刃を振るうか、または刻印呪術による後方からの銃撃……その辺りが基本戦術になる」
「フムフム……一応聞くが、前線が良いか?」
「それに関しては拘りはない。今回、最も当事者となるのは現地の者──つまり、大源寺もそれに該当するだろう。故にそちらの指示に従う」
「だ、そうだが……お前としちゃどう思うよ、道祖土?」
「私も概ね同意見ですね……でも、戦術としてなら幾つか提案が」
「おう。遠慮すんな」
「じゃあ……」

 スミジは筧を後方、自らを中距離配置を希望した。

「筧さんには狙撃による攻撃、及び全体指揮を任せた方が良いと思います。前衛は心源さんと蒼禅さんにお願いして、俺はその中間にて連携……というのが望ましいかな」

 前衛二人が疲弊や負傷した際、スミジと前衛を入れ換える。中距離では術で二人への支援も可能だろう。
 狙いが正確な狙撃は後方からの有用性が高い。加えて筧は対策室に所属し集団戦闘の指揮経験もある。

「適材適所ってヤツか……俺はそれで良いぜ?」
「私も依存はありません」

 一番危険な配置を引き受ける心源と蒼禅に臆した様子はない。寧ろ自分達だけで祓う意気込みさえ感じられる。
 祓い師としての強い覚悟か、または責任感か……。

「飽くまで最初の前衛は……ということなので、臨機応変に行きましょう。状況次第では筧さんも前衛に出て下さい。それらの判断も任せますから」
「了解した。……他にも何かあるのではないか?」
「実は、石鎚山法起坊に言われました。牛鬼の目的は『塵輪鬼じんりんき』だと……」

 【塵輪鬼じんりんき】──それは牛鬼の本体とも言える大妖。


 千八百年前の大和王朝の時代……時の天皇である仲哀なかあい天皇と神功じんぐう皇后は、九州の熊襲くまそ制圧へと向かう。その途中、休息に立ち寄った岡山の港にて熊襲に荷担した大陸の国・新羅しらぎが襲来……新羅の刺客・唐琴の操る『黒雲に乗った八つの頭を持つ牛と鬼の混ざりあった怪物』が天皇と皇后の一群を襲った。それが塵輪鬼である。

 塵輪鬼は仲哀天皇の矢にて討たれバラバラになった。しかし……その恨みを晴らす為、仲哀天皇亡き後に三韓征伐を行った神功皇后の前に現れたのが牛鬼──つまり牛鬼は塵輪鬼から生まれたのだ。

 この話は様々な解釈があるが、塵輪鬼が仲哀天皇に倒されその一部から牛鬼が生まれた……という伝承はほぼ同じだ。 

「おいおい……するってぇと、牛鬼は更に凶悪になんのかよ……」
「それは分かりません。が……牛鬼は一体じゃない可能性もあるので……」

 その言葉に筧は考察を交え意見を述べた。

「塵輪鬼単体の強さは分からないが、牛鬼が集まっただけでも強力になる。寧ろ牛鬼は集まったことをこちらに認識させ塵輪鬼としての力を底上げさせる気なのではないか?」
「それは……私達の認識を利用しようとしていると?」
「可能性の話だがな」
「…………」

 今回の牛鬼はやたらと警戒心が強く姿を見せないことも含め、知能は相当に高い。
 だが……スミジは気になっていたこともあった。

「牛鬼自身、頭が回るにしてもやり方が徹底してるんですよ。磯女なんかは牛鬼の指示だとしても、人間じみていた気がしませんか?」
「奇襲による混乱を狙ったり、警備の分散目的だったりもまぁ……言われりゃそうだな」
「もしかして裏に【咎憑とがつき】がいるんじゃないかと……」

 スミジの推測に場の空気が凍り付く。

 咎憑き──祓い師の力を悪用し呪術師となった存在。例外無く個人の思想で術を行使し道理さえも捻じ曲げる、言ってしまえば『人格破綻者』である。
 そんな存在ならば、【あやかし】とさえ結託する可能性さえ有り得る話だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

処理中です...