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◆第六章 古き大妖◆
第三十四話 決戦の刻
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しかし、この懸念については筧が否定した。
「現在、【咎憑き】は瀬戸内海近辺には居ない」
「【咎憑き】の位置が判るんですか?」
「大まかにならば、な。『対策室』は過去の事件から【咎憑き】の霊気の波長を記録している。此処に来る前に観測記録を見たが反応は無かった」
超法規事例対策室は都道府県各地に霊力を感知する機器を配備している。未完成な技術故に精度は今一つ低いが、最大で半径15㎞圏内の霊気判別が可能となっていた。
ただ……筧が過去のデータベースを調べたところ、十年程前に【咎憑き】の一人が術を使用した痕跡が観測されていたらしい。
つまり……。
「牛鬼の復活に【咎憑き】が関与している可能性は否定できない。その際に何か入知恵をした可能性もな」
「……そのせいで小賢しくなりやがったのか。本当にロクなもんじゃねぇな、【咎憑き】ってのは」
「アレも一種の【あやかし】みたいなものだと私は考えている。対峙した際はそう考えねば戦えないからな」
ともあれ、今回の牛鬼討伐に【咎憑き】が介入してくることは無さそうだとスミジは安堵した。
「【咎憑き】が居ないのであれば牛鬼に専念できる訳か……。ならば万全で挑むべきでしょう。私は準備をもう少し行ってきます」
「待て蒼禅……俺も行く。ちっと持って行きたい物がある」
討伐準備の途中だった蒼禅と心源は、立ち上り装備の相談を始めた。
祓い道具も最低限に選別して持っていかねば邪魔にしかならない。より強力、かつ使い勝手の良い物が必要になるのは確かだ。
「椿嵐も祓い道具は持ってきてんだろ?」
「私は車輌に積んである。出立までには準備しよう。桜子……手伝ってくれ」
「分かりました」
「残るは道祖土だが……」
スミジは頭を掻きながら笑いを浮かべた。
「俺の祓い道具はいつも同じなので特には。ただ一晩駆け回ってたので、出来れば少し眠りたいんですが……」
「それなら此処で寝てろ。今、毛布くらい持ってきてやるからよ」
「お手数掛けます~」
スミジは東京からの移動以来動き通し。磯女を逃さぬ為の結界、石鎚山での山中移動、何より増加した霊力を馴染ませるには眠るのが一番だ。
そしてスミジは厚意に甘え睡眠に入る。実に数秒で熟睡……その姿に心源は呆れていた。
「全く……これから大妖と一戦交えるってのに、熟睡するとは大した肝っ玉だな」
しかし、そんな心源の言葉を筧が否定する。
「大妖と戦うからこそ万全に調整するのだろう。そして、それに合わせて即時熟睡……私には真似できんことだ」
「………」
「まぁ、彼の実力の程は直ぐに判るだろう。だから、今はゆっくり眠らせてやろうじゃないか」
「ま……どのみち俺らのやるこたぁ変わらんさ」
「そうだな……」
それからスミジは刻限ギリギリまで目を覚まさなかった……。
刻限までの間、心源と蒼禅……そして筧は、自らの準備と討伐中の指揮系統についての打ち合わせを行う。
藤倉はお腹の子の安静の為帰宅を促されたが、最後まで頑として聞かなかった。最終的に筧が折れ、藤倉は指揮系統として警戒組に加わることになった。
そして刻限直前……目を覚ましたスミジは用意されていた握り飯で腹を満たす。
「良く食べるな、道祖土殿……」
「あ……皆さんの分まで無くなっちゃいます?」
「いや……量は足りるが、そういう話ではなくて」
「良かった……いやぁ、腹減ってたんですよ」
一晩山を駆け回れば確かに腹は減るだろう……と蒼禅は苦笑いしながら茶を注ぎスミジに差し出した。
「ありがとうございます」
「道祖土殿の準備は本当にそれで大丈夫なのか?」
「ええ。そもそも筆だけあれば良いので……」
茶を啜るスミジは変わらず作務衣姿。これも一応は【対あやかし用】の効果がある。加えて今回は、朱の文字が書かれた包帯が手足や身体に巻いてある。それ以外はいつもの筆のみだ。
「皆さんは……随分と重そうですね」
心源、蒼禅、共に僧兵の様な出立ち。蒼禅は磯女との戦いの際に使用していた利剣と、巨大な輪宝。心源は如何にもな薙刀と錫杖を手にしている。腰には何やら布袋が提げてあった。
二人ともその身体には縄が袈裟懸けに巻き付けてあるのも重装備な印象を受ける。
筧は軍服にブーツ、日本刀を腰に携えた装い。ミリタリーベストには弾倉と手榴弾の様なもの、肩には自動小銃AK74……。そしてもう一つ、ケースに入れられた銃らしきものを逆の肩に担いでいた。
これらは筧椿姫にのみ許可された特殊装備である。
「何せ相手は牛鬼だ。決定打に欠けては困るのでな」
大妖に挑むに十分な装備……これで準備は整った。
やがて訪れた刻限──大源寺本堂前で待つ一同の前に黒い穴が開き石鎚山法起坊が現れた。当然ながら、僧や警官達は驚きで響動めいている。
「準備は良いな?」
討伐組の全員が無言で頷く。その顔に怯えの色が見えないことを確認した法起坊は小さく頷き応えた。
「では、今から牛鬼の巣となっている無人島へ向かう。道祖土スミジから事前に聞いているだろうが、私は直接戦うことはできぬ。が……牛鬼を逃さぬ結界くらいは張ってやろう」
「御助力、感謝致します」
「礼は良い、心源よ。……。人間達よ、見事役目を果たして見せよ」
「ハッ!」
「では……行くぞ」
法起坊が姿を消した黒き穴の中へと踏み込むスミジ達……。磯女の大源寺襲来からここまで時間にして僅か一日程の出来事だが、それは藤倉にとって長年の念願でもある。
(師匠……。皆さん……どうか御無事で……)
そして遂に『大妖・牛鬼』討伐の幕が開けた──。
「現在、【咎憑き】は瀬戸内海近辺には居ない」
「【咎憑き】の位置が判るんですか?」
「大まかにならば、な。『対策室』は過去の事件から【咎憑き】の霊気の波長を記録している。此処に来る前に観測記録を見たが反応は無かった」
超法規事例対策室は都道府県各地に霊力を感知する機器を配備している。未完成な技術故に精度は今一つ低いが、最大で半径15㎞圏内の霊気判別が可能となっていた。
ただ……筧が過去のデータベースを調べたところ、十年程前に【咎憑き】の一人が術を使用した痕跡が観測されていたらしい。
つまり……。
「牛鬼の復活に【咎憑き】が関与している可能性は否定できない。その際に何か入知恵をした可能性もな」
「……そのせいで小賢しくなりやがったのか。本当にロクなもんじゃねぇな、【咎憑き】ってのは」
「アレも一種の【あやかし】みたいなものだと私は考えている。対峙した際はそう考えねば戦えないからな」
ともあれ、今回の牛鬼討伐に【咎憑き】が介入してくることは無さそうだとスミジは安堵した。
「【咎憑き】が居ないのであれば牛鬼に専念できる訳か……。ならば万全で挑むべきでしょう。私は準備をもう少し行ってきます」
「待て蒼禅……俺も行く。ちっと持って行きたい物がある」
討伐準備の途中だった蒼禅と心源は、立ち上り装備の相談を始めた。
祓い道具も最低限に選別して持っていかねば邪魔にしかならない。より強力、かつ使い勝手の良い物が必要になるのは確かだ。
「椿嵐も祓い道具は持ってきてんだろ?」
「私は車輌に積んである。出立までには準備しよう。桜子……手伝ってくれ」
「分かりました」
「残るは道祖土だが……」
スミジは頭を掻きながら笑いを浮かべた。
「俺の祓い道具はいつも同じなので特には。ただ一晩駆け回ってたので、出来れば少し眠りたいんですが……」
「それなら此処で寝てろ。今、毛布くらい持ってきてやるからよ」
「お手数掛けます~」
スミジは東京からの移動以来動き通し。磯女を逃さぬ為の結界、石鎚山での山中移動、何より増加した霊力を馴染ませるには眠るのが一番だ。
そしてスミジは厚意に甘え睡眠に入る。実に数秒で熟睡……その姿に心源は呆れていた。
「全く……これから大妖と一戦交えるってのに、熟睡するとは大した肝っ玉だな」
しかし、そんな心源の言葉を筧が否定する。
「大妖と戦うからこそ万全に調整するのだろう。そして、それに合わせて即時熟睡……私には真似できんことだ」
「………」
「まぁ、彼の実力の程は直ぐに判るだろう。だから、今はゆっくり眠らせてやろうじゃないか」
「ま……どのみち俺らのやるこたぁ変わらんさ」
「そうだな……」
それからスミジは刻限ギリギリまで目を覚まさなかった……。
刻限までの間、心源と蒼禅……そして筧は、自らの準備と討伐中の指揮系統についての打ち合わせを行う。
藤倉はお腹の子の安静の為帰宅を促されたが、最後まで頑として聞かなかった。最終的に筧が折れ、藤倉は指揮系統として警戒組に加わることになった。
そして刻限直前……目を覚ましたスミジは用意されていた握り飯で腹を満たす。
「良く食べるな、道祖土殿……」
「あ……皆さんの分まで無くなっちゃいます?」
「いや……量は足りるが、そういう話ではなくて」
「良かった……いやぁ、腹減ってたんですよ」
一晩山を駆け回れば確かに腹は減るだろう……と蒼禅は苦笑いしながら茶を注ぎスミジに差し出した。
「ありがとうございます」
「道祖土殿の準備は本当にそれで大丈夫なのか?」
「ええ。そもそも筆だけあれば良いので……」
茶を啜るスミジは変わらず作務衣姿。これも一応は【対あやかし用】の効果がある。加えて今回は、朱の文字が書かれた包帯が手足や身体に巻いてある。それ以外はいつもの筆のみだ。
「皆さんは……随分と重そうですね」
心源、蒼禅、共に僧兵の様な出立ち。蒼禅は磯女との戦いの際に使用していた利剣と、巨大な輪宝。心源は如何にもな薙刀と錫杖を手にしている。腰には何やら布袋が提げてあった。
二人ともその身体には縄が袈裟懸けに巻き付けてあるのも重装備な印象を受ける。
筧は軍服にブーツ、日本刀を腰に携えた装い。ミリタリーベストには弾倉と手榴弾の様なもの、肩には自動小銃AK74……。そしてもう一つ、ケースに入れられた銃らしきものを逆の肩に担いでいた。
これらは筧椿姫にのみ許可された特殊装備である。
「何せ相手は牛鬼だ。決定打に欠けては困るのでな」
大妖に挑むに十分な装備……これで準備は整った。
やがて訪れた刻限──大源寺本堂前で待つ一同の前に黒い穴が開き石鎚山法起坊が現れた。当然ながら、僧や警官達は驚きで響動めいている。
「準備は良いな?」
討伐組の全員が無言で頷く。その顔に怯えの色が見えないことを確認した法起坊は小さく頷き応えた。
「では、今から牛鬼の巣となっている無人島へ向かう。道祖土スミジから事前に聞いているだろうが、私は直接戦うことはできぬ。が……牛鬼を逃さぬ結界くらいは張ってやろう」
「御助力、感謝致します」
「礼は良い、心源よ。……。人間達よ、見事役目を果たして見せよ」
「ハッ!」
「では……行くぞ」
法起坊が姿を消した黒き穴の中へと踏み込むスミジ達……。磯女の大源寺襲来からここまで時間にして僅か一日程の出来事だが、それは藤倉にとって長年の念願でもある。
(師匠……。皆さん……どうか御無事で……)
そして遂に『大妖・牛鬼』討伐の幕が開けた──。
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