姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第三十五話 牛鬼の島

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 石鎚山いしづちやま法起坊ほうきぼうに導かれ、祓い師達は決戦の地へと向かう。

 暗闇を抜けその先の光へ……そうして辿り着いたのは、小さな無人島だった。

 地図にさえ載らない、岩礁と砂と僅かな緑の島の周囲は大海原──隠れ住むには確かに都合が良い。

「こんな場所に……」
「気を付けよ、かけい椿姫つばき。今はこの場に居らぬが間も無く牛鬼は戻る。それまでに準備を整えることだ」
「そうですね……」

 万全な備えで戦う為には地形の把握は必須。心源は懐からその為に必要なものを取り出した。

「【あやかし】ってのは鼻が利くのが相場だ。コイツを持ってろ」
「これは……何だ?」
こうの匂いを染み込ませた布に法術をかけた物だ。【あやかし】の鼻を誤魔化せるから腕にでも巻いておけ」
「便利だな。『対策室』にも融通して欲しいが……」
「香は伽羅きゃらだからな……高価で稀少だから数が無ぇんだよ。欲しけりゃ伽羅の融通してくれ」
「分かった。考慮しておこう」

 蒼禅は既に身に付けているらしい。心源から木綿の布を受け取ったスミジと筧は、早速腕に巻いて準備する。

「では、私からもこれを渡しておこう」

 筧がミリタリーベストから取り出したのは小型通信機。耳に装着するインカムを人数分手の平に乗せ差し出した。

 急場の連携ではやはり限界がある。声での意志疎通が可能であれば戦況は大きく変わるだろう。

「現代ならでは、という感じですね」
「そうだな。椿嵐よぉ……こういうのウチにも回してくれよ」
「一応、これは霊気による通信障害を防ぐ特注品でな。対策室に所属すれば支給するが……?」
「無茶言うなよ……連携するだけでも上は渋ってんのに」
「冗談だ。少数で良ければ後に進呈しよう」

 対策室にとって祓い師は云わば『協力者』──所属の有無を問わず【怪異】を減らすことは国の平安に繋がる。備品で恩が売れるなら安いものだ……という計算が筧にあるかは不明だ。

「道祖土からは何か無ぇのか?」
「そうですね……あ! じゃあ、顔に隈取りでも描きます? 迫力出ますよ?」
「いや、要らんわ……」

 祓い師達は今更スミジの術に頼るような装備を用意してはいないだろう。今のはせめて緊張を解そうとしたのだが、皆に苦笑されてしまった。
 唯一笑い声を漏らしたのは法起坊だった。しかし、直ぐに小さく咳払いをすると祓い師達へ向き直る。

「さて……では、私は上空にて待機している。牛鬼が現れたと同時に島に結界を張るが、戦いが終わるまでは解かぬ。次にお前達が私と会うのは帰る時だ」
「色々な御助力とお気遣い、感謝致します。神變しんへん大菩薩様」
「うむ。武運を祈る」

 法起坊は音もなく姿を消した……。

「……。さて……この筧椿姫、リーダーを拝命したので少し話をしようか。今回、通常の【あやかし祓い】と違うのはこちらが先手を打てる点だ。島の形状を把握し、より優位な状況から挑めるのは大きい。それでも大妖相手となれば命懸けとなるだろうが……」
「わかってるよ、んなこたぁな。で……具体的にはどうすんだ、椿嵐?」
「先ずは島の地形把握。それから配置の確認だ。さぁ、急ぐぞ」

 島は直径1.5Km程。海岸は殆どが岩礁で、一部のみが砂浜になっていた。島の中心に寄る程足場が小高くなり、植物も増える。が、その緑もまばらで膝丈を殆ど越えることはない。

「まともな平地は海岸側の砂浜と少し中央に入った岩場か……。まぁ海で戦うよりはマシだがな」
「一応足場確保の方法はありますが、牛鬼にバレますよね……」
「道祖土はそんなことまで出来んのか?」
「まぁ何とか……」

 呆れて肩を竦める心源。対して筧は既に状況対応を組み立て始めている。

「我々の中でこの程度の足場を苦にする者もいまい。何より道祖土殿は中継役で最も消費すると思う。温存してくれ」
「わかりました」
「私は見晴らしが良い中央の高台に陣取る。あの位置ならば島の何処に移動しても支援が可能だからな」

 後衛からの狙撃を担う筧は高台に視線を向けた後、スミジ達に告げる。

「序盤は不意打ちの狙撃でなるべく多くの霊力を削ろうと思う。心源殿と蒼禅殿は全力で挑むのではなく温存を考えつつ牛鬼の注意を引いて欲しい」
「あいよ」
「承知しました」
「道祖土殿は二人の支援をしつつ臨機応変に頼む。必要なら一度島の中央側に退避して貰っても構わない。それと……不測の事態はどんな時も起こり得る。油断だけはしてくれるな」
「わかりました」
「では、各々隠れていてくれ。戦いの火蓋は私が切ろう」

 筧は島中央の高台へと向かう。心源と蒼禅は二人一組で行動、スミジは前衛を支援するに支障の無い距離に身を置いた。


 やがて配置を済ませ十分と掛からぬ内に牛鬼が現れた。しかし、その姿は想像と大きく違っていた……。

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