姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第四十七話 赤龍巻鎧

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 その後、蒼禅は宝具の使用に霊力を費やした。自らの述べた限界である十五分を更に超え、凡そ三十分もの時間法螺貝を拭き続けたのだ。
 その間牛鬼は時折唸りや叫びを上げていたが、やがて反応が無くなった。

 今度こそ倒した……と普通の祓い師なら思うだろう。しかし、まだスミジ達の頭の中では警鐘が鳴り続けている……。

「……。済まない……限界の様だ」

 そう告げた蒼禅は汗だくだった。

 限界まで霊力を絞り出した証……その疲弊感は意識を失っても不思議ではない筈だ。蒼禅が倒れないのは過酷な鍛錬を積んだ強靭な精神力の賜物である。
 だが……霊力を出し切った以上もう足手まといになるのは必然。それを理解している蒼禅は自ら後退の意を示した。

「くっ……。我が身ながら情けない」
「いえ……。蒼禅さんの活躍は大きかった。そうでなければ私達は牛鬼より先に力尽きてますよ。それだけ牛鬼は強い」
「……後は任せる」
「はい!」

 蒼禅は心源の元へと後退。スミジと筧はその間霧散し始めた白煙の結界から目を離さない。

「それで……どう思う?」

 筧の問いにスミジは苦笑いだ。

「正直、分かりません。俺が出会った【あやかし】の中でこんなにしつこい奴は初めてなんで……」
「フフ……私もだよ」
「筧さんでも……ですか?」
「ああ。長く祓い師をやっていると強い【あやかし】とも出会う。倒した後に厄介な邪気を残すものも、捉えどころのないものとも戦った。だが、こうも倒しきれぬのは初めてだな」
「倒しきれない……か……」

 スミジの印象では、倒すだけの手応えがあるにも拘らず牛鬼の傷は軽い様な気がする。その違和感がしぶとさの元ではないかと思えてならない。

「だが、蒼禅殿のお陰で牛鬼の霊力はかなり削がれた筈だ。後は我々で仕留めきる」
「ですね……最後まで油断せずに」
「そうだな」

 法螺貝による効果の維持が終わり白煙の結界がほつれ始める。少しづつ霧散した中には想像通り未だ黒い影が残っていた。

「やはりしぶとい……」

 筧は銃口を牛鬼らしき影に向け構えた。同時にスミジは『幽玄筆』を左手逆手に持ち直す。

「ほう……? それが道祖土殿の奥の手か?」
「ええ……」

 筧も赤龍自体は既に見ている。だが、スミジが展開した龍は少し特殊な顕現になっていた。

 逆手に握った左手の甲に龍の頭……そこから肩口、更に胴、右足へと巻き付く形となっている。
 赤龍巻鎧せきりゅうかんがいの型──近接戦闘特化のスミジの奥の手。

「これをやると霊力の減りが更に早くなるので滅多にやりませんけどね……」
「確かにそれだけの圧を感じるな」
「さて……時間が惜しいので一気に行きましょう」
「了解した!」

 まだ白煙が消えぬ前に踏み出したスミジ。筧は援護する様に小銃の残弾を全て白煙の中へと掃射した。
 牛鬼らしき影は銃弾を受けて部分的に崩れるが反応が無い。それに気付いたスミジは思い切り砂を蹴りつけた。

 龍の剛力を加えた砂が散弾の様に牛鬼を襲い白煙を散らす。明らかになった牛鬼は……外側だけのもぬけの殻だ……。

「やっぱりか……!」

 踏み止まったスミジは即座に踵を返した。筧も反応し弾の切れた小銃を放り捨て腰の刀を抜き放つ。
 二人が牛鬼の気配を探ったのは地中……スミジは気配を見付け一跳びで先回りし右足で思い切り地中を踏みつけた。

 砂で吸収しきれない島を揺らす程の振動……心源と蒼禅は啞然としている。

「っ! 道祖土の技……まさかここまでたぁな!」
「……。道祖土が他の流派と協調しなかった訳が分かりました……。これじゃ道祖土は疑われる」
「邪法……ってか?」
「ええ。【あやかし】を使う術自体は珍しいものじゃありません。でも、あれは強力すぎる」

 まるで人型の【あやかし】──道祖土の流派はそれでなくとも異常なのである。
 【あやかし】を使ではなくする……確かに祓い師の世界からしても常識から外れている。

 しかし、心源は楽しげに笑った。

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