126 / 153
◆第六章 古き大妖◆
第四十八話 人にとっての『世界』
しおりを挟む
「ハッハッハ。頼もしいじゃねぇか」
「心源さん……」
「なぁ、蒼禅? 祓い師の技なんてのはやり方はどうあれ【あやかし】を祓えりゃ良いんだぜ?」
「しかし、これが人に向けられれば……」
「お前ぇ、これまで道祖土を見ていて本当にそんな心配してんのか?」
「………」
この戦いに於いてスミジを見ている蒼禅も確かに危機感はない。それでもやはり祓い師には過剰……と考えるのは蒼禅が真面目な故だろう。
心源はそれを否定せず、尚且祓い師の在り方について持論を述べる。
「堕ちる奴ってのはな、蒼禅? 力への恐れがねぇんだよ」
「恐れ……ですか?」
「ああ。【咎憑き】みてぇな連中はな……自分の行為も全て自然の摂理と考えて行動してやがるのさ」
咎憑き──道を踏み外した祓い師。人の為に闇を祓うことをやめた者達はに外道呪術師となる。
思うままにその力を行使し犯罪に手を染めるが、その内容は快楽殺人から金銭目的の強盗まで様々だ。
「アイツらは自分の行う全てに責任なんか持ちやしねぇ。そりゃあ当然だわな……結果は全部運命だと思ってやがるんだからよ。いや……ちっとばかし違うな。自分の力は世界の因果の一つ、って考えの方が近いか」
故に善悪の観念は無く、己の思想のみを元に行動する。出逢ってしまった場合、一種の自然災害と同様にその被害に巻き込まれる。被害の度合いすら運次第と言えるだろう。
「だから奴らは総じて術に対しての恐怖を持たねぇ。それでも勿論、人間には変わらねぇからな……生意気に死への恐怖や我欲はある。俺が思うに、無ぇのは人として守りたいっつう誰かなんだろうよ」
人間にとって世界とは手の届く範囲のものでしかない。地球のどこかで戦争や大事故が起ころうが、所詮は他人事であり現実感には繋がらないのである。ましてや殆どの人間は日々の暮らしに追われ見知らぬ他者に配慮する余裕など無い。
逆に言えば、人は手の届く大切な誰かを必死に守ろうとする。支え、そして支えられ心を許せる、親しく共感してくれる存在……それこそが人の失う訳にはいかない『世界』。
だが、【咎憑き】はそういったものを容易に壊す。自らの手で容赦なく『他者の世界』を壊せるのだ。当然因果応報を恐れることは無く、力を使う躊躇いも無い。
「だが、道祖土は違う。アイツは自分より俺の安全を優先しようとした。それは自分にも守る世界があるからこそ他者の世界の大切さを知ってる証だろうよ。それにな?」
「何です……?」
「気付かなかったか? アイツ、【あやかし】相手にする時でさえ躊躇いがある。顔に出すのは時間にしたら一秒も無ぇからな……もしかしたらアイツ自身気付いちゃいねぇかもな」
ほんの僅かな間ではあるが、スミジは眉を顰める時がある。大源寺にて『磯女』と戦った際も、そして牛鬼と戦う中でも心源はそれを見逃さなかった。
「アイツにとっちゃ【あやかし】さえ手の届く世界の一つなんだろうよ。それは道祖土の術に絡むことが原因かも知れんが……」
「………」
「それでも、道祖土が【あやかし】より人間を優先することは無ぇだろう。だから俺はアイツのことは心配しちゃあいねぇ」
「……。ですが、私は本山にありのままを報告はします」
「それはそれで良いんじゃねぇか? お前はお前の役割があるんだ。ホレ……牛鬼が出てくるぜ? しっかり報告する為見極めなきゃあな」
島に伝わった振動が鎮まる中、スミジの足元の砂が隆起する。弾ける様に飛び出したのは更に小さくなった牛鬼の姿……。
『おのれぇ……!』
「牛鬼。もう終わりだ。それだけ力を失えばもう勝ち目はないと分かるだろ?」
『だから大人しく封印されろ、とでも? ハハハハハ! ナメるな、愚かな祓い師共!』
「………馬鹿野郎」
「心源さん……」
「なぁ、蒼禅? 祓い師の技なんてのはやり方はどうあれ【あやかし】を祓えりゃ良いんだぜ?」
「しかし、これが人に向けられれば……」
「お前ぇ、これまで道祖土を見ていて本当にそんな心配してんのか?」
「………」
この戦いに於いてスミジを見ている蒼禅も確かに危機感はない。それでもやはり祓い師には過剰……と考えるのは蒼禅が真面目な故だろう。
心源はそれを否定せず、尚且祓い師の在り方について持論を述べる。
「堕ちる奴ってのはな、蒼禅? 力への恐れがねぇんだよ」
「恐れ……ですか?」
「ああ。【咎憑き】みてぇな連中はな……自分の行為も全て自然の摂理と考えて行動してやがるのさ」
咎憑き──道を踏み外した祓い師。人の為に闇を祓うことをやめた者達はに外道呪術師となる。
思うままにその力を行使し犯罪に手を染めるが、その内容は快楽殺人から金銭目的の強盗まで様々だ。
「アイツらは自分の行う全てに責任なんか持ちやしねぇ。そりゃあ当然だわな……結果は全部運命だと思ってやがるんだからよ。いや……ちっとばかし違うな。自分の力は世界の因果の一つ、って考えの方が近いか」
故に善悪の観念は無く、己の思想のみを元に行動する。出逢ってしまった場合、一種の自然災害と同様にその被害に巻き込まれる。被害の度合いすら運次第と言えるだろう。
「だから奴らは総じて術に対しての恐怖を持たねぇ。それでも勿論、人間には変わらねぇからな……生意気に死への恐怖や我欲はある。俺が思うに、無ぇのは人として守りたいっつう誰かなんだろうよ」
人間にとって世界とは手の届く範囲のものでしかない。地球のどこかで戦争や大事故が起ころうが、所詮は他人事であり現実感には繋がらないのである。ましてや殆どの人間は日々の暮らしに追われ見知らぬ他者に配慮する余裕など無い。
逆に言えば、人は手の届く大切な誰かを必死に守ろうとする。支え、そして支えられ心を許せる、親しく共感してくれる存在……それこそが人の失う訳にはいかない『世界』。
だが、【咎憑き】はそういったものを容易に壊す。自らの手で容赦なく『他者の世界』を壊せるのだ。当然因果応報を恐れることは無く、力を使う躊躇いも無い。
「だが、道祖土は違う。アイツは自分より俺の安全を優先しようとした。それは自分にも守る世界があるからこそ他者の世界の大切さを知ってる証だろうよ。それにな?」
「何です……?」
「気付かなかったか? アイツ、【あやかし】相手にする時でさえ躊躇いがある。顔に出すのは時間にしたら一秒も無ぇからな……もしかしたらアイツ自身気付いちゃいねぇかもな」
ほんの僅かな間ではあるが、スミジは眉を顰める時がある。大源寺にて『磯女』と戦った際も、そして牛鬼と戦う中でも心源はそれを見逃さなかった。
「アイツにとっちゃ【あやかし】さえ手の届く世界の一つなんだろうよ。それは道祖土の術に絡むことが原因かも知れんが……」
「………」
「それでも、道祖土が【あやかし】より人間を優先することは無ぇだろう。だから俺はアイツのことは心配しちゃあいねぇ」
「……。ですが、私は本山にありのままを報告はします」
「それはそれで良いんじゃねぇか? お前はお前の役割があるんだ。ホレ……牛鬼が出てくるぜ? しっかり報告する為見極めなきゃあな」
島に伝わった振動が鎮まる中、スミジの足元の砂が隆起する。弾ける様に飛び出したのは更に小さくなった牛鬼の姿……。
『おのれぇ……!』
「牛鬼。もう終わりだ。それだけ力を失えばもう勝ち目はないと分かるだろ?」
『だから大人しく封印されろ、とでも? ハハハハハ! ナメるな、愚かな祓い師共!』
「………馬鹿野郎」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる