姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第四十八話 人にとっての『世界』

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「ハッハッハ。頼もしいじゃねぇか」
「心源さん……」
「なぁ、蒼禅? 祓い師の技なんてのはやり方はどうあれ【あやかし】を祓えりゃ良いんだぜ?」
「しかし、これが人に向けられれば……」
「お前ぇ、これまで道祖土を見ていて本当にそんな心配してんのか?」
「………」

 この戦いに於いてスミジを見ている蒼禅も確かに危機感はない。それでもやはり祓い師には過剰……と考えるのは蒼禅が真面目な故だろう。
 心源はそれを否定せず、尚且祓い師の在り方について持論を述べる。

「堕ちる奴ってのはな、蒼禅? 力への恐れがねぇんだよ」
「恐れ……ですか?」
「ああ。【咎憑き】みてぇな連中はな……自分の行為も全て自然の摂理と考えて行動してやがるのさ」

 咎憑き──道を踏み外した祓い師。人の為に闇を祓うことをやめた者達はに外道呪術師となる。
 思うままにその力を行使し犯罪に手を染めるが、その内容は快楽殺人から金銭目的の強盗まで様々だ。

「アイツらは自分の行う全てに責任なんか持ちやしねぇ。そりゃあ当然だわな……結果は全部運命だと思ってやがるんだからよ。いや……ちっとばかし違うな。自分の力は世界の因果の一つ、って考えの方が近いか」

 故に善悪の観念は無く、己の思想のみを元に行動する。出逢ってしまった場合、一種の自然災害と同様にその被害に巻き込まれる。被害の度合いすら運次第と言えるだろう。

「だから奴らは総じて術に対しての恐怖を持たねぇ。それでも勿論、人間には変わらねぇからな……生意気に死への恐怖や我欲はある。俺が思うに、無ぇのは人として守りたいっつうなんだろうよ」

 人間にとって世界とは手の届く範囲のものでしかない。地球のどこかで戦争や大事故が起ころうが、所詮は他人事であり現実感には繋がらないのである。ましてや殆どの人間は日々の暮らしに追われ見知らぬ他者に配慮する余裕など無い。
 逆に言えば、人は手の届く大切な誰かを必死に守ろうとする。支え、そして支えられ心を許せる、親しく共感してくれる存在……それこそが人の失う訳にはいかない『世界』。

 だが、【咎憑き】はそういったものを容易に壊す。自らの手で容赦なく『他者の世界』を壊せるのだ。当然因果応報を恐れることは無く、力を使う躊躇いも無い。

「だが、道祖土は違う。アイツは自分より俺の安全を優先しようとした。それは自分にも守る世界があるからこそ他者の世界の大切さを知ってる証だろうよ。それにな?」
「何です……?」
「気付かなかったか? アイツ、【あやかし】相手にする時でさえ躊躇いがある。顔に出すのは時間にしたら一秒も無ぇからな……もしかしたらアイツ自身気付いちゃいねぇかもな」

 ほんの僅かな間ではあるが、スミジは眉を顰める時がある。大源寺にて『磯女』と戦った際も、そして牛鬼と戦う中でも心源はそれを見逃さなかった。

「アイツにとっちゃ【あやかし】さえ手の届く世界の一つなんだろうよ。それは道祖土の術に絡むことが原因かも知れんが……」
「………」
「それでも、道祖土が【あやかし】より人間を優先することは無ぇだろう。だから俺はアイツのことは心配しちゃあいねぇ」
「……。ですが、私は本山にありのままを報告はします」
「それはそれで良いんじゃねぇか? お前はお前の役割があるんだ。ホレ……牛鬼が出てくるぜ? しっかり報告する為見極めなきゃあな」

 島に伝わった振動が鎮まる中、スミジの足元の砂が隆起する。弾ける様に飛び出したのは更に小さくなった牛鬼の姿……。

『おのれぇ……!』
「牛鬼。もう終わりだ。それだけ力を失えばもう勝ち目はないと分かるだろ?」
『だから大人しく封印されろ、とでも? ハハハハハ! ナメるな、愚かな祓い師共!』
「………馬鹿野郎」

 
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