姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第五十話 牛鬼の姿

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『おのれぇぇえぇ……道祖土ぉ!』

 胴体を穿たれ赤龍による炎で巻かれる牛鬼……更にスミジは龍の尾が巻き付いた右足で牛鬼を蹴り飛ばす。未だ羆程の巨体を持つ牛鬼だが、赤龍の剛力が加わった蹴りに弾かれ大きく後退──筧はすかさず間合いを詰め刀の術式を展開し最大の一撃を加える。

『ガアァァァァッ!』
「滅ぶ時がきたのだ、邪妖・牛鬼よ!!」

 筧の刀が牛鬼の眉間深く突き刺さる。そして発動した術式が加わり牛鬼は内側からも炎に包まれた。
 それを確認したスミジと筧は即座に飛び退き後退……。二人は警戒を解かぬまま炎を見つめている。

「見事だ、道祖土殿……」
『いえ……信用してくれたから筧さんは囮になってくれたんでしょう?』
「フフフ……」

 筧はどこか満足そうに笑った。

 が……そこへ後方からの声が届く。

「まだだ! 炎から目を離すな!」

 蒼禅の叫びに素早く反応したスミジと筧は、更に大きく飛び退き牛鬼から距離を取った。

 一同の視線の先にある炎は煌々と燃え続けていた。討滅されているならば消えて然るべき時間……だが、炎は未だ燻ったまま……。

「くっ……。流石にいい加減にして欲しいものだな……」

 歴戦の猛者である筧でさえ思わず愚痴が溢れるしぶとさ……炎から浮かび上がる姿はいつの間にか人型へと変わっていた。やがて人影は炎の外へと歩み出る。
 そこにあるのはこれまでとは全くの別種──驚く一同の中でも心源と蒼禅の動揺が一番大きい。

「何故だ……何でテメェがその姿をしていやがる! 牛鬼!?」

 炎の中から現れたのはやはり異形……しかし、牛鬼の姿は先程までの土蜘蛛型から大きく変化を成していた。

 牛頭人体──一見してギリシャ神話の怪物ミノタウルスと見紛う姿。赤き身体はまるで古代の闘士の如き逞しき筋骨。しかし、その身丈は凡そスミジの倍はあろう巨体だった。

 牛鬼の伝承にある姿は一つではない。鯨の身体に牛の頭部のこともあれば猫の身体の場合もある。得体の知れない形状の伝承は複数存在した。
 土蜘蛛との混同は佐脇嵩之の妖怪画、そして某有名漫画によるところが大きい。

 本来の牛鬼は牛頭人体とも言われている。そしてその姿は神仏に連なる者としての姿でもあった。

 【牛頭ごず

 馬頭めずと対を為す地獄の獄卒と言われる存在。牛頭獄卒、阿傍あぼう羅刹、阿傍夜叉などと呼ばれる。

 しかし、牛頭には他にも伝承がある。それが牛頭天王──。

 牛頭天王の由来は諸説ある。薬師如来の垂迹すいじゃく(化身のようなもの)、民間伝承の蘇民将来に於ける武塔神、そして神仏習合の際に武塔神と融合した須佐之男スサノオ……そのどれもが大きな力を宿した幽世の存在。

 これまで牛鬼はその姿を牛頭と重ねられることはなかった。いや……正確には存在を同一と考える思想は非常に限定的だった、と言うべきか。
 理由として最も大きいものは、やはり佐脇嵩之や鳥山石燕などの絵や有名漫画による描写が理由だろう。

 牛頭人体としての牛鬼は地域伝承……故に姿は重なることはなかった。

『だが、我は人の世で力を増す方法を学んだ……故にこの力を得た。残念だったな、祓い師ども』

 砂地を踏みしめる牛鬼の足音はその力を物語る様に重く鈍い。立ち昇る霊気は始めの巨体型と遜色の無い圧力がビリビリと伝わって来る。

「クソッ……! そういうことか……!」

 牛鬼が人の姿で人の世に紛れたのは【怪異】としての力を増す為。その過程でインターネット掲示板を用い噂や怪談を拡げたのは牛鬼自身が認めている。

 だが、それは噂だけではなかった──。

 牛鬼は自らに関連する存在の力を取り込む為に知識を増やしたのだろう。そして辿り着いたのが牛頭人体の姿……元々牛鬼の一形態であるその姿に他の伝承との関連性を持たせたのだ。

 地獄の獄卒としての牛頭羅刹、武塔神としての複数の顕現、そしてギリシャの怪物ミノタウロスまでも含め、人の印象に根深い牛頭人体の力を取り込む……それこそが牛鬼が手に入れた存在の力。


 何のことは無い……。牛鬼は単に奥の手を隠していただけのことだった。 

 
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