姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第六十一話 牛鬼の因果

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「な……んだ、こりゃあ? コイツも道祖土の術か……?」

 心源は視界の風景が一変したことに周囲を念入りに確認している。蒼禅は問いに返す言葉さえ浮かばない様子……。やがて心源の問いに辛うじて答えたのは筧だった。

「……。恐らく違う……な。飽くまで私の推測だが……聞くか?」
「ああ……頼むわ」
「これは幽世かくりよ……いや、規模から考えれば【領域】だろう。その証拠に……気付かないか? 私達の霊力の戻りが早まっている」

 【領域】は現世うつしよに現出した疑似的な幽世……。そんな霊力に満ちた空間ともなれば存在する者の霊力も補充される、というのが筧の考えだった。

「【領域】……」
「人の力で【領域】を創ることは不可能なのは心源殿も知っているだろう。だから道祖土殿の術ではない。ただ、切っ掛けは道祖土殿にあるのは間違いない筈だ。どうやったのかまでは分からんが……」
「……。だが、【領域】ってのはもっとこう……混沌としてた気がするぜ? 今感じるのは《浄化》に近くねぇか?」
「確かに……普通の【領域】ではない。それに……あの人影……あれは【あやかし】ではない気がする……」

 奇妙な安堵と高揚を感じる筧。それは心源や蒼禅も同様らしく、先程までの焦りが消えていた。
 一同は本能的にこの戦いの結末に気付いていたのかもしれない。

 対して……牛鬼は驚愕と畏怖で混乱している。

『貴様……! まさか、息長おきなが帯比売命たらしひめか!?』

 因縁深き神代の皇后……その姿は牛鬼の見知ったものと違うが感じる神聖な霊気は同一のもの。しかし、それは【神降ろし】である。祓い師とはいえやはり人のできる所業ではない。

 だが……最早理屈ではない確信を牛鬼は感じている。そこで改めてスミジを睨め付け確認を始めた。

『道祖土……貴様、何をした!?』

 倒れたままのスミジは牛鬼へと顔を向けると力なく笑う。そして声を絞り出す様に答えた。

「お前と……同じことをやったんだよ、牛鬼……。但し、手順が違うけどな……」
『何……?』
「お前は自分を“牛頭人体”として権能を繋げた。だから牛鬼だけじゃなく牛頭獄卒、牛頭天王、武塔天神、果てはミノタウロスの存在も取り込もうとしただろう? だが、欲張りすぎて権能が不安定になった。それでも……恐ろしい力だったけどな……」

 類似の系譜や系統があっても同一のものではない。故に牛鬼は存在の力を全て取り込むことはできなかった。
 それも当然である。似ていても成り立ちが違えば別の存在──ミノタウロスと武塔天神では系譜が別モノなのだ。

 牛鬼は貪欲に力を取り込もうとしすぎたが故に統一性を失ったのである。

 それでも……十分な力を手に入れた牛鬼は時間さえ掛ければそのまま新たな存在として固定される恐れもあった。

「俺がやったのは……【箒神】と神功皇后の共通点からの転化だ。安産の神としての神性を繋いで【箒神】を呼び水にした」

 対してスミジは神性の力を撚り合わせるのではなく、繋がる糸を頼りに引き寄せた。【箒神】の神性に神功皇后が呼応するかは賭け……しかし、可能性はあるとも思っていた。
 その根拠は石鎚山法起坊の言葉──『伝承』に繋がる要素は多分に集まっていたのだ。

「恐らくこの島は牛鬼伝承のある地域から近いんだろ? お前も顕現にはその方が楽だっただろうし。加えて、引き寄せる為の言霊も良かったんだろう。そして何より……一番の繋がりはお前だよ、牛鬼……。お前が居たから神功皇后の神性は【箒神】に引かれた」
『……。ククク! 成る程……だが、貴様はもう霊力も尽き次の手は打てまい』
「そこからもう勘違いなんだよ、牛鬼……。【箒神】は確かに俺の術で顕現させた。だけどな? 神功皇后の顕現は俺の力じゃない」

 石鎚山法起坊の張った結界を【領域】に変えたのは神功皇后の神性──人は【領域】を生み出せない。つまり、神功皇后はスミジの干渉から離れた状態で顕現している。

「これは俺の術じゃない。そして姿は違うかもしれないが、お前の目の前に居るのは間違いなく神功皇后だ」

 最後にスミジは少し悲しそうに呟く。

「もうこの因果は止まらない……さよならだ、牛鬼」

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