姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第六十二話 呆気ない決着

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 スミジの声に応える様に神功皇后が動き始める。行動をさせまいとする牛鬼──しかし、その身体は見えない力に縛られ動けない。

『ぐっ……おのれぇ!』

 【領域】とはその名の通り『核となる存在の支配領域』である。景星学園の場合は呪物に引き寄せられた【怪異】が複数であった為に“不完全な領域”だったが、今回は完全なもの……故に牛鬼はその力を奪われ存分に動くことができない。

 反面、神功皇后は確かに大きな力を宿しているものの戦う力に特化している訳ではない。その本質は【神懸かり】──つまり巫女のような霊媒により力を宿すことにある。
 だが、神功皇后は伝承の中で【神懸かり】よりも高位の力【神降ろし】を行っている。神の現世へ顕現……それは奇跡の所業である。

 そして、この場で起こるのもまた【神降ろし】──。神功皇后が合掌し祈りの姿勢を見せると三つの光が出現。光は朧気な姿をした人型……が、その正確な姿までは見ることができない。


 それからの流れは、まるで夢の中に居るかのようだった……。


 三柱の光は瞬く間に動けぬ牛鬼に近付き触れるとそのまま空高く投げ飛ばしたのである。

『クソォォォォォッ! こんな……! 今の世でこんな終わり方が……! 我は力を手に入れて新たな世に────!』

 牛鬼はそのまま結界の天井に当たると光の粒となり霧散し消えた……。


 練達にして一流の祓い師達が死力を尽くし、それでも倒すことが叶わなかった大妖・牛鬼。その最期はあまりにも呆気なく、祓い師達は討ち果たせた実感さえ感じることができなかった……。

「……。終わった……のか?」

 牛鬼が消えると同時に光の三柱は消え、そして神功皇后も光にほどけ消えた。
 空は少し日が傾き赤くなり始めていた。島を覆った結界も消え、やがて上空から石鎚山法起坊が大きな翼を羽ばたかせ降りてくる。

神變しんへん大菩薩様……。牛鬼討伐は……終わったのでしょうか?」

 心源の言葉に法起坊は大きく頷いて見せた。

「うむ。祓い師達よ……良くぞ役目を果たした。これにて牛鬼による現世うつしよへの危機は去った」
「そう……ですか……。……。し、しかし、最後のあれば一体……?」
「詳しく話す前に先ず道祖土スミジの介抱を。アレは今立つことさえ叶わぬ」
「そ、そうだった! 道祖土! 無事か!?」

 蒼禅と筧は未だ復調とまでは言えないが、かなり回復を果たしていた心源は早足でスミジの元へと向かう。
 怪我で待機していた心源には皮肉にも他の者より霊力に余裕があったのだ。更に先程の神功皇后の【領域】により怪我の回復も進んだ。だからこそスミジの元へ真っ先に動けたのである。

「おい、道祖土! 生きてるよな!?」
「……。な……なんとか……生きてま~す……」

 砂に倒れ伏し手の平だけを振るスミジに心源は盛大な溜め息を吐いた。

「はぁ~……ったく、心配させやがって。……。でも、まぁ何とかなって良かったぜ。ホラ、立てるか?」
「……。さ、流石に……ちょっと無理……です……」

 助け起こそうにも心源もまた疲弊は抜けていない。ましてスミジは割と大柄であるので尚の事……。
 そんな二人に近付いた法起坊が羽団扇で払う素振りを見せると、スミジの身体はフワリと浮き近くの岩に腰を下ろす姿勢となる。

「……スミマセン」
「良い。今は回復に努めよ。さて……」

 再び羽団扇を翻し蒼禅と筧も同じように移動させた法起坊……心源にも座るよう促し、自らは一同と向かい合うよう宙で胡座をかいた。

「改めて見事だった。この場の者が一人でも足りず牛鬼討伐へ挑んでもこの結果には至らなかっただろう。死力を尽くし、心折れず戦ったからこそ現世に平穏が訪れた……誇るが良い」

 満足げな法起坊の言葉により祓い師達からはようやく安堵の表情が浮かんだ。

「それで……これで本当に終わったのでしょうか?」
「うむ。取り敢えずではあるがな」
「と、取り敢えず……?」
「落ち着くのだ、心源よ。取り敢えずというのは“今の時代は”……という意味だ」
「……。それはつまり……」
「察した様だな。牛鬼は確かに倒されたが【討滅】された訳ではない」

 討滅は存在の消滅──どれ程強大な【怪異】であっても再びの現出は相当に稀となる。今回牛鬼が復活を遂げたのも【討滅】された個体ではなく封印されていた存在の解放だった。
 そして果たされた牛鬼との決着は現世からの強制排除……牛鬼は大きく力を失っただろうものの存在が完全に消滅した訳では無い。
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