140 / 153
◆第六章 古き大妖◆
第六十二話 呆気ない決着
しおりを挟む
スミジの声に応える様に神功皇后が動き始める。行動をさせまいとする牛鬼──しかし、その身体は見えない力に縛られ動けない。
『ぐっ……おのれぇ!』
【領域】とはその名の通り『核となる存在の支配領域』である。景星学園の場合は呪物に引き寄せられた【怪異】が複数であった為に“不完全な領域”だったが、今回は完全なもの……故に牛鬼はその力を奪われ存分に動くことができない。
反面、神功皇后は確かに大きな力を宿しているものの戦う力に特化している訳ではない。その本質は【神懸かり】──つまり巫女のような霊媒により力を宿すことにある。
だが、神功皇后は伝承の中で【神懸かり】よりも高位の力【神降ろし】を行っている。神の現世へ顕現……それは奇跡の所業である。
そして、この場で起こるのもまた【神降ろし】──。神功皇后が合掌し祈りの姿勢を見せると三つの光が出現。光は朧気な姿をした人型……が、その正確な姿までは見ることができない。
それからの流れは、まるで夢の中に居るかのようだった……。
三柱の光は瞬く間に動けぬ牛鬼に近付き触れるとそのまま空高く投げ飛ばしたのである。
『クソォォォォォッ! こんな……! 今の世でこんな終わり方が……! 我は力を手に入れて新たな世に────!』
牛鬼はそのまま結界の天井に当たると光の粒となり霧散し消えた……。
練達にして一流の祓い師達が死力を尽くし、それでも倒すことが叶わなかった大妖・牛鬼。その最期はあまりにも呆気なく、祓い師達は討ち果たせた実感さえ感じることができなかった……。
「……。終わった……のか?」
牛鬼が消えると同時に光の三柱は消え、そして神功皇后も光に解け消えた。
空は少し日が傾き赤くなり始めていた。島を覆った結界も消え、やがて上空から石鎚山法起坊が大きな翼を羽ばたかせ降りてくる。
「神變大菩薩様……。牛鬼討伐は……終わったのでしょうか?」
心源の言葉に法起坊は大きく頷いて見せた。
「うむ。祓い師達よ……良くぞ役目を果たした。これにて牛鬼による現世への危機は去った」
「そう……ですか……。……。し、しかし、最後のあれば一体……?」
「詳しく話す前に先ず道祖土スミジの介抱を。アレは今立つことさえ叶わぬ」
「そ、そうだった! 道祖土! 無事か!?」
蒼禅と筧は未だ復調とまでは言えないが、かなり回復を果たしていた心源は早足でスミジの元へと向かう。
怪我で待機していた心源には皮肉にも他の者より霊力に余裕があったのだ。更に先程の神功皇后の【領域】により怪我の回復も進んだ。だからこそスミジの元へ真っ先に動けたのである。
「おい、道祖土! 生きてるよな!?」
「……。な……なんとか……生きてま~す……」
砂に倒れ伏し手の平だけを振るスミジに心源は盛大な溜め息を吐いた。
「はぁ~……ったく、心配させやがって。……。でも、まぁ何とかなって良かったぜ。ホラ、立てるか?」
「……。さ、流石に……ちょっと無理……です……」
助け起こそうにも心源もまた疲弊は抜けていない。ましてスミジは割と大柄であるので尚の事……。
そんな二人に近付いた法起坊が羽団扇で払う素振りを見せると、スミジの身体はフワリと浮き近くの岩に腰を下ろす姿勢となる。
「……スミマセン」
「良い。今は回復に努めよ。さて……」
再び羽団扇を翻し蒼禅と筧も同じように移動させた法起坊……心源にも座るよう促し、自らは一同と向かい合うよう宙で胡座をかいた。
「改めて見事だった。この場の者が一人でも足りず牛鬼討伐へ挑んでもこの結果には至らなかっただろう。死力を尽くし、心折れず戦ったからこそ現世に平穏が訪れた……誇るが良い」
満足げな法起坊の言葉により祓い師達からはようやく安堵の表情が浮かんだ。
「それで……これで本当に終わったのでしょうか?」
「うむ。取り敢えずではあるがな」
「と、取り敢えず……?」
「落ち着くのだ、心源よ。取り敢えずというのは“今の時代は”……という意味だ」
「……。それはつまり……」
「察した様だな。牛鬼は確かに倒されたが【討滅】された訳ではない」
討滅は存在の消滅──どれ程強大な【怪異】であっても再びの現出は相当に稀となる。今回牛鬼が復活を遂げたのも【討滅】された個体ではなく封印されていた存在の解放だった。
そして果たされた牛鬼との決着は現世からの強制排除……牛鬼は大きく力を失っただろうものの存在が完全に消滅した訳では無い。
『ぐっ……おのれぇ!』
【領域】とはその名の通り『核となる存在の支配領域』である。景星学園の場合は呪物に引き寄せられた【怪異】が複数であった為に“不完全な領域”だったが、今回は完全なもの……故に牛鬼はその力を奪われ存分に動くことができない。
反面、神功皇后は確かに大きな力を宿しているものの戦う力に特化している訳ではない。その本質は【神懸かり】──つまり巫女のような霊媒により力を宿すことにある。
だが、神功皇后は伝承の中で【神懸かり】よりも高位の力【神降ろし】を行っている。神の現世へ顕現……それは奇跡の所業である。
そして、この場で起こるのもまた【神降ろし】──。神功皇后が合掌し祈りの姿勢を見せると三つの光が出現。光は朧気な姿をした人型……が、その正確な姿までは見ることができない。
それからの流れは、まるで夢の中に居るかのようだった……。
三柱の光は瞬く間に動けぬ牛鬼に近付き触れるとそのまま空高く投げ飛ばしたのである。
『クソォォォォォッ! こんな……! 今の世でこんな終わり方が……! 我は力を手に入れて新たな世に────!』
牛鬼はそのまま結界の天井に当たると光の粒となり霧散し消えた……。
練達にして一流の祓い師達が死力を尽くし、それでも倒すことが叶わなかった大妖・牛鬼。その最期はあまりにも呆気なく、祓い師達は討ち果たせた実感さえ感じることができなかった……。
「……。終わった……のか?」
牛鬼が消えると同時に光の三柱は消え、そして神功皇后も光に解け消えた。
空は少し日が傾き赤くなり始めていた。島を覆った結界も消え、やがて上空から石鎚山法起坊が大きな翼を羽ばたかせ降りてくる。
「神變大菩薩様……。牛鬼討伐は……終わったのでしょうか?」
心源の言葉に法起坊は大きく頷いて見せた。
「うむ。祓い師達よ……良くぞ役目を果たした。これにて牛鬼による現世への危機は去った」
「そう……ですか……。……。し、しかし、最後のあれば一体……?」
「詳しく話す前に先ず道祖土スミジの介抱を。アレは今立つことさえ叶わぬ」
「そ、そうだった! 道祖土! 無事か!?」
蒼禅と筧は未だ復調とまでは言えないが、かなり回復を果たしていた心源は早足でスミジの元へと向かう。
怪我で待機していた心源には皮肉にも他の者より霊力に余裕があったのだ。更に先程の神功皇后の【領域】により怪我の回復も進んだ。だからこそスミジの元へ真っ先に動けたのである。
「おい、道祖土! 生きてるよな!?」
「……。な……なんとか……生きてま~す……」
砂に倒れ伏し手の平だけを振るスミジに心源は盛大な溜め息を吐いた。
「はぁ~……ったく、心配させやがって。……。でも、まぁ何とかなって良かったぜ。ホラ、立てるか?」
「……。さ、流石に……ちょっと無理……です……」
助け起こそうにも心源もまた疲弊は抜けていない。ましてスミジは割と大柄であるので尚の事……。
そんな二人に近付いた法起坊が羽団扇で払う素振りを見せると、スミジの身体はフワリと浮き近くの岩に腰を下ろす姿勢となる。
「……スミマセン」
「良い。今は回復に努めよ。さて……」
再び羽団扇を翻し蒼禅と筧も同じように移動させた法起坊……心源にも座るよう促し、自らは一同と向かい合うよう宙で胡座をかいた。
「改めて見事だった。この場の者が一人でも足りず牛鬼討伐へ挑んでもこの結果には至らなかっただろう。死力を尽くし、心折れず戦ったからこそ現世に平穏が訪れた……誇るが良い」
満足げな法起坊の言葉により祓い師達からはようやく安堵の表情が浮かんだ。
「それで……これで本当に終わったのでしょうか?」
「うむ。取り敢えずではあるがな」
「と、取り敢えず……?」
「落ち着くのだ、心源よ。取り敢えずというのは“今の時代は”……という意味だ」
「……。それはつまり……」
「察した様だな。牛鬼は確かに倒されたが【討滅】された訳ではない」
討滅は存在の消滅──どれ程強大な【怪異】であっても再びの現出は相当に稀となる。今回牛鬼が復活を遂げたのも【討滅】された個体ではなく封印されていた存在の解放だった。
そして果たされた牛鬼との決着は現世からの強制排除……牛鬼は大きく力を失っただろうものの存在が完全に消滅した訳では無い。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる