姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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◆第六章 古き大妖◆

第六十八話 師弟のかたち

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 上機嫌のアカリは直ぐ様法起坊へのもてなしを始める。接客テーブルには主に甘味が並ぶ。

「フゥ……美味い。これは道祖土スミジからも貰った……」
「ロイヤルミルクティーです。スミジさんが山で差し上げたら喜んでいたと聞いたので」
「うむ。……。これは?」
「ミルクレープとティラミスケーキです。あと、これは……」

 所狭しと並ぶ茶菓子。“あれ? 店にあるもの全部出してる?”とスミジは思ったが、相手は神とほほ同義の存在なのでこの程度では寧ろ足りないかとも考えた。

 しばらくアカリと甘味談議をしていた石槌山法起坊。すっかり満足したらしくアカリと自撮り写真まで撮っている……。

「ア、アカリちゃん……そろそろバイトも終わりの時間だよ~?」
「え~……もう少しお話ししたいですよ~」
「うむ……。しかしながら、道祖土スミジの言う通りだろう。名残惜しいがその身の安全の為にも帰宅することだ」
「また……会えますか?」
「いつか茶を相伴に来るとしよう。その時を楽しみにしているぞ?」
「はい!」

 その言葉でアカリは満足気に帰路へと着いた。

「フッフッフ……。何とも不思議な娘よ」
「アハハ……。物怖じしない娘なんです」
「さて……それでは本題に戻るとするか」

 石槌山の試練により霊力に覚醒した伊庭だったが、眠り続け目を覚ましたのは昨日のこと……。それから法起坊は牛鬼討伐の顛末を伝えたそうだ。
 そこで改めて霊力に目覚めた伊庭の助力を提案し石槌山に残るかの意志を確認……。伊庭は僅かに迷った様だが直ぐに残ることを嘆願したという。

「……。修行……どのくらい掛かりそうですか?」
「霊力操作の基礎と幾つかの術を修得させるまでに半年……といったところか。祓い師の力は殆ど血に由来する。伊庭家も例には漏れぬ故その後は独力での修練でも問題は無かろう」
「でも、実戦経験が……」
「その点は宴の夜にて筧椿姫かけいつばきに確認した。考慮すると言っていたので問題はあるまい。あの者ならば信用できよう?」
「はい。それなら安心ですね」

 伊庭が祓い師となった場合、やはり組織への所属が好ましい。筧の元でならば適度な祓い仕事を割り振られ無理をすることも無いと思われる。

 そもそも無所属の祓い師は単身の仕事が多く危険と隣り合わせ……駆け出しの祓い師には向かない。

「それで……伊庭さん、何か言ってましたか?」
「“直ぐに追い付くから待ってろ”……だそうだ。良いものだな、友というものは」
「……はい」

 役割は違えど共に【怪異】に立ち向かった同郷の友人……スミジは寂しくもあり、同時にその願いが叶ったことを喜ばしくも思う。

「現在、伊庭には霊気操作の為の瞑想をさせている。そろそろ戻り様子を見るとしよう」
「伊庭さんのこと、宜しくお願いします」
「うむ。では……」
「あ……。良かったらコレ、お土産……」
「頂こう」

 まだ残っていた甘味一式を菓子箱に入れ手渡すと法起坊は満足気に頷いた。そして『天狗の抜け穴』を通り懐覧堂から姿を消した。


 その翌日、正午──続けての来客があった。来店したのは天元明智宗の僧、賢雲である。

「依頼をした身で礼が遅れた。済まぬな」
「いえ。賢雲さんが多忙なのは理解してますので」

 賢雲は自らが住職を熟す寺院の仕事に加え、天元明智宗の管理下にある関東の封印や結界を守る役割がある。更には弟子の育成と祓い仕事──何処かの売れない画家、兼美術商のように暇ではない。

「昔はもう少し余裕があったのだがな……。実は牛鬼に関しては因縁もあった。他者に任せるのも気が引けたが祓ってくれたようで安堵しておる」
「因縁……ですか?」
「うむ。十年程前に牛鬼の分体とやりあったが逃げられた。あの時は少女の命が優先だった為に手傷を負ったのも災いした」
「それって……」 

 十年前に藤倉桜子が海沿いで怪異に襲われた事件……その際に助けに入った祓い師は傷を負ったという。それが賢雲だったという事実はスミジを驚かせるには充分だった。

「ほぉ~……。あの少女は警察署長に……」
「ええ。霊力に目醒めて祓い師に……その後に霊力喪失したそうですが牛鬼を何とかしたかったんでしょうね」
「過去の縁が今回の適切な対応に繋がった……か。それもまた仏の御心か……」
「…………」

 藤倉にとっての憧れの祓い師が賢雲だった、というのも確かに不思議な縁である。

 というより、恐らく筧は賢雲が藤倉を救った祓い師であることは調査していた筈……。しかし、藤倉は賢雲のことを知らない様子だった。

 そんなスミジの疑問に賢雲は小さく笑う。

「弟子に取ったならば余計なことは伝えまい。天元明智宗は他流派との交わりをあまり良く思わぬからな……。儂と関わることで藤倉殿があらぬ疑いを掛けられぬとも限らぬ」

 術の秘密を狙い近付いたと勘繰られ批難されては藤倉が傷付く……故の隠匿。それもまた筧の師としての配慮なのだろう。

「心源さんはその辺り気にしない人でしたね……」
「アレは儂の弟子だ。そんな些末なことは気にせんよ」
「賢雲さんのお弟子さんだったんですか!?」
「ああ。今となってはもう昔の話だが……」
「道理で……何となく似てる気がしました。纏う空気というか度量というか……」
「ハッハッハ。口は少々悪いがな……優秀だったろう?」
「ええ……お陰で命拾いしました」


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