姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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第七章 イコク ノ ハライシ

第二話 もう一つの副業

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 御門が向かった先は渋谷にある七階建ての雑居ビル。一階は喫茶店になっていて仄かなコーヒーの香りが漂っている。
 御門は喫茶店の中で買い物をした後、脇の狭い通路を奥へ進みエレベーターでビルの二階へと向かう。

 二階は商業テナントが存在していて飲食、占い、会計事務所など職種を問わず店舗が並んでいた。そんな中を御門は勝手知ったると言わんばかりに奥へと進んでゆく。

 最奥テナントの入り口のドアには『24時間営業!リサイクルショップ・ドワーフ 買い取り専用窓口』という看板が備え付けられていた。

「お疲れ~っス」

 自動ドアが開き御門は挨拶と共に中へと踏み入る。店舗入り口はやや広い空間が確保されていて、五人程が座れる黒革張りのソファーが窓際の壁に置かれていた。反対側の壁には自動販売機が二つ設置されていることから待合室であることが判る。
 正面にはスチール製の壁にポリカーボネート製の仕切りが為されており、受け付けの位置には小包みが通る程度の四角い穴が空いていた。

「店長。お疲れさまです」

 御門の姿を確認した受付係は直ぐ様横の扉の鍵を開け奥へと招き入れた。そう……御門の副業の一つはリサイクルショップである。

 この店舗は買い取り専門の窓口で、品物販売は通販が主軸となっている。厳重な施錠は貴金属の査定・買い取りも扱っている故の強盗対策……。といっても、この店には御門が術による防犯対策を行っているので現在までコレといった騒動は無い。 

 そんな事務所内では三人の従業員が働いていた。それぞれ作業をしていたが手を止め御門の前に並ぶ。

「畏まらなくて良いっていつも言ってるっしょ。俺は店長ってよりオーナーであって、店は皆で平等な立場ってことになってんだからさ」
「そうは言っても私達は御門店長に拾われた身ですし……」
「ストーップ! そういうのは無し! それより皆、朝飯食った? コレ、差し入れだから食ってね~」

 それは一階で買ってきたサンドイッチとコーヒーの差し入れ。店員達はとても喜んだ。

 リサイクルショップの店員は御門を除き五名存在する。先程受付を行っていたのはまだ社会人になって間もないような若い女性だった。
 彼女の名は五十嵐早紀。五十嵐は大学在学中に悪い先輩から詐欺に掛かけられた過去がある。少なくない借金を背負わされ、その返済の為に暴力団に風俗店を強要されそうになったところを御門に救われた。

 事務方の一人はタイ人でプリチャ・タナワット。三十代シングルマザーの彼女は、日本人と結婚していたが働き手の夫を喪い仕事を探していた。子供が居る為に働く時間の調整が難しく、外国人という身の上からも就職が決まらず生活が困窮していた。彼女はホストクラブ店長と知己だったらしく話を聞いた御門が雇うことになった。

 もう一人の事務はアメリカ人のユアン・モーリス。四十半ばの彼は故郷で従軍していたがPTSD(心的外傷後ストレス障害)により退役。療養後、慰安旅行の中で日本に辿り着いた。
 財産を使い果たし親の形見の時計を売ろうと店に来訪した際、偶然居合わせ事情を聞いた御門が居酒屋に誘い意気投合。そのまま資金が貯まるまでという契約で従業員となった。

 他にもニ名、夜間担当の従業員が居る。彼らもまた社会的に苦労した身の上から御門の元で働くことになった者達である。


 御門は慈善家ではない。ただ自らも苦労を知るが故に手を差し延べずには居られなかったのである。

「ハイハ~イ。食べながらで良いから聞いて~。皆、何か問題はあった?」
「いえ……特には。あ。そう言えば店長が言ってた【何度も返ってくる品】と【気持ち悪い品】が出ました」
「マジ? それって何時?」
「丁度、昨日の夜分みたいですよ」
「で、品物は?」
「言い付け通り奥の部屋の金庫の中です」
「流っ石、早紀ちゃん。仕事できるねぇ」

 御門に褒められた五十嵐は、はにかむ笑顔を見せた。

「じゃあ、俺は奥でちょっち品物確認すっからさ。終わるまで入らないように」
「では、急用の時は電話しますので」
「悪いね~。ヨロシク~」

 事務室の奥にあるのは物置きに使われている部屋。一応、社長室も兼ねているので机と金庫が置かれている。金庫は大小二つあり、小さいものは売上の管理用に使われていた。
 そして大きい金庫は所謂【曰く付き】の品物を収めるのに使用している。

 【曰く付き】の品は当然普通の人間では判断が付かない。そこで御門は従業員でも判る基準を付け金庫に収めるように指示をしていた。それが【何度も帰ってくる品】と【気持ちが悪い品】だった。



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