姫国あやかし絵封録

蒼村嬉享

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第七章 イコク ノ ハライシ

第四話 生霊の青年

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「え~っと……掛け軸かな?」

 細長い木製の箱は丁度掛け軸を納める程の大きさ。スミジにでも売り付けようかと御門が箱を開くと、箱に合わせた紫色の細長い布袋が入っていた。

「ありゃあ……これは刀剣か? しかも呪物……」

 袋から取り出し確認すれば中から現れたのは白鞘白拵えの短刀。鞘や鍔の装飾はそれだけで芸術品としての価値は高いと判る。
 御門は脇差しの目釘を外し刀の銘を確認した。

めいは無し……。先が両刃造りで反りが無くなかごが長い……ってことは鎧通しだな。小鋒の大互の乱れ波紋。地景、湯走り、飛焼……ってことは相州そうしゅう伝か?」

 相州伝は鎌倉時代に各地の刀匠達を集めて発展した流派である。『新藤五国光』『五郎入道正宗』が有名な日本刀の一門。もし、正確な鑑定にかけ認定されれば数百万円になると思われる。

「随分な代物が来たな……。どれ……ちっと覗いて見るか」

 御門が事務机の引き出しの鍵を開け取り出した赤い革張りの木箱。中には楕円形の銀縁の鏡が収められていた。鏡の端にはやはり金の鎖が取り付けられており、御門はそれを短刀に絡める。
 しばらくすると鏡には色とりどりの模様が浮かび上がる。

「……。成る程ねぇ……だから呪物か」

 霊力を持つ御門にはその模様が記録の様に映っている。どうやら戦国の頃に恋人を殺された女性が短刀を用い自害……元凶となる一族へ呪いを残したのが経緯らしい。

「……。で、その一族も戦国の世の倣いで滅亡か。満足かい、アンタ?」

 事務机の脇にはいつの間にか着物の女性が悲しげな表情で立っていた。

 望み通り恨みを晴らしたものの呪詛として短刀に取り憑いている為に成仏することも叶わない。無関係な者の手に渡って不幸を振り撒くことも止められず、とうとう流れ流れて御門の元へ辿り着いた。

 だが、【あやかし】と化さなかったのは想い人への心の強さなのだろう。御門は大きな溜め息を吐き女性へ向き直った。

「今からアンタを解放してやる。対価はこの短刀……良いな?」

 女性の霊は少し困った表情をしている。

「大丈夫、大丈夫。こう見えても俺っち有能なんだぜ? 任せておきなって」

 金と銀の鎖を交互に短刀に絡めた御門はほんの少しだけ霊力を込める。すると短刀と女性を繋ぐ黒い糸が浮かび上がった。
 御門がそれをスコルに噛み千切らせると女性は光を放ちつつ姿が薄れ始めた。

「人を恨んだら幸せになっちゃいけない……何てこたないんだ。アンタはアンタの道理で思いを遂げただけだしな。それとな……アンタの想い人が今何処を生きているかは分からない。けど、それだけ想ってるなら何回か生まれ変わればまた逢える筈だぜ? だから安心して行きな」

 女性の霊は御門に深くお辞儀した後、微笑みながら姿を消した。

「これで二つ目終わり~、と。一つ目は損だったけど二つ目は大儲けだな」

 呪詛を取り払われた状態の良い短刀。これは店の経営には大きな利益である。

 そして御門は最後の一つの【曰く付き】である古びたギターに手を伸ばし事務机へ置いた。

「待たせたな。お前が一番手間掛かりそうだったんで後回しにした。話したいことがあるなら聞くぜ?」

 ギターが置かれた事務机の向こう側に視線を向ける御門。そこには如何にもロックに憧れた金髪の若者が立っていた。

『アンタ、俺が見えるのか?』
「そらもうバッチリな。俺ってそういう仕事が本職だし」
『なぁ。俺、何でこんなことになってんだろ? 気付いたら誰からも見えないみたいで……』
「お前、名前は?」
『君嶋浩司』
「キミシマコウジね。歳は?」
『二十歳だ』
「オッケー。ちょっと待ってろ」

 携帯端末を取り出した御門は再び情報屋の宇喜多へ連絡を取る。折り返しで届いたメールには君嶋浩司の情報がズラリと並んでいる。

『……こ、個人情報なのにこんなにダダ漏れなのか?』
「裏社会の情報屋だぞ? 勝っちゃんの手に掛かれば総理の不倫相手のホクロの数まで分かる」
『…………』
「え~っと……何々? ……ああ、やっぱりな。良かったな。お前、死んでねぇってよ」
『え……?』
「所謂、生霊ってヤツだ。だけど油断すんなよ? ギターに憑いてるってことは無意識に避難したってこった。つまり、お前は何かトラブルに巻き込まれて意識不明になる怪我をした。その原因が何か思い出せないと目覚めても狙われる可能性もあるぜ?」
『…………』
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