152 / 153
第七章 イコク ノ ハライシ
第四話 生霊の青年
しおりを挟む
「え~っと……掛け軸かな?」
細長い木製の箱は丁度掛け軸を納める程の大きさ。スミジにでも売り付けようかと御門が箱を開くと、箱に合わせた紫色の細長い布袋が入っていた。
「ありゃあ……これは刀剣か? しかも呪物……」
袋から取り出し確認すれば中から現れたのは白鞘白拵えの短刀。鞘や鍔の装飾はそれだけで芸術品としての価値は高いと判る。
御門は脇差しの目釘を外し刀の銘を確認した。
「銘は無し……。先が両刃造りで反りが無く茎が長い……ってことは鎧通しだな。小鋒の大互の乱れ波紋。地景、湯走り、飛焼……ってことは相州伝か?」
相州伝は鎌倉時代に各地の刀匠達を集めて発展した流派である。『新藤五国光』『五郎入道正宗』が有名な日本刀の一門。もし、正確な鑑定にかけ認定されれば数百万円になると思われる。
「随分な代物が来たな……。どれ……ちっと覗いて見るか」
御門が事務机の引き出しの鍵を開け取り出した赤い革張りの木箱。中には楕円形の銀縁の鏡が収められていた。鏡の端にはやはり金の鎖が取り付けられており、御門はそれを短刀に絡める。
しばらくすると鏡には色とりどりの模様が浮かび上がる。
「……。成る程ねぇ……だから呪物か」
霊力を持つ御門にはその模様が記録の様に映っている。どうやら戦国の頃に恋人を殺された女性が短刀を用い自害……元凶となる一族へ呪いを残したのが経緯らしい。
「……。で、その一族も戦国の世の倣いで滅亡か。満足かい、アンタ?」
事務机の脇にはいつの間にか着物の女性が悲しげな表情で立っていた。
望み通り恨みを晴らしたものの呪詛として短刀に取り憑いている為に成仏することも叶わない。無関係な者の手に渡って不幸を振り撒くことも止められず、とうとう流れ流れて御門の元へ辿り着いた。
だが、【あやかし】と化さなかったのは想い人への心の強さなのだろう。御門は大きな溜め息を吐き女性へ向き直った。
「今からアンタを解放してやる。対価はこの短刀……良いな?」
女性の霊は少し困った表情をしている。
「大丈夫、大丈夫。こう見えても俺っち有能なんだぜ? 任せておきなって」
金と銀の鎖を交互に短刀に絡めた御門はほんの少しだけ霊力を込める。すると短刀と女性を繋ぐ黒い糸が浮かび上がった。
御門がそれをスコルに噛み千切らせると女性は光を放ちつつ姿が薄れ始めた。
「人を恨んだら幸せになっちゃいけない……何てこたないんだ。アンタはアンタの道理で思いを遂げただけだしな。それとな……アンタの想い人が今何処を生きているかは分からない。けど、それだけ想ってるなら何回か生まれ変わればまた逢える筈だぜ? だから安心して行きな」
女性の霊は御門に深くお辞儀した後、微笑みながら姿を消した。
「これで二つ目終わり~、と。一つ目は損だったけど二つ目は大儲けだな」
呪詛を取り払われた状態の良い短刀。これは店の経営には大きな利益である。
そして御門は最後の一つの【曰く付き】である古びたギターに手を伸ばし事務机へ置いた。
「待たせたな。お前が一番手間掛かりそうだったんで後回しにした。話したいことがあるなら聞くぜ?」
ギターが置かれた事務机の向こう側に視線を向ける御門。そこには如何にもロックに憧れた金髪の若者が立っていた。
『アンタ、俺が見えるのか?』
「そらもうバッチリな。俺ってそういう仕事が本職だし」
『なぁ。俺、何でこんなことになってんだろ? 気付いたら誰からも見えないみたいで……』
「お前、名前は?」
『君嶋浩司』
「キミシマコウジね。歳は?」
『二十歳だ』
「オッケー。ちょっと待ってろ」
携帯端末を取り出した御門は再び情報屋の宇喜多へ連絡を取る。折り返しで届いたメールには君嶋浩司の情報がズラリと並んでいる。
『……こ、個人情報なのにこんなにダダ漏れなのか?』
「裏社会の情報屋だぞ? 勝っちゃんの手に掛かれば総理の不倫相手のホクロの数まで分かる」
『…………』
「え~っと……何々? ……ああ、やっぱりな。良かったな。お前、死んでねぇってよ」
『え……?』
「所謂、生霊ってヤツだ。だけど油断すんなよ? ギターに憑いてるってことは無意識に避難したってこった。つまり、お前は何かトラブルに巻き込まれて意識不明になる怪我をした。その原因が何か思い出せないと目覚めても狙われる可能性もあるぜ?」
『…………』
細長い木製の箱は丁度掛け軸を納める程の大きさ。スミジにでも売り付けようかと御門が箱を開くと、箱に合わせた紫色の細長い布袋が入っていた。
「ありゃあ……これは刀剣か? しかも呪物……」
袋から取り出し確認すれば中から現れたのは白鞘白拵えの短刀。鞘や鍔の装飾はそれだけで芸術品としての価値は高いと判る。
御門は脇差しの目釘を外し刀の銘を確認した。
「銘は無し……。先が両刃造りで反りが無く茎が長い……ってことは鎧通しだな。小鋒の大互の乱れ波紋。地景、湯走り、飛焼……ってことは相州伝か?」
相州伝は鎌倉時代に各地の刀匠達を集めて発展した流派である。『新藤五国光』『五郎入道正宗』が有名な日本刀の一門。もし、正確な鑑定にかけ認定されれば数百万円になると思われる。
「随分な代物が来たな……。どれ……ちっと覗いて見るか」
御門が事務机の引き出しの鍵を開け取り出した赤い革張りの木箱。中には楕円形の銀縁の鏡が収められていた。鏡の端にはやはり金の鎖が取り付けられており、御門はそれを短刀に絡める。
しばらくすると鏡には色とりどりの模様が浮かび上がる。
「……。成る程ねぇ……だから呪物か」
霊力を持つ御門にはその模様が記録の様に映っている。どうやら戦国の頃に恋人を殺された女性が短刀を用い自害……元凶となる一族へ呪いを残したのが経緯らしい。
「……。で、その一族も戦国の世の倣いで滅亡か。満足かい、アンタ?」
事務机の脇にはいつの間にか着物の女性が悲しげな表情で立っていた。
望み通り恨みを晴らしたものの呪詛として短刀に取り憑いている為に成仏することも叶わない。無関係な者の手に渡って不幸を振り撒くことも止められず、とうとう流れ流れて御門の元へ辿り着いた。
だが、【あやかし】と化さなかったのは想い人への心の強さなのだろう。御門は大きな溜め息を吐き女性へ向き直った。
「今からアンタを解放してやる。対価はこの短刀……良いな?」
女性の霊は少し困った表情をしている。
「大丈夫、大丈夫。こう見えても俺っち有能なんだぜ? 任せておきなって」
金と銀の鎖を交互に短刀に絡めた御門はほんの少しだけ霊力を込める。すると短刀と女性を繋ぐ黒い糸が浮かび上がった。
御門がそれをスコルに噛み千切らせると女性は光を放ちつつ姿が薄れ始めた。
「人を恨んだら幸せになっちゃいけない……何てこたないんだ。アンタはアンタの道理で思いを遂げただけだしな。それとな……アンタの想い人が今何処を生きているかは分からない。けど、それだけ想ってるなら何回か生まれ変わればまた逢える筈だぜ? だから安心して行きな」
女性の霊は御門に深くお辞儀した後、微笑みながら姿を消した。
「これで二つ目終わり~、と。一つ目は損だったけど二つ目は大儲けだな」
呪詛を取り払われた状態の良い短刀。これは店の経営には大きな利益である。
そして御門は最後の一つの【曰く付き】である古びたギターに手を伸ばし事務机へ置いた。
「待たせたな。お前が一番手間掛かりそうだったんで後回しにした。話したいことがあるなら聞くぜ?」
ギターが置かれた事務机の向こう側に視線を向ける御門。そこには如何にもロックに憧れた金髪の若者が立っていた。
『アンタ、俺が見えるのか?』
「そらもうバッチリな。俺ってそういう仕事が本職だし」
『なぁ。俺、何でこんなことになってんだろ? 気付いたら誰からも見えないみたいで……』
「お前、名前は?」
『君嶋浩司』
「キミシマコウジね。歳は?」
『二十歳だ』
「オッケー。ちょっと待ってろ」
携帯端末を取り出した御門は再び情報屋の宇喜多へ連絡を取る。折り返しで届いたメールには君嶋浩司の情報がズラリと並んでいる。
『……こ、個人情報なのにこんなにダダ漏れなのか?』
「裏社会の情報屋だぞ? 勝っちゃんの手に掛かれば総理の不倫相手のホクロの数まで分かる」
『…………』
「え~っと……何々? ……ああ、やっぱりな。良かったな。お前、死んでねぇってよ」
『え……?』
「所謂、生霊ってヤツだ。だけど油断すんなよ? ギターに憑いてるってことは無意識に避難したってこった。つまり、お前は何かトラブルに巻き込まれて意識不明になる怪我をした。その原因が何か思い出せないと目覚めても狙われる可能性もあるぜ?」
『…………』
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―
MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」
「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」
失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。
46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた
今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。
レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。
不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。
レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。
それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し……
※短め
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる