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そして終わった十六年
しおりを挟む――絶対に許さない。
ホールがざわざわと騒いでいる。わたしはホールの真ん中で、目の前にいる男女二人を見上げている。二人は互いに身を寄せ合い、男が剣先をわたしに突きつけて怒りと憎悪が混じった瞳でわたしを見ている。いや、男だけではなくホールにいる全員が同じ瞳をしていた。頬は真っ赤に腫れていて、その上を涙が伝う。
「エド様、さすがに可哀想だよ……」
「可哀想だと?ああ、そうだな、確かに可哀想だ…あいつにボロボロにされてしまったお前が。もう大丈夫だ、俺は君を守る」
――ええ、絶対に許しませんわ。
ジリアナ・クリスティーナ。ファニック王国のクリスティーナ公爵家の令嬢である。
性格は我儘で高慢ちき、わたしの元に仕えたメイドが辞めた数は数知れず…と、言われていた。実際は小心者でどちらかといえば控えめな人間だったけれど、いつか王族に嫁ぐ身として外では精一杯令嬢らしく振舞ってきた。
わたしのところに仕えるメイドは身重だったり、近いうちに嫁ぐことになる家から行儀見習いとしてやってくる子達ばかり。なので皆すぐに辞めていく。
公爵家の令嬢として一通りのことを出来るため、メイドが居なくても問題なかった。どうしても働かなくてはいけない身やすぐに辞めたい家の令嬢たちを集めて、楽に働ける環境を作っていた。
……そんな裏事情はわたしか、仕えた者しか知らない。表面上のことだけ見た人が口々に噂するたび、まるでそれが本当のことのように回ってしまった。
公爵家の令嬢として、いつかは王妃になる人間として外では厳しく正しい令嬢であろうとしたのが間違いだった。
「ジリアナ、本日を以てお前とは婚約を破棄させて貰う!そして……未来の王妃に向かっての侮蔑、死に値する!」
エド様が叫びながら剣を振りかざす。太陽の光に照らされ輝く剣はまるで聖剣。何一つ許さない正義の剣。
でもわたしは知っていますのよ。あなたたちがでっち上げた嘘だってことも。エド様がほしいアリアが、アリアがほしいエド様が作り上げた嘘だということを。
心の中は冷め切っている。どうせ何を言っても聞きやしない、この場の誰もがわたしを悪だと決めつけている。やった証拠もなければ、やってない証拠もない。…やってないことを証明するのは不可能に近い。
(政略だとしても、わたしはあなたのことを好きでしたのに)
頬に伝う涙から読み取れる感情はこの場に居る誰も理解しようとしない。
燃えるような赤髪、火のような真っ赤な瞳。赤に尽くされた王国の王子、エドワード。そして輝く金の髪を持つ市民のアリア。
わたしはあなたのこと、あなたたちのことを――――絶対、絶対に忘れませんわ。
剣の切っ先がわたしの首を目掛けて迷いなく振り下ろされる。
わたしの視界が真っ赤に染まっていく…。
今日は、わたしの十六歳の誕生日だったのに。
婚約者であり、いずれこの国を継ぐ王子の手で、十六年という短い人生の幕を閉じることになるのだった――――。
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