幼聖女はお昼寝したいだけなのに

くしゃみ。

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異世界モノって言ったら大型ペットが必要だよね

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 ベレイとも暮らすようになって三日。
 二人は割と仲良くやってて、料理をレジェが、洗濯と掃除はベレイが分担してやっている。
 わたしはというと……。

「ひ、ま、だー!」

 ずっと布団の中に引きこもっていたかったんだけど、レジェに追い出されてしまった。布団を干すって理由なら仕方ない。
 余り外に出ることを快く思ってなかったけど、この間の大鷲は討伐されたみたいで暫くこの辺りは安全らしい。

(はっ夕食が鶏肉だらけだったのって……いや、考えるまでもないか)

 ちなみにどこ行くにもベレイがやたらと引っ付いてきて鬱陶しかったので置いてきた。今頃屋敷中を探し回っていることだろう。
 木々の隙間を縫い歩く。

 屋敷は森に囲まれている。森の外には横に伸びている国境を隔てる壁とそれを見守る砦があって、反対側には街がある。賑やかな場所は好きじゃないから街に行こうとは思わないけど。
 森は迷いやすい上に魔物の巣窟ではあるんだけど、街の人たちは森に来たりしないし砦の

「キュー…キュェ」
「ん?」

 か細い動物…いや、鳥の声がした。
 大鷲の魔物が居なくなったので動物達が戻ってきたんだろうか。でも声が弱々しい。

(行ってみるか)

 もし魔物でも怪我してるなら襲われても直ぐに逃げられるだろう。回復魔法以外の、大抵の魔物ならどうにか対処できる程のスキルレベルもあるし…使ったことないけど。
 使ったことなくても何とかできるだろう。屋敷まで戻れば保護者達にどうにかしてもらえばいいし。

 声のした方へと歩みを進める。
 そこには……

「キュエエエッ」

 大鷲の子供がいた。
 この間詰め寄ってきた大鷲の子供よりもずっと小さい。わたしより一回り大きいくらいだ。

 真ん前に出たものだから今更隠れようもなくてばちっと目が合う。

「どうどう」
「キュエエエエエエッ」

 とりあえず敵意はないよって宥めてみようかと思ったが威嚇されてしまった。よく見ると羽の付け根が赤く染まっている。
 毛と爪を立てて睨むように高鳴る子鷲。大きな声を出したら仲間が来ると期待していたんだろう、上を少し見上げるが何も気配がないことに「キュエェ……」と切なそうに鳴いた。

(大鷲退治の被害者か)

 人間と魔物、どちらが被害者かなんてわからないが。向こうは完全に敵意丸出しで睨みつけているが、その体は震えている。寒さで震えている…というよりは不安と緊張状態で震えているようだった。怯えているようにも見える。
 魔物とはいえ、武器を持った人間に襲われれば恐怖を感じるのだろうか。争いは良くないと思っているわたしからすれば、魔物であれ意思疎通できるなら和解できれば一番いいに決まっている。

「こわくないよ。ほら、何にも持ってない」

 両手を広げて武器も何もないことをアピールする。
 言葉が通じるかはわからなかったが、どうやら通じたらしい。敵意が少し薄らいで、逆立っていた毛が少し落ち着いた。

「わたしは君と友達になりたいだけなんだよ。ほら、怪我を見せてごらん」

 わたしが歩み寄るとびくっと震えてまた少し警戒したので足を止める。ノラ猫を懐柔するような気分だ。

「キュエェェ……」

 魔物というのは意外と感情もしっかりあるようだ。悲しそうな、怒っているような瞳で見られて、首をひねって考える。

(距離感は徐々に詰めていけばいい。じゃあ、距離を詰めるには…?)

 生物共通して仲良くなるのならば、やはり餌付けだろう。
 どこかの動物大好きな方のように特攻してよーしよし出来るほどの勇気も正直ないので、ここは正攻法で攻めるしかない。

(空中散歩でお昼寝というのは前世からの憧れでもある…チャンスを逃すわけにはいかないもんね)

 わたしはあの日のように空を飛びながら心地のいい風と共にお昼寝したいのだ。
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