10 / 23
餌付けは万物共通の方法
しおりを挟む「お肉…は流石に親兄弟の肉を食べさせるのは鬼か。うーん…」
わたしは一旦その場を離れて何か食べられるものを探して森の中を彷徨っている。
屋敷に戻ればまだ大量に肉があるんだろうが可哀想なので止めた。それに戻ればベレイに見付かってまた外に出て子鷲のところに戻ることが難しくなるかもしれないし。
とはいえ自分の二倍くらいの大きさもある魔物が満足するようなものなんてあるんだろうか。めんどくさいけどちょっとくらい魔物の生態を勉強しておくんだった。
(異世界転生ならマニュアル機能付きのサポート音声くらいつけてほしいもんだよ)
前世のくだりを思い出したおかげでより一層頭と体力を使うことを嫌うようになってしまった。だが自分の願望を叶えるための努力は惜しんではいけない。質の良い睡眠には質のいい動きが必要なのである。
「…果物か」
うろついている内に砦の近くまで来ていたらしい。柵に囲われた果樹園とその奥には監視するための砦が見える。
柵は木でできていて、腰くらいまでの高さだ。簡単に乗り越えられそうだけど勝手に取っていったら怒られるだろうか。
「おや、ホニィちゃん。レジェ様のお使いかい?」
「あ、パン屋さん」
パンを焼いていつも屋敷に配達してきてくれる初老の男性が柵の向こう側から手を振っている。
わたしが振り返してから振っていた手が手招きに変わったのを見て、柵を乗り越えて中に侵入する。
「果樹園もパン屋さんが見てるの?」
「ああ、この年になると雑用ばっかり押し付けられてなぁ」
パン屋さんをしているがその腕や顔には古傷がたくさんあって、兵士らしくがっちりした筋肉がついている。ベレイもいい筋肉をしているがパン屋さんにはまだまだ程遠いな。
「ねえ、果物いくつか分けてもらえないかな」
「好きなだけ取っていきなさい」
「ありがとう」
優しい笑顔を浮かべるパン屋さん。この人が戦場に出ると槍の悪魔と呼ばれているのが想像つかないや。
いくつか果物をもぎ取る。リンゴとイチゴを両腕たくさんに抱えてさっきの場所に戻る。
ちなみにリンゴとイチゴはなんとかの実って名前なんだけど長ったらしい名前だったので覚えることはしないで前世の通り呼んでいる。
(まだ居てくれてるといいけど)
警戒していたし、人間達から逃げるために離れているかもしれない。居なかったら居ないで仕方ない。縁がなかったということで空のお昼寝は諦めよう。
「お、まだ居てくれた」
元のところに戻ると小さくなって丸まっている。動けるほど体力はないようだ。
「キュエェ」
来るな、とでも言いたいのだろう。わたしが近付こうとすれば爪を立てられる。攻撃の意思はなく、ただの威嚇行為なので気にしない。
「腹の足しになるかわからないけどさ、果物持ってきたんだよ。あー…」
抱えてきた果物を見せてみるけど訝しげな視線が返ってきただけだった。
少し考えて、いちごを上にぽいと投げてから口でキャッチする。
(うん、甘さと酸っぱさがちょうどいい塩梅だ)
もぐもぐ租借してからリンゴを片手で握りしめる。
「投げる、食べる。おーけー?」
今度は投げないでジェスチャーだけで投げた振りと食べた振りをする。言葉が通じているかわからないが「キュエ」と鳴いたので通じたことにしよう。
「いくよー……それっ」
まずは一つリンゴをぽーんと投げる。出来るだけ高く弧を描くように投げたけど半年間引きこもってた体には中々難しい行為だったらしい。嘴に届く前に投げたそれは地面へと虚しく落ちた。
「……」
「…キュェ」
まるで残念なものを見る目でわたしを見ている。意気揚々と投げた反動で恥ずかしさが迫ってきた。
「…う、うるさいな。大体投げて食べるなんてお行儀が悪い。遠投できるほどわたしはマッチョじゃないんだ」
そこまで遠くないのと、さっき自分がやったことを棚に上げて落ちたものを拾ってスカートで拭く。泥がスカートについたけど気にしないでずんずん子鷲に歩み寄ると、警戒したが気にせず嘴の前にずいっと差し出した。
「この距離なら食べさせて上げられるよ。ほらお食べ」
「キュエ…」
恐る恐る鋭い嘴がリンゴを咥える。腕ごと食べちゃうんじゃないかと思ったけど結構温厚な魔物のようだ。
「…キュエェ!」
「おいしい?それはよかった」
魔物とはいえ味はわかるらしい。はっきりと喜んでいる、というのが伝わってくる。
触れるだろうか…そっと手を伸ばして体に触れてみるが嫌がっている様子はない。
ふむ。やっぱり餌付けというのは仲良くなるには最高の手段のようだな。
「キュエェ!」
もっと寄越せとばかりに嘴を押し付けてくる。ちょっともふもふした毛が当たってくすぐったい。
「しかたないなあ、ほら」
こうしてただのリンゴでいとも簡単に懐柔できてしまった魔物は、わたしの布団…もとい、友達になった。
0
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
嫁ぎ先は悪役令嬢推しの転生者一家でした〜攻略対象者のはずの夫がヒロインそっちのけで溺愛してくるのですが、私が悪役令嬢って本当ですか?〜
As-me.com
恋愛
事業の失敗により借金で没落寸前のルーゼルク侯爵家。その侯爵家の一人娘であるエトランゼは侯爵家を救うお金の為に格下のセノーデン伯爵家に嫁入りすることになってしまった。
金で買われた花嫁。政略結婚は貴族の常とはいえ、侯爵令嬢が伯爵家に買われた事実はすぐに社交界にも知れ渡ってしまう。
「きっと、辛い生活が待っているわ」
これまでルーゼルク侯爵家は周りの下位貴族にかなりの尊大な態度をとってきた。もちろん、自分たちより下であるセノーデン伯爵にもだ。そんな伯爵家がわざわざ借金の肩代わりを申し出てまでエトランゼの嫁入りを望むなんて、裏があるに決まっている。エトランゼは、覚悟を決めて伯爵家にやってきたのだが────。
義母「まぁぁあ!やっぱり本物は違うわぁ!」
義妹「素敵、素敵、素敵!!最推しが生きて動いてるなんてぇっ!美しすぎて眼福ものですわぁ!」
義父「アクスタを集めるためにコンビニをはしごしたのが昨日のことのようだ……!(感涙)」
なぜか私を大歓喜で迎え入れてくれる伯爵家の面々。混乱する私に優しく微笑んだのは夫となる人物だった。
「うちの家族は、みんな君の大ファンなんです。悪役令嬢エトランゼのね────」
実はこの世界が乙女ゲームの世界で、私が悪役令嬢ですって?!
────えーと、まず、悪役令嬢ってなんなんですか……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる