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お決まりの悪役令嬢
しおりを挟むベレイが屋敷内の掃除をしているのを、ポムに寄りかかりながら見ている。
流石に任せっきりも可哀想かなとは思ったが、働くのが楽しくて仕方ない様子なので見守ることに徹している。疲れ切った顔がその証拠である。着替えさせた執事服も心なしかよれて見える。
「ベレイ、手伝おうかー」
「いえ…この程度で聖女様のお手を煩わせるわけにはいきません」
声を掛けても断られてしまうのでポムのもふもふを堪能する。怪我はすっかり良くなったみたいなので早く飛ぶ練習をさせなければ。
ベレイはせっせと掃除に勤しんでいる。レジェと同じく完璧そうな人に見えて意外と不器用みたいで、壁にかかった絵画を落としかけたり壺を割りかけたりと危なっかしい。
「まーわたしが手伝った方がやらかすんだけどね」
「キュエ―」
ポムが納得している目でわたしを見る。元々完璧ボーイであるレジェが居るからやる必要はないんだけど、ぐーたらしてるのも申し訳ない時があった。手伝ったら屋敷の中が酷いことになったのでもう二度とやらなくていいとレジェのお墨付きである。
「それじゃあ僕は一週間ほど留守にするよ」
ばたばたと簡易な荷物だけを持ったレジェが執務室から出で急いだ様子で階段を降りてくる。ベレイはわかっていないようだったが、レジェにはふた月に一度ほどこういう忙しない日がある。
(ああ、もうそんな時期かー)
ぼんやり見ているとレジェがわたしの頭をわしゃわしゃ撫でてから急いで出て行ってしまった……裏口から。
「聖女様、一体……?」
「すぐにわかるよ」
ベレイがぽかんとして出て行った方を見ている。
裏口から出て行ったということは、恐らくすぐ来るんだと思う。…いや、なんだか外が騒がしいので今にも扉を開けてくるだろう。
「レジェ様ーーっ!」
勢いよく扉を開けたのはプラチナブロンドの髪色、ちょっとつり目な瞳がきつそうだけど美人の部類の顔立ちをした女性が入ってくる。レジェの婚約者のフィーリアだ。
レジェは婚約者じゃないと否定していたが、一応は親公認の仲…ということらしい。フィーリアが言うには。
「あら!?レジェ様は!?」
「あー残念、入れ違っちゃったね」
「また、お会いできませんでしたのね……」
屋敷にはふた月に一度、フィーリアがやってくる。それも突然。レジェは直感で来ることを察知してさっきみたいに急いで出ていくのである。どうして会いたくないのかは知らないけど。
「いつお戻りになるかしら。まあいいわ、戻るまでここに居させてもらうわよ」
「お好きにどーぞ。わたしの家じゃないし」
フィーリアがパンパンと手を鳴らすとぞろぞろとメイドや執事が入ってくる。
ドレスやらはまだわかるとして、今回はベッドまで持ち込んできたのか。一応は辺境伯の屋敷だからそこそこ豪華なベッドが揃っているはずなんだけど、お気に召さなかったらしい。
「ホニィ、この屋敷に居る間、今度こそあなたをわたくしの侍女に任命しますわ!」
「遠慮しておきますー」
「何故ですのっ!!」
面倒くさいからだよ、とは言わない。
(言えばもっとめんどくさいことになるからね)
ぴーぴー文句を言っているフィーリアを無視して欠伸を漏らす。ベレイと言えばわかっていないようで混乱している。ここまで手際よく動いている執事やメイド達を見て、恒例のことだと言うのは察してほしいものだけど……まあわからないよね。でも一から説明するの面倒くさいな。
わたしとしてはフィーリアが来ている間のご飯はかなり豪華なものなのでなんだかんだ歓迎なのだが、レジェが居ない屋敷はちょっとだけ寂しかったりもする。
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