時の記憶

知る人ぞ知る

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暫く歩いていた時の事だった。

ふいにどこかから甘い香りが二人の鼻を掠めた。


りんが匂いの元を突きつける前に、村長さんは驚いたように呟いた。


「金木犀の香りだ……」


その言葉を聴いた途端、りんの気持ちは高ぶった。


「きんもくせい?これっ!きんもくせいっ!!」

手を繋いだままりんは飛び跳た。

りんは見つけたのだ。目の前に広がる、紅葉とは違う黄色や橙に染まった並木道を。

それが自分の中で確信に変わると、無意識のうちに駆け出していたのだった。


「これこれ待っとくれ…っ、と、年寄りにはこの坂はきつ…っ」


腰を屈めながら、細いその体を一生懸命前へ前へ持ってゆく彼に対し、元気の有り余る若いりんは、村長さんの手をぐいぐい引っ張って、跳ねながら駆け足で進んでいく。


「はやくっ!村長さんっ!」


村長をせかす少女にはもう、金木犀の並木道しか見えていなかった。

そんな少女の瞳に映る金木犀の並木道を見ながら、村長さんは汗を流しがらも柔らかく微笑んだのだった。



二人は甘い香りのする道を進んでいった。


村長はりんの表情を盗み見る。

彼女は祠への期待に目を輝かせていた。だがその息は、進むにつれて小刻みになっていった。


山は高い。ここまで来るのに一度も迷ってはいなかったが、年齢の高い村長はもちろん、りんにとっても厳しい距離なのは間違いなかった。


「休憩しよう」


村長さんは近くの石に腰をおろし、隣をぽんぽん叩いた。

りんも内心疲れていたのだろう。少し迷ったものの、こくりと頷いて村長の隣に腰をおろしたのだった。


祠まで、本来ならばしっかりとした道があったはずだが、三年前起きた土砂崩れで塞がっているため、10分程の距離が30分近くかかってしまう。

足場は崩れたせいで木の根が飛び出していたり、でかい岩がゴロゴロ転がっておいたりで、二人の行く手を阻んでいた。


休憩を挟んだ時、村長は後ろに目を向けた。
そこからは村がよく見えた。

決して栄えてはいない。こじんまりとした木造建築の多い村だが、いつもと違う場所から眺めた世界は、村長とって大きな刺激を与えた。
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