時の記憶

知る人ぞ知る

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りんが向かった先は村を治めている村長の家だった。

おばあちゃんの家から徒歩30秒。

それほど大きくない木製の家。

その茶色い木製の玄関の扉をとんとん叩けば、白髪頭で、目尻に二本線がはいった柔らかな笑顔を浮かべて村長が顔を出した。

出迎えてくれた村長は、深緑のYシャツにベストを着て、少しこじゃれた格好をしていた。

背はそれほど高くないけれど、服を着こなす村長は少しばかり背筋が伸びて見える。


「おや、りんちゃんじゃないかい。どうしたのかな?」

「りん、あのお山の向こうの”ほこら”に行きたいのっ」


おばあちゃんから、村長と一緒なら行ってもいいという話を彼にすると、ちょっと待ってておくれ、と告げてわたわた仕度し、ベレー帽をかぶって出てきた。

村の人の為にどんなことでも頑張ってくれる村長。

りんは村長さんの事が昔から大好きだ。



二人は早速、彩り溢れた森の中へ足を踏み入れた。




「わぁ………」


りんは空を見上げた。

辺り一面に広がる赤、紅、橙。黄緑から黄色へ変わりゆくグラデーション。

鳥のさえずり、川の音。ふかふかした土から香る、緑と土の匂い。

はやる気持ちが抑えきれず、ふかふかの土の上を飛び跳ねると、緑の匂いが濃くなった。


りんは目を閉じ、もう息が吸えないほど力いっぱい深呼吸をする。

溢れる自然の香りが体の中をめぐる。

このまま森に溶けてしまいたくなる程心地いい空気を留めていたかったけれど、りんは苦しくなってしぶしぶ息を吐いた。


「これこれ、離れてはいけないよ?おじさんと手を繋ごう」

「うん!」


差し出された村長の手をぎゅっと握る。

暖かくて、自分とぜんぜん違う大きな手。

見上げれば、自分より背の高い村長が、一生懸命地図とにらめっこしてる横顔がみえた。


(まるでお父さんの手みたい)


りんは心の中で呟いて微笑んだ。

それが表情にもでていたのか、不意にこちらを見た村長が声をかけた。


「ずいぶんと幸せそうだねぇ」

「うん!!」


りんの元気な返事に村長さんも思わず笑顔になって、二人は仲良く手を振りながら森の先へと進んだ。
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