カースブレイカーズ 〜美夜ちゃんは呪われた幻夢世界をひっくり返す!〜

ユキマサ

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第十四夜 冒険者ギルド

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「ハッハッハ、よくやったな嬢ちゃん。本当にダンジョンを一人で攻略出来るとは思わなかったぞ」

 気が付くと、そこは私が前回ログアウトした森の中で、オショウが横たわった私の傍で笑っていた。

「ずいぶん元気そうね。体大丈夫なの?」

「おう。ダンジョンを攻略出来たので呪いも解けた。嬢ちゃんのおかげだな。効き目は低いが今癒してやるぞ。〈闘気法〉や技の多用で減ってしまったステータスは眠らないと元に戻らん。守っておるから安心して眠るがよい。ハーハッハッハ」

 ……んん?前にもこんなやりとりがあった様な?

「ねえ、オショウ……」

「何かな?」

「そういえば、昨日私が眠った(ログアウトした)後、何があったらダンジョンの中に放り込まれるなんてことになるのかしら」

 ギクリ……

 オショウの笑顔の微妙な変化から、そんな擬音が聞こえたのは私の気のせいではない。

「確か低レベルのモンスターを大量に殺してしまったから、ステータスが激減してしまう呪いをかけられたのよね。でも、そうなると前回私が眠る時にはもう呪いは発動してるから、普通は街に戻ったりしてるはずだし、そもそも私に相談してるよね」

 タラタラと変な汗をかいてるわね、オショウさん。

「それに、ダンジョンを攻略したら呪いが解けたってのもおかしな話よねぇ?あらあら、どうしたの?両手をついて頭を下げて、私神様じゃなくて半吸血鬼よ」

「お見逸れいたしましたぁ!」

 私のジトッとした視線に耐えられなくなったオショウがガバッと綺麗な土下座を見せてくれるのだった。



「はーん、〈地獄への手招き〉ねぇ。その呪いにかかるとステータス激減した上でダンジョンに放り込まれる訳ね。祝福ポイントも使えず、ダンジョンを攻略するか、失敗して経験値や装備品を盗られて放り出されないと呪いは解けないんだ。それに私も巻き込まれたと」

 実質、他の仲間に助けて貰わないと無事に呪いが解けることはないだろう。お釈迦様の蜘蛛の糸の逸話を連想させる呪いである。

「美夜様のおかげで無事にダンジョンより生還でき、呪いも解けて感謝の言葉も御座いません」

 ハハーッと頭を下げたままかしこまるオショウに、私はさらにツッコミをかける。

「もしかして門外不出の〈闘気法〉を簡単に教えてくれたのも、私にダンジョンを攻略して欲しかったからなのかしら?」

「ハッハッハ。あんまり期待はしとらんかったがダメ元で教えてみた。仕方ないのう……ほれ、金は返すわい」

 とうとう開き直って、笑いだしたよこの人。

「それはちゃんと受け取っておいてよ。御礼なら別のものが良いなあ……おい、何故服を脱ごうとする、しかも恥ずかしそうに」

「ハッハッハ、勿論体で返そうと……冗談だ、冗談!だからそのイバラの鞭をしまってくれ。そんなハードな趣味はもっとらん」

「あんまり冗談ばっか言ってるとホントに鞭でひっぱたくわよ……(おかげで言いにくいじゃないの)」

「では、どうやってこの礼をすれば良いのかな?何なりと言ってくれい。ハッハッハ……」

「じゃあ、私とパーティーを組んでよ」 

「ハッハッハ……はい?」

 突然の申し出に笑ったまま固まるオショウ。

「私が一人前になるまで付き合ってくれるって話だったじゃない。この後、冒険者ギルドに登録した後も、私とパーティー組んでくれない?」

「いやいやちょっと待ってくれ。拙僧と一緒にいても良いことないぞ。こんな図体だし、大雑把だし、飲み食い人の三倍だし」

「遠慮なく冗談を言い合える相手なんて、そうそう巡り会えるもんじゃないわよ。確かに色々と隠し事が有りそうだけど、面白そうだから気にしないことにするわ」

「拙僧は星影教という宗派で、国教である輝光教から疎まれておるが」

「私は半吸血鬼で、神殿から疎まれてますが何か?」

「…………。ハハッ、ハハハハハハッ!」

 やがて、観念したかのように笑い飛ばすオショウ。

「では、よろしく頼むぞ。嬢ちゃ……いや、美夜殿」

「美夜で良いわよ。よろしくね、オショウ。じゃ、疲れたんで眠るんから後よろしくね~」

 こうして、ダンジョンを無事クリアして、ステータス激減した私は気持ち良くログアウトしたのだった。


 冒険者。
 それは全ての戦闘系の職業の基本であり、最弱の職業でもある。
 しかし、冒険者のスキルを極め、戦士、騎士、狩人、僧侶、魔道士、忍者、陰陽師などの他の職業ギルドに入っても、大抵の者は冒険者ギルドを脱退せずに、未踏の地への調査やダンジョン攻略のクエストを引き受けるそうだ。
 ここは冒険者ギルド。
 そんな冒険心に魅せられた大馬鹿野郎共の溜まり場である。

「だーかーら、もう料理はしないし、〈料理人ギルド〉にも入らないって言ってるでしょうが」

 そんな所に、言い争いをしながら入ってくる私とオショウ。

「何を言っておるか。二品作っただけであれだけの称号とスキルを身に付けるなど、普通は有りえんぞ」

 冒険者ギルドは依頼を受けるカウンターと酒場が一緒になった作りをしていた。数人の男達がテーブルで騒がしく飲んでいたが、私達が通ると怪訝そうににらんでくる。

「……で、本心は?」

「紹介料貰ってウッハウハ」

「そんなこったろうと思ったわよ」

 だが、オショウが軽く笑って挨拶すると、向こうも軽く挨拶して酒をあおるのだった。
 ……テーブルに足を乗っけるんじゃないわよ。行儀悪い。
 酒瓶が並んでいるカウンターのもう一つ奥に、制服を着た女性と沢山の貼り紙が貼ってある掲示板が見える。あれが冒険者ギルドの受け付けに違いない。
 私とオショウはそちらに向かって歩いていった。
 周りの男たちの好奇心に溢れた視線が痛いが、オショウのおかげで絡まれずに済みそうだ。一緒に来て正解である。

「ハーハッハッハ。将来性溢れる新人を連れてきたぞ」

「あら、こんばんは。ショウ・ブハンさん。新人ってその娘が?」

 受付のお姉さんが営業スマイルで応える。

「こんにちわ。美夜といいます。随分と賑やかですね」

「騒がしくして申し訳ございません。東の方でオーガの隠し砦を発見したパーティーが無事に帰還した所なんですよ」

 軽く世間話から入ろうと思ったら、結構凄い答えが返ってきたよ!
 オーガって私が苦労して倒してるホブゴブリンのさらに上位種で、身の丈三メートルもある日本昔話の鬼のようなものだっけ。

「それは凄いですね。でも冒険者ギルドの中にどうして酒場があるんですか?」

 飲食店関係者としては、是非とも生の答えを聞いておきたい。

「そんなの決まってるじゃないですか。こんなガラの悪い強面が昼間のランチタイムで近隣の店に迷惑をかけない為ですよ」

 朗らかに周りに聞こえる様に答えてくれるお姉さん。

「あー、いますよね。ランチタイムの忙しい時間帯に、夜の酒のつまみを無理矢理注文してくる奴」

 私もそれに応えてボリュームを上げてやる。正直あの連中のマナーの悪さには我慢出来ないのだ。

「そうなのよ。徹夜明けで昼間から飲んで大騒ぎしたり、亡くなった仲間を忍んで大泣きしたりで街中の店から苦情が殺到してね、仕方なくギルド内に酒場を作った訳」

「そりゃそうでしょうねー。テーブルの上に汚い足を乗っけるようなバカなんてぶっ飛ばしてやりたくなりますよね!」

 ガタタッ!と慌ててテーブルから足を下ろす音が聞こえる。

「そうね、お皿を灰皿代わりにする人も多いし、そろそろ値上げしようかしら……」

 皿の上の吸い殻や灰を灰皿に移そうと、慌てているのが見える。あれでは灰や料理のソースなどで手が酷く汚れていることだろう。

「今度、簡単に作り置き出来るレシピを教えますね。遠慮なくぼったくって下さい」

「あら、嬉しい。貴女とは気が合いそうね。よろしく美夜さん」

「こちらこそよろしくお願いします。ところで、ロシアンルーレットタコ焼きというものがありまして、これをアレンジして……」

「あら、面白そう。ここは冒険者ギルドだからしびれ薬や解毒ポーションはたっぷり有るわよ……」

 ウフフフ、と怪しく笑う乙女二人の会話を聞きながら、オショウは顔を引きつらせて、

「嬢ちゃんを料理人ギルドに紹介するのは辞めておくか……いや、それ以前に、この二人を会わせるべきではなかったかもしれん」

 と呟くのだった。


 あれからしばらくして、冒険者ギルドはすっかり静かになった。これで落ち着いて話が出来るというものである。
 辺りには、「運試しルーレットタコ焼き」の実験台……もとい試食に協力してくれた冒険者達が軒並みぶっ倒れているが、まあ些細なこと。
 ちなみにしびれ薬の類いは入れていない。料理人たるもの味で勝負するものである。おかげで、どの木の実や草が人を気絶させる程の苦味や辛味を持っているのかよく分かった。
 それにしても、ニッコリ笑顔で嫌がる冒険者達に強制的に試食させた受付のお姉さんは一体……

「では、落ち着いたところで、美夜さんの冒険者登録を始めますか」

 よっぽど日頃のストレスが溜まっていたのだろう、お姉さんがスッキリした様子で話しかけてきた。
 私の方もすでに書類を書き終えており、それをお姉さんに見せる。

「フムフム、美夜さんは棒術と体術、地属性魔法に植物操作が使えるのね。花人で体術を使うなんて滅多にいないわよ」

 私が本来、半吸血鬼で有ることや〈熟練の料理人〉の称号や〈闘気法〉のスキルを取得している事は記していない。報告したくないことはしなくて良いと、事前にオショウから言われているからね。

「はい、それでは手続きは終了です。ようこそ新しい冒険者美夜。私達は貴女を歓迎します」

〔美夜は〈F級冒険者〉の称号を獲得しました〕
〔〈危険区域立入許可証〉を獲得しました〉
〔〈F級冒険者〉のスキル〈探査〉を獲得しました〕
〔〈大地属性〉と〈探査〉が合成されます〕
〔スキル〈地形探査〉を獲得しました〕
〔〈闇属性〉と〈探査〉が合成されます〕
〔スキル〈幽霊探査〉を獲得しました〕
〔〈植物操作〉と〈探査〉が合成されます〕
〔スキル〈植物探査〉を獲得しました〕
〔〈食材の知識〉と〈探査〉が合成されます〕
〔スキル〈食材探査〉を獲得しました〕

 〈F級冒険者〉の称号を獲得したことで、新たに身に付けた〈探査〉のスキルが次々と私が持っているスキルと合成され、新たなスキルを生み出していく。
 早速〈探査〉スキルを使ってみよう。
 おおっ?頭の中にこのギルドの中と外の見取り図が浮かび上がったよ。向こうの部屋に有る地下室や、表に生えている草木の存在、この奥の厨房の中にある食材の種類まで簡単に分かっちゃうじゃないの。これ凄い便利!

「フフッ、凄いでしょう。もし美夜ちゃんが火属性を持ってたら〈熱源探査〉で暖炉の火や人の体温の動きも分かっちゃうし、風属性の〈音響探査〉なら暗闇の中飛んでくる弓矢だって避けられるわよ」

「凄いですね!水属性だとどうなるんです?」

「……〈水流探査〉で地下水や池の中の様子が分かるかな」

「わー、微妙……」

「で、でもね、水属性からは〈生命属性〉を獲得しやすいでしょう。〈生命探査〉は隠れている人やモンスターも見つけられるかなり便利なスキルよ」

「?、生命属性って何ですか?」

 コテンと首をかしげ答えるとおねーさんの笑顔が凍りつく。氷の微笑だよ。そのままギギギとオショウに顔を向ける。
 オショウもギギギと顔をそむける。

「ショウ・ブハンさん。どういうことですか!?」

「ハッハッハ、あれ?説明してなかったかな」

「戦闘や魔法に関する基本的なレクチャーも依頼内容に入っていますよね」

 あー、そういえば平原を大噴火させたドサクサで魔法の説明が途中で止まったままだったような……って依頼?

「おいおい、おっさんちゃんと指導出来なかったのかぁ?これだからG級はよぉ」

 突然会話に割り込んできたのは、向こうのテーブルで飲んでいた男たちの一人だった。酔いが回っているのだろう、顔が赤く目がすわっている。
 この人、ロシアンルーレットタコ焼きで運良く当たりを引いたようだ。他の仲間四人はまだ倒れている。

「よし、この俺ゴラン様が教えてやろう。いいか、火属性からは光属性、水属性からは生命属性、地属性からは闇属性、そして風属性からは……」

 サワッ

「キャッ?」

 突然お尻を撫でられ、慌てて振り返るとそこには何と空中に浮かぶ手首が!

「空間属性が派生し易くなって、空間操作が使えるのよ!驚いたろ、空間をねじ曲げて俺の手首だけをそこに出してるんだぜ。なかなか良い尻してるじゃ……痛だだだだっ!」

「あら、ホントに繋がってるわね。面白ーい」

 私のお尻を触った悪い手の指をひねり上げて極めてやると、反対側にいるゴランが痛がっている。

「火は光を生み、水は生命を育み、風は空間を渡り、地の底に闇が広がると云われていてな、まあ、それぞれの特徴については後で教えるから、そろそろゴランのやつを離してやってくれんか」

 オショウに言われて仕方なく手を離すと、即座に空中の手首は引っ込み消えた。
 振り向くとゴランが指をフーフーしている。

「な、なかなかやるじゃあないか。どうだい?お嬢さん、俺達のパーティーに加わらないかい?」

 は?

 突然の勧誘に固まっていると、なおもゴランのアプローチは続く。

「いいかい、お嬢さん。冒険者にとって一番大切なことはモンスターを倒す強さなんかじゃぁないんだ」

 こ、これは酒を飲むと長々と説教をかましてくるタイプの酔っぱらいか?

「モンスターを討伐して名声を得たいなら戦士団や騎士団に入団するこった。だがなあ、冒険者は冒険することが仕事なんだよ。未知の秘境やダンジョンを探索して情報を持ち帰るのが俺達の仕事だ。周りが敵だらけの中を進むには仲間の協力が絶対に必要なんだぜぇ」

 曰く、一人では食事や睡眠は勿論、用を足すことも落ち着いて出来ない。
 曰く、背後や頭上からの不意打ちに対応出来ない。
 曰く、毒や麻痺になってしまえば、一人で回復するのは困難である。
 曰く、瀕死の重傷を負った自分を安全な場所に運んでくれる仲間が必要である。
 といったことを親切に教えてくれるのだった。
 う~ん、ゲームとは思えないほどのリアル思考だ。ソロプレイなんぞ軽くひねってくれるわという開発者の心の声が聞こえるようである。

「まあ、何事にも例外は有ってな。半吸血鬼どもは仲間にしちゃいけねえ」

 なぬ?

「何せ昼間は使えねえは、なかなかレベルアップしねえは、パーティーに一人いるだけで教会から祝福して貰えねえときたもんだ。一時的に強くなるために仲間の血を吸う奴もいるって話だぜ。いくら夜の間やダンジョンで強かろうがデメリットが多すぎらあ。お嬢ちゃんもあいつらには近づくなよ」

「ええ、そうね。気を付けるわ」

 外見が花人族なので、まさか半吸血鬼とは夢にも思っていないのだろうゴランの親切な助言に私はひきつった笑みを浮かべるしかなかった。
 こらこら、後ろの異端宣教師のおっさん、必死で笑いを堪えてるの気配で分かるわよ。
 しかし、そうなると益々モンスターを仲間にする事が重要になってくる。早く何とかしないと、と考えていると。

「そんな訳でお嬢さん、俺達のパーティーに入らないか?歓迎するぜ」

〔何と、ゴランが勧誘してきた〕
〔パーティー加入を了承しますか?〕
〔〈yes〉or〈no〉〕

 私はにっこりと微笑んでスッと手を差し出す。
 ゴランはヘラヘラ笑って私の手を握って……

 ズシャッ!

 突然床に膝をつき、這いつくばった。

 〈no〉!

 周りの人も膝をついたゴラン本人でさえも何が起こったのか分からないであろう。全員驚愕の表情を浮かべている。

「残念だけど私、さっき貴方が仲間にするなと忠告してくれた半吸血鬼なの」

 ニコニコ笑いながら話しかける私にオショウ以外全員「え?」って顔をする。

「それにさっきオ……ショウ・ブハンのことを馬鹿にしてたでしょう。私、彼とパーティーを組むことにしてますので悪しからず」

 握ったままの手を軽く引っ張ると勢い良く起立するゴラン。自分の身体に何が起こったのか分からず自分の手や足腰を見回している。

「いろいろと御忠告ありがとうございます。それではこれで失礼します。あとお酒は程々にした方が良いですよ」

 そう言ってにっこり微笑んで、私は受付に向かうのだった。



「おいおいゴラン、酔いが回って足に来ちまったのか?いきなりへたりこんでカッコ悪い」

 冒険者ギルドの注意事項に目を通していると、呆然としたままテーブルの方へ戻るゴランに何とか復活した仲間たちが声をかけているのが聞こえてくる。

「いや、そうじゃねえんだ。あいつの手を握った途端ストンと身体が落ちちまったんだ。その後立ち上がろうとしても立ち上がれねえ。たいして力を入れられてる訳でもないのに」

「吸血鬼のスキルでも使われたんじゃねえのか?」

「いや、あんな至近距離で使われたら流石に分かる」

 ムッフッフッフ、分っからないだろうなぁ。あれぞ昔、漫画で見たのをヒントに道場で研究した技なのだ。相手の肘に体重を乗っける感覚なのだが、これがかなり難しい。私の隠し芸の一つである。この世界は明確なイメージや現実での経験が力になるので、かなりあっさりと技が成功したのだ。

「そういや噂になってたぜ、教会の神官達と騒動を起こした半吸血鬼の女がいたって。小さいなりで神官二人を奇妙な体術で投げ飛ばしたってよ」 

 おや?

「おお、俺も聞いたぞ。あのいつも威張りくさってた神官を地面に叩き伏せ、殴り飛ばして屋台をぶっ壊したって話だろ」

 殴り飛ばして屋台に叩きつけたのは仲間の神官です。私じゃありません。

「その後、旅の僧が場を治めて少女を引き取り、ぶっ飛ばされた嫌味な神官は今度は地方へ飛ばされましたって話だろ?いま酒場じゃその話で持ちきりだぜ」

 ほうほう、あの人望ない神官飛ばされたのか……御愁傷様です。

「その旅の僧ってのがあのショウ・ブハンよ。特徴的に間違いねえ」

 こんな特徴持った人が他にいてたまるもんか。……えっ?いないよね?

「って、ことはつまりだ……」

 男たちの目が危険なモノに変わる。何?何か因縁でもつけられるの?

「ゴラン!完全にテメエのミスじゃねえか!余計なこと言いやがって」

「あんな可愛い娘になら喜んで血なんかくれてやらあ!いや、むしろ吸って欲しい」

「ここの払いは手前持ちだからな!今、街で話題の女の子にいきなり嫌われたじゃねえか」

「よし、こいつパーティーから追い出してもう一回勧誘しよう」

「お姉さん、さっきのタコ焼き一つ頼む。この馬鹿に全部食わせてやる!」

「はいっ、喜んで!」

「ちょっ!俺このパーティーのリーダーだから!いや、俺が悪かったからぁー!」

 やいのやいの。向こうの席は大いに盛り上がったのであった。頑張れゴラン。




「ゴホン、それでは美夜さん、何かご質問は有りますか?」

 受付のお姉さんの声がけにさっき引っかかったことを訪ねてみる。

「それじゃあ質問、さっきあの人が言ってた『G級』って何なの?冒険者のランクは最高値のSから始まってA 、B、C、D、E、Fまでしかないみたいだけど」

 そう、オショウのことをG級と馬鹿にしていたのが気になっていたのだ。

「G級というのは俗称でギルドの正式なランクではありません。怪我や呪いなどによって戦えなくなったり、引退した人達が日々の糧を得るために正規の報酬が出ないような依頼を引き受けることをそう呼ぶ様になったものです」

「正規の報酬が出ないって?」

「例えば、街の清掃や汚物の処理など手間も時間もかかるが賃金の安いものや、逆に村の近くにダンジョンが発生してしまったが、村が貧しく満足な報酬が払えない場合等が挙げられますね」

 フム、1日かけて働いたり命懸けでモンスターを倒しても安い報酬しか貰えないなら誰もそんな依頼を引き受けずに他の実入りの良い依頼に移ってしまう。そして、その依頼は放置され、どんどん問題が大きくなってしまうというわけね。街の清掃等危険のないものなら戦えない人に仕事を振ることも出来るけど、問題は……

「ダンジョンの発生なんて一大事じゃない。国や領主は何してるの?」

「勿論、報酬の援助や戦士団の派遣など行ってくれますが、予算も人員も足りていないのが現状です。こちらとしても満足のいかない報酬で命を賭けろとは言えません。引退した高レベルの冒険者の善意に頼っている状況なんですよ」

「この人引退してんの?力有り余ってる様にしか見えないけど」

 この筋肉モリモリのおっちゃんが戦えないとはとても信じられない。

「いえ、ショウ・ブハンさんは何と申しますか……飲み代稼ぎに仕事の幅の広い冒険者ギルドに入ったような人でして、相当な実力が有るにも関わらずいつもブラブラ適当に過ごしているわ、依頼を受けても大雑把な性格で余計な騒動を巻き起こすわで、訓告の意を込めてG級に落とされた大変稀なケースです。美夜さんは決して見習ってはいけませんよ」

 受付のおねーさんが苦笑しながら説明してくれる。
 いや、おっちゃん真面目 に働こうよ。
 あれ?そんな人と私パーティー組むんだよね……

「そ、それじゃ次の質問、そのショウ・ブハンに何を依頼したの?私にレクチャーって何の事かしら?」

 不安を誤魔化す様に再度質問してみる。

「ああ、ショウ・ブハンさんには有望そうな新人のスカウトとレクチャーをお願いしていたんですよ」

 お姉さんが説明してくれる。

「冒険者ギルドと非合法の闇ギルドである盗賊ギルドは長年の敵対関係に在ります。称号によって与えられるスキルが非常に似ているからです」

 キッ、と真剣な表情でお姉さんは語る。
 同じ様なスキルを貰えるのなら、気楽にやれて実入りの多い盗賊や山賊の方が良いや、と考える浅はかな若者が増えてきたこと。
 これは恐らく、多くのゲームプレイヤーが盗賊ギルドを選択しているせいだろう。
 盗賊のスキルの方が微妙に質が良く、しかも盗賊のランクが上がれば、怪盗紳士同盟や暗殺者ギルド、忍びの隠れ里などのレアな上位ギルドに入ることが出来るのだ。 
 そっちの職業が好きな人は少なからずいるからね。
 オショウも犯罪者が増えて、暗黒神の勢力が大きくならない様に活動しており、この冒険者ギルドの依頼は渡りに船。そのおかげで輝光教ともめていた私を冒険者ギルドに導いた訳だ。
 ……説明が大雑把だったり、ダンジョンに道連れで落とされたりしたけどね!

「更にたちの悪いことに、冒険者ギルドと盗賊ギルド二つのギルドを掛け持ちする者まで出る始末!」

 話しているうちに、お姉さんから怒気が溢れ出してきましたよ。
 うーん、表の顔と裏の顔二つの職業を持つ者もいるということか。お姉さんには悪いけど、必殺仕〇人みたいで面白そうじゃない?
 そんな事を考えてると、カウンターの上の水晶玉が点滅して激しく光りだした。お姉さんが慌ててそちらへ向かう。

「ねえ、オショウ」

 その隙に私はこっそりオショウに尋ねる。

「あのお姉さん、随分盗賊ギルドを敵視してるけど、何かあったの」

 オショウも声を潜めて答える。

「ああ、実は彼女の家、何回も下着泥棒に入られてな」

 うわぁ。

「しかも冒険者時代に、彼女に言い寄ってこっぴどく振られて、自棄になって彼女の下着に手を出す為に盗賊ギルドに入る者が続出してのう」

 男って奴はホント馬鹿……

「結局、ブチ切れした彼女の指揮の下、女冒険者が中心になって下着ドロを追跡してのう……あの時は拙僧もむりやり協力させられて、冬の寒空の下、冷たい地面の中で何日も見張りをさせられたものだ」

 遠い目をして肩を抱いて震えるオショウ。よっぽど辛い思い出がよみがえったに違いない。

「そうして盗賊ギルドのアジトを見つけてそこを冒険者全員で強襲して壊滅。自分の下着を盗んだ元同僚をブチしばく彼女の凄さは今も語り継がれておる」

 だからゴラン達、ロシアンルーレットタコ焼き黙って食べたんだ……

「盗賊ギルドもまた何度も再結成し、同じ様な事を繰り返してるということだ」

 そこまでオショウが言ったとき、けたたましい警告音がギルド内に鳴り響いた!

「緊急!緊急!スフォンの村にて大規模な呪いが発生!村人全員呪いにかかった模様。さらにモンスターの集団に襲われています。至急救援を乞う!繰り返す!至急救援を乞う!」










    
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