カースブレイカーズ 〜美夜ちゃんは呪われた幻夢世界をひっくり返す!〜

ユキマサ

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第二夜 夜の森

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 バーチャルドリーム。
 専用ヘッドギアを着けて眠ることで、夢の中で体験型ゲームが出来るまさしく夢の機械。
 初めは一定の物語をVR 体験させてくれるものだったけど、とうとうRPGまで出来るようになった。
 このバーチャルドリームの最大の特徴は、例え5分間しか眠っていなくても、夢の中では30~60分位の体験が出来ることだろう。ゲームが終わったらそのまま熟睡出来るので、時間のない社会人に大人気。私も働いて帰って寝るだけの生活なので、このゲーム機の販売をどれほど待ちわびたことか。
 そんな私が今プレイしているのが 「カースブレイカーズ」
 やりこみ要素がかなり高い大人気のゲームで、呪われた世界を浄化するのが目的のRPG。
 様々な種族が選べ、モンスターを倒してレベルアップし、依頼をこなして金を稼いで装備を整え、強くなっていく王道ファンタジーゲーム。特徴的なのは、様々な呪いを解くことによって、能力(アビリティ)を得られることだろう。そうやってキャラクターは唯一無二のものになっていくらしい。
 
 スタート地点の森の中の小屋を後にしてフィールドに出ると太陽が眩しく、風が心地良い。VR空間もここまで進化したのかと感心させられる。
 最初の町までは初心者エリアになっていて、こちらから攻撃しない限り襲ってこないモンスターばかりだ。モンスターといっても、この辺りは現実の動物とそう変わらない。体験型のサファリパークだ。
 シマウマの群れが大迫力で走り去り、それをライオンが追いかける。水辺では水牛がのんびりと歩いており、湖に潜れば、色合い豊かな魚と共に泳ぎ回れる。夕日を背に、一斉に飛び立つフラミンゴの群れなど感動ものだ。現実世界では決して間近では見られない光景に、私は酔いしれた。
 そう、夕日。黄昏時。もうすぐ吸血鬼の時間がやってくる。

 安全地帯を抜けた頃には夜になってしまった。ここから先は魔獣が出現し始める。当然夜は昼間のモンスターよりも強く、向こうから襲いかかってくる。女の子の夜道の一人歩きは危険が一杯なのだ。
 いや、本当なら明るいうちに町まで着けるはずなのだが、ちょっとのんびりしすぎてしまったらしい。
 一般的には昼間に出てくるウサギやリス等の草食系の可愛らしいモンスターを一匹づつ倒してレベルを上げ、町についたら装備を整え回復アイテムを揃えてから、狼やゴブリンが複数徘徊する夜のフィールド、もしくは次の町へと向かうそうだ。
 対して、こちらの武装は木の棒一本に布の服といった初期装備。回復薬が十個といった最低限しかなかったりする。
 ここは、すでに町と安全地帯の中間地点。町まで強行突破するっきゃない。
 そう考えた矢先に、こっちに近づく気配が一つ。
 暗闇の奥からゆっくりと近づいてくる狼に気づいて、私は身構える。

 「最悪。ゴブリンライダーじゃない」
 
 黒い狼に子供程度の大きさのゴブリンがまたがっている。子供程度といってもかなりの筋肉質でぶっとい棍棒を握っている。初心者エリアで数多のプレイヤーを打ち倒してきた強敵だ。レベル1の私にとってはボスキャラに等しい。
 だが、夜の私は一味違うのだ。
───────────────────────────────────────
 美夜  レベル1
 種族 〈半吸血鬼〉
 〈HP〉300/100  〈MP〉50/50 
    〈力〉18/6  〈素早さ〉12/4〈体力〉18/6〈技量〉3/3〈魔力〉3/3
    〈知力〉3/3〈精神力〉2/2〈魅力〉15/5〈幸運〉1/1

───────────────────────────────────────
 
 HP、MP、力、素早さ、体力、ついでに魅力の変動ステータスが三倍になっている。これなら充分戦える!
 ステータスは(変動値)/(基礎値)で表示されている。この変動値がこのゲームの大きな特徴の一つなのだが、戦闘前なので割愛させてもらう。
 月と星明かりの下、両者が睨み合うこと数秒後┄┄
 ゴブリンライダーが棍棒を振り回して何か叫びながら走り出した。

 ┈┈負けるか!

 対して私は、左足を前に半身に立ち、杖(木の棒とはもう呼ばない)を高速でクルクル回転させてから腰の高さに水平に構える。
 戦闘開始!
 襲いかかってくるゴブリンライダー。
 私は軽く横にステップして躱しつつ、杖を横凪ぎに振り払う。野球のフルスイングのように。
 ギャンと泣きながら、センターフライ気味に吹っ飛んでゆく黒狼。
 すごいね吸血鬼パワー。通常の三倍のパワーじゃないか。
 だが、飛んでいったのは狼だけ。ゴブリンは直前に宙高く飛び上がり、そのまま落下して襲いかかってくる!
 だが、私にとってそれは悪手でしかない。棍棒を降り下ろそうとするゴブリンの右手首を素早く掴みながら身体を反転、相手の勢いを更に加速させて地面に叩きつける!
 軽い効果音と共に、ゴブリンはあっさりと粒子状になって砕け散ってしまった。
 オオッ!明らかに格上の相手を一発KO。流石吸血鬼パワー。
 幼い頃から、近所の合気道道場に通い続けた成果も出た。杖術もそこで習った。進学や就職で足が遠のいていたが、身体は(この場合は感覚かな?)しっかり覚えているらしい。

 [クリティカルヒット!] 
 [ゴブリンライダーを倒しました]
 [戦闘経験値を獲得しました]
 [力、素早さ、体力が上がりました]
 [棒を使って敵を倒しましたので、称号〈棒術使い〉を獲得しました]
 [称号〈棒術使い〉獲得により〈技術〉が上がりました。]
 [称号〈棒術使い〉によりアビリティ〈棒攻撃力アップ〉を獲得しました]
 [体術を使って敵を倒しましたので、称号〈体術使い〉を獲得しました]
 [称号〈体術使い〉獲得により〈力〉と〈体力〉が上がりました]
 [称号〈体術使い〉によりアビリティ〈素手攻撃力アップ〉を獲得しました]
 [ステータスの総合力によりレベルが1上がりました]
 [レベルアップによりアビリティポイント1を獲得しました]

 次々と目の前にメッセージが流れていく。
 
 [ステータスアップについてのお知らせです。
 戦闘内容により経験値が入り、力、素早さ、体力が上がっていきます。
 技量と魔力はアビリティやスキルを使用することによって増えていきます。
 知力は勉強しましょう。
 精神力は辛いことを耐えることで上がります。
 魅力や幸運はあなたの行動や装備品によって変動します。
 基礎ステータスの合計値によってレベルが上がります。
 レベルアップでアビリティポイントがもらえます。
 アビリティポイントをアビリティに割り振って、各自の冒険スタイルに合った構成を作っていきましょう〕

‥‥何だろう、知力と精神力の上げ方がゲームじゃない気がする。

〔称号はゲーム内の行動によって獲得できます。
 さらに、現実世界での経験によって獲得できる可能性が高まります。
 料理が得意な人がゲーム内で料理をすると、[料理人]の称号を高確率で獲得できます。しかし、料理をやったことがない人が、ゲーム内で料理をすると低位の[料理初心者]の称号を獲得するでしょう。
 称号を得ることによって、各ステータスに補正が付きます。
 称号を得た状態で一定のレベルに達するとアビリティやスキルを獲得します。
 アビリティはアビリティポイントを割り振ることで、効果がアップします。
 スキルは繰り返し使用する事で、スキルレベルがアップします]

 これだけなら、サクサク強くなっていくと思われることだろう。ところがドッコイ。

 [ゴブリンライダーの呪いを受けました。素早さが2下がりました]

 いきなり、呪われてしまった。

 [呪いについての説明です。
 モンスターを倒す、呪われた物に触れる、禁忌を犯す等の行為で、プレイヤーは様々な呪いを受けてしまうことがあります。
 現在ステータス減少、アビリティ封印、行動の制限等を始めとした様々な状態異常がかけられてしまいます。
 呪いを解くには、一定時間の経過、戦闘回数を重ねる等の、自然に回復を待つパターンと、条件をクリアする、祝福ポイントを使って呪いを解くといった、呪いを克服するパターンがあります。
 自然に回復するパターンでは、元の状態に戻るだけですが、克服するパターンでは、ステータスの上昇や、アビリティの取得等が得られます。中には特別なアビリティも有るかもしれません。
 今回は特別に祝福ポイントを差し上げますので、試してみて下さい〕

 視界の端に小さく表示されているアイコンに視点を合わせると、ステータス画面が大きく表示される。

───────────────────────────────────────
 美夜  レベル3
 種族〈半吸血鬼〉
 称号〈棒術使い〉〈体術使い〉
  〈HP〉504/168 〈MP〉30/30
  〈力〉30/10〈素早さ〉22(-2)/8〈体力〉30/10〈技量〉4/4
  〈魔力〉3/3〈知力〉3/3〈精神力〉2/2〈魅力〉15/5〈幸運〉1/1
  
───────────────────────────────────────
 
 力、体力、素早さが上がっているけれど、素早さがアナウンス通りに2P下がっているね。そして、HPと力や体力、技量が微妙に増えているのは〈棒術使い〉と〈体術使い〉の補正効果だろうか。
 
 〔祝福ポイント20を使って呪いを浄化しますか?〕

 〔はい〕を選択して呪いを浄化する。するとファンファーレが鳴り響き──

 〔祝福ポイント20を使いました〕
 〔ゴブリンライダーの呪いを浄化しました〕
    ❲素早さが元に戻った❳
 〔素早さが1P上がった〕

 素早さのステータスが1P上がったことによって、〈素早さ〉25/8と表示が変更された。
 
 [祝福ポイントについてのお知らせです。
 祝福ポイントは、人助けや生産活動等を主とした教会から依頼されるクエストを達成することにより貰えます。他にもNPCやプレイヤーからも貰うことが出来ます。
 しかし、一部の種族(半吸血鬼や半魔族)や犯罪を起こした称号(強盗、殺戮者等)を持つ者は教会に入れません。NPCからも避けられるでしょう。
 これらの人々は、〈異端宣教師〉や〈闇神官〉等の〈僧侶〉系の称号を持つNPCやプレイヤーから祝福ポイントを貰わなければなりません。彼らは街の何処かに居ますので探してみて下さい]
 
 そう、半吸血鬼の私は教会や一般NPCにとって魔物と同じような扱いなのだ。まあ、今気にしても仕方がない。街に着いたら詳しいことが分かるだろう。
 
「よーし。街に着くまでレベル上げと使い魔ゲットに集中しますか」

 私は月明かりの下、狩りを再開した。

 ─────────────────
 ────────
 ───

「なあ、兄弟」

「なんだい?兄貴」

 二人の男が歩いていました。粗末な鎧姿に身を包み、薄汚れた大きな袋を担いでいます。どこから見ても立派な山賊か盗賊です。

「俺たちゃ何でこんな所を歩いているんだ?」

 長身の髭面が問い掛けました。

「えっ?アジトに戻っている途中でしょ」

 小太りの男が答えました。

「いや、途中で休んでいただろ。」

 二人は盗賊でした。街の貴族の館から宝物を盗み出し、追手を振り切り、街を抜け森に逃げ込み、意気揚々とアジトに帰る途中で野営して、交代で見張りと仮眠を取っていた筈でした。

「そういや、そうですよね?って何で夜の森の中を二人で歩いてるんですか!」

「それを俺が聞いてるんだろうが!畜生!ここは何処だ?俺は寝ていたんじゃないのか。──って、まさか?!」

「兄貴、兄貴」

「何だ?黙ってろ!今、俺達は相当ヤバい状態に──」 

「あそこに人が歩いてますぜ。」

「何?」 

 小太りが指差した方向を見ると、杖を持った女の子が歩いていました。
 その娘をひと目見て、髭面の頭から、先程までの疑念は何処かへ吹き飛んでしまいました。
 頭の上に浮かんでいる黒いハートマークで一杯になってしまったように。 

 
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