カースブレイカーズ 〜美夜ちゃんは呪われた幻夢世界をひっくり返す!〜

ユキマサ

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第十七夜 竜歌(ルカ)

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 サウンドドラゴンが大きく息を吸い込んで、何かを放とうとしている。
 それなのに、私の体は少しも動かない。
 不味い!まずい!マズい!

 ヴァヴォン!

 サウンドドラゴンが何か球状のモノを放った!透明なソレは細かく震えながらドンドン迫って来る。私は耐えきれず目をつぶってしまう。
 
 爆発!激音!衝撃!

 私は凄い勢いで吹き飛ばされた。



 衝撃波が炸裂し、辺り一面土煙に包まれる。

「やべえ、もろに喰らったんじゃねえか?」

「完全に硬直していたんだな」

「チクショウ、最後にアレを喰らってゴランの奴は吹き飛ばされて戦闘不能になったんだぞ」

「……ああ、治療も受けられないまま隅っこの方で、サウンドドラゴンが退散するまで痛みに苦しんでたぜ」

「……ゴランよ……」

 遠い目をして過去を振り返るゴランの肩に、オショウが優しく手を置いた。

「そんなことはどうでもいい!早く結界を破って、お嬢ちゃんを救出しないと」

「ハッハッハ、慌てるなゴランよ。上を見ろ」

 慌てるゴランに、オショウが上空を指差す。
 男達が見上げると、宙を舞う美夜の姿が。
 彼女の肩から伸びた蔓が、さっきまで美夜が立ちすくんでた側の木の枝に繋がっている。

「爆発する直前に蔓を伸ばして、上空に逃れていたのよ。全くヒヤヒヤさせるわい。ワッハッハ」

「すげえぞ、嬢ちゃん!全く気付かなかったぜ」

「(確かに、あのタイミングで普通は避けられん。美夜殿も完全に硬直していた。まるで、蔓が独りでに動いて美夜殿を救ったような……)」

 オショウの呟きは、誰の耳にも届かなかった。



 一瞬意識を失っていた様だが、落下する感覚に反射的に目を覚ます。
 今の衝撃で吹き飛ばされたのだろうか、サウンドドラゴンの真上に私はいた。
 しかし、衝撃波を喰らって吹き飛んだ割には痛みもダメージもない。
 あれ?このままだとまたドラゴンさんの上に落っこちるんじゃないの?
 ドラゴンさんは衝撃弾を放った状態で固まっており、私には気付いていないようだ。
 そのままドラゴンさんの背中、首の付け根辺りに再びメテオストライッ!クッ、手足が動かないままなので、モロにお腹打って結構痛い。取りあえず落ちない様にグリンウイップで自分の体とドラゴンの首をグルグル巻き付ける。
 ドラゴンさんが暴れる暴れる。最初のメテオストライクが余程トラウマになったのだろう。完全にパニクっている。ホントにゴメンね。グリンウイップで完全に固定しているから、振り落とされることはないし、この位置は死角になっていて、ドラゴンさんの尻尾や翼も届かない。
 けれど、こちらもまだ体が麻痺して動かないので、お互いに手詰まりの状態だ。……いや、違う!ドラゴンさんがひっくり返って地面で私を押しつぶせば一発で終わりだ。マズい、何とかしないと。
 しかし、ドラゴンさんはひっくり返りはしなかった。パニック状態から立ち直ると、また、大音声の咆哮を上げたのだ。同時に私の体に痛みが走り、HPが削りとられていく。

「ウアアアッ!そうか、これって共振!」

 まだ私の聴覚麻痺は解けていない。それなのに、ドラゴンさんの咆哮がハッキリ聞こえる。そして、私の体に刺さった羽根が細かく振動している。これがドラゴンさんの咆哮に共振して、私の体の中に音とダメージを伝えているんだ。
 困った、体は動かない。グリンウイップも今の状態を維持するのが精一杯で動かせない。グリンウイップを使っている間は他の植物操作は使えないし、地面と離れているので、地形操作も使えない。手も足も出ないとはこの事か。自由に動くのは首から上だけ……

 …………あれ?待てよ、一つだけ手が、いや、二つの牙があった!

 カプッ!チュ~~~!

「キュオオオン?」

 思いがけない攻撃に、すっとんきょうな声を上げるドラゴンさん。まさか血を吸われるとは思ってなかったのだろう。そう、私が直接噛み付いて〈吸血〉を発動させたのだ。いやー今まで〈グリンウイップ〉のトゲばっかり使っていたからすっかり忘れてました。

「グラアアオオン!」

 再び、咆哮を上げ私のHPを削ろうとするドラゴンさん。しかし、私も〈吸血〉でHPを吸い取り回復する。やっぱり直接血を吸うとHPの回復量が大きい。これなら何とか耐えられるだろう。ちなみに〈吸血〉でステータスが上がっても、麻痺が直るわけではないので、ヒルの様にドラゴンさんに口を付けてくっついたままだ。
 かくして、どちらかのHPが尽きるまで、お互いの口撃は続くのであった。



 ズズゥウウン!!

 長い戦いが終わり、遂にドラゴンさんが崩れ落ちた。

〔サウンドドラゴンを倒しました〕
〔美夜は戦闘経験値を入手しました〕

 ……予想通りにステータスは上昇しなかった。体内の種子に吸収されたらしい。うーん、今更だけどこの種子一体何なんだろう?

〔サウンドドラゴンを仲間にしますか?〕
〔〈Yes〉or〈No〉〕

 来たキタ北きたー!
 待望のモンスターゲーット!
 永かった。実に永かった。半吸血鬼なんて昼間役に立たない代わりにモンスターを使役して戦ってもらうテイマー職の様なものよ。教会や人間達からも嫌われてる味噌っかすの様なものよ。本来なら、近くの森に出てくるウサギさんや、ヤマネコさんや、オオカミさんを捕まえて思う存分モフモフしたかったのに、この憎たらしい種子のせいで、ずいぶん遠回りしたものよ。
 しかーし、普通はゲット出来ないはずのフィールドボスを手に入れられたのだから、まあ良しとしようではないか。かなり強いし、見た目も羽毛でふっくらしていてカワイイと言っても良い。そして何よりこの大きさ。これなら軽々と私を乗せて飛んで行けるだろう。それならフォスの村までひとっ飛びで連れて行って貰えるに違いない。
 そんなことを一瞬で考え、当然〈Yes〉を押す。

 ボワン。

 横たわっていたサウンドドラゴンが白いスモークに包まれ見えなくなる。
 おおっ?なんか始まったよ!
 このスモークが晴れたら、サウンドドラゴンさんが仲間になりたそうな目でこちらを見ているに違いない。
 さあ、カモーンウエルカム!
 私は大きく両腕を広げて、歓迎の意を表し、乞い待っていた

 バサッ、バサッ、バサッ。

 ドラゴンは大きく翼を広げて、退散の意を表し、飛び去っていった。

 あれ?えっ?ええーっ?
 何?どゆこと?
 Why do you go to?
 大事なことなので二回言いました。
 しかし、無情にもサウンドドラゴンさんの姿は空の彼方へと消えていったのだった。
 呆然と両腕を広げたままそれを見送る間抜けな私。

「所詮フィールドボスを手懐けるなんて無理なんだよ」

 そんなことをほざきながら、ゴランが私の前にやって来る。

 ほほう。

「だが、その悔しい気持ち良ーく分かるぜ。さあ、俺の胸を貸してやるから存分に泣きな」

 と、両腕を広げ目を閉じ、ウエルカムのポーズ。

 イラッ!

 奇しくも私と同じポーズをとるゴラン。馬鹿にしているようにしか見えないが、何?このままハグしようってこと?
 周囲の男達が「よせ、辞めろ」とジェスチャーで訴えてるが、自分に酔っているゴランには届いていない様だ。
 私は無言でゴランに近付き、右手を握り、左肘に手を添え、そっと寄り添う。

「な、何だ?ダンスでも踊ろうってのか?生憎俺はダンスなんて踊ったことがないぞ」

 慌てるゴランに私は優雅に笑って、

「大丈夫よ。リードしてあげるから、一人で踊ってらっしゃい!」

「へ?」

 足を払うと同時に、右手を押し下げ左肘を押し上げる。

「あれぇーーっ?」

 ゴロゴロと側転しながら転がっていくゴラン。フム、もうちょっと腰を入れれば遠くまで転がるかな?遠慮なく胸を借りて、技の練習とストレス解消に付き合ってもらおう。

 ピシッ

 調理場でよく聞く卵が割れるような音が私の足を止めた。
 全員が音のした方に振り向くと(ひっくり返っているゴランは除く)、スモークが晴れた所に、ラグビーボール大の卵がありドンドンヒビ割れていく。
 まさか、これって。

「ウルゥーー!」

 元気良く殻を突き破り、現れたのはドラゴンの仔だった。

「キャーーッ♡」

 何あれ?何あれ?何なのアレー?
 可愛い!かわゆす!かわゆすぐる!
 ひょっとしなくても、さっきのドラゴンさんの子供だよ!
 大きさは仔猫位に小さく、白と黒とねずみ色が絶妙に混ざったサバトラ柄。
 何よりもその瞳!親ドラゴンは何故か怒り狂った猛獣のような眼をしていたけど、この仔は子犬のようなつぶらな瞳をしているの!
 ああっ!もうどこまで私を悶えさせるのかしら?

〔サウンドドラゴンが仲間になりたそうにこちらを見ている〕
〔仲間にします  〕

「Yes!イエス!イエースッ!」

 選択肢なぞ待っていられず、連呼する私。男達がドン引きしてるが知ったことか!
 早よっ!ハヨッ!はよっ!

〔では、契約の吸血をして下さい(キスでも可)〕

「喜んでーっ!」

 どこぞの居酒屋の常套句を心から叫びながら、サウンドドラゴンちゃんにスライディング正座。
 テコテコと嬉しそうに私の膝の上に乗ってくるドラゴンちゃん。その仔犬の様な口に……

 チュッ。

 キャーッキャーッキャーッ!
 やっちゃった!キスしちゃった!恥ずかしー!

〔サウンドドラゴンが仲間になりました〕

 ファンファーレと共にメッセージが流れる。ありがとう、ありがとう。 

〔名前を付けて下さい〕

 メッセージと共にサウンドドラゴンちゃんのステータスが表示される。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 名前
 □□□□□□□□

 種族
〈サウンドドラゴン〉

 称号
〈サウンドドラゴンの幼竜♀〉
〈美夜の眷属〉

 アビリティ
〈風属性〉
〈音響魔法〉
〈竜眼〉
〈飛行〉
〈眷属同調〉
〈意思疎通〉
〈影帰還〉

 スキル
〔サウンドドラゴンの幼竜♀〕
 〈歌う〉
 〈フェザーショット〉

〈HP〉 30/30 
〈MP〉 40/40 
〈力〉    3/3 
〈素早〉 6/6 
〈体力〉 3/3 
〈技量〉 2/2 
〈魔力〉   4/4 
〈知力〉   1/1 
〈精神〉   1/1 
〈幸運〉   3/3 
〈魅力〉   6/6 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 〈音響魔法〉、〈竜眼〉、〈眷属同調〉、〈影帰還〉と色々気になることはあるけれど、やっぱり一番重要な事は、そう!この子が♀、女の子ということだ!
 さあ、考えろ。この女の子にピッタリな名前を。
 サウンドドラゴン……音の竜、スキルに〈歌う〉があるから歌う竜?美夜と同じように文字をひっくり返して竜歌(りゅうか)、ううん、ルカ!この子はルカ!ルカに決定!

「ウルルゥ~~!」

 名前を入力すると気に入ってくれたのか、ルカが嬉しそうに飛び付いてきた。

 ペロペロ

「アハハ、くすぐったいわよ」

 ペロペロペロペロ

「フフフ、そんなに舐めちゃ駄目よ」

 ペロペロペロペロペロペロペロ………………………………。

「あっ?ちょっと?駄目よそんなところに首突っこんじゃ!ンッ!ンンッ!?アアンッそこだめ……」

 スパンッ!

「いいかげんにせんかい!」

 あきれた声でオショウが私を引っぱたき、正気に戻してくれた。

「ウル?」

 無垢な瞳で不思議そうに私を見つめるルカ。この子は母親に甘えているに過ぎないのだ。
 でも、ちゃんと躾けなければ。人前でまた服の中に首を突っ込まれてペロペロされたら大変だ。

「ルカ!」

 心を鬼にして叱らなければ!

「……ウルゥ」

 叱られると思ったのか、怯えた声を上げるルカ。
 その瞳がウルウルしてる。

「…………」

 男達が息を呑むのが伝わる。

「大好き♡」

「ウルゥ!」

 しっかりと抱きしめ、私はキスの嵐を、ルカはペロペロの雨を互いに交わし合う。
 ズデンと男達がひっくり返った。

「ちょっと何ひっくり返ってんのよ?早くフォスの村に行くわよ!」

 ルカを抱え上げ、何故かズッコケてる男達に声をかける。全く何やってんだか……

「誰のせいだ!誰の。そのチビを躾けるんじゃねえのか?」

「生まれたばかりの赤ちゃんを叱れる訳ないでしょう!こんなに可愛いのに。大好きよ~ルカ」

「やれやれ、これじゃどっちが魅了されたのか分からんのう。ハッハッハ」

「まあ、フィールドボスがいなくなったから、しばらくモンスターは出て来ないぜ。フォスの村はこっちだ」

「ちょっとオイラにも触らせて欲しいんだな」

「絶対にお断りよ」

「ウルルーッ」

 和気藹々と森を抜けようとする一行。




「…………おーい、俺は置いてけぼりかよ?これじゃ道化を演じた俺があまりに可哀想じゃね?」

 一人ひっくり返って動けないゴランを残して。
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