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第二十三夜 炸裂!必殺料理
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全生命の存亡を賭けた、決戦開始の狼煙が今立ち上る!
「ほら、そこ!もっと炭をくべて。団扇でパンパン扇いで!」
「手がキツいニャー。熱いニャー」
「こら、ミャウル!鳥肉は手元側に小さめの肉、大きめの肉を先っぽに刺していかないと上手く焼けないわよ」
「鳥人族のいたいけな少女に、鳥肉の串打ちさせるなんて鬼ミャ、悪魔ミャ、吸血鬼ミャ!」
「その通りですけど、何か」
「皮肉が通じないミャ!」
「黙ってそこの皮肉を串に通しなさい」
「上手いことやり返されたミャ!」
「チクショウ、無茶苦茶いい匂いさせやがって。俺にも一本食わせてくれよ」
「そんな余裕ないわよ、ゴラン。戦力外通知受けたんだから、大人しく手伝いなさい。ハイ!追加十本おまちどう」
焼き上がったヤキトリを、マーレさんに手渡す。タレ五本、塩五本の盛り合わせだ。
「旨い!脂が口の中に溢れる!噛めば噛むほど味と脂が溢れるぞ!」
「当然さ!朝一番に村の猟師が獲ってきたロケッ鳥だよ。沢山あるからどんどん食べとくれ」
あの沈着冷静なレンバさんが舌鼓を打ってる。他の戦闘に参加するメンバーやモンスターまで一心不乱にヤキトリを噛み締めて味わっている。
マーレさんの言うとおり、元気になった村の人達が色々な食材を私達に託してくれたのだ。
ロケッ鳥とは、その身に上質の脂をたっぷりと蓄え、戦闘時には炎を吐き、逃走時にはお尻からジェット噴射のように炎を噴いて、加速して走り去るダチョウのような大型の鳥らしい。中にはロケットの如く空高く飛び上がり、崖や川を飛び越えて逃げ切る猛者もいるんだとか。
その身に染みこんだ脂は上質で、肉も走り回っている為か弾力があり、一切れ噛めば口の中が脂で一杯になるという高級食材である。
そんな鳥肉を贅沢にもヤキトリにして炭火でガンガン焼いているのだ。辺り一面に煙と共に鳥肉と脂とタレの焼ける何とも言えない香りが、風に乗って広がって行く。
「まさか、あの塩っぱいジャンの実と黒砂糖と酒でこんなタレが出来るなんてね。おばちゃんビックリだよ」
「フッフッフ、あの実はまだまだ使い道があるわよ。今度ゆっくり教えてあげる」
そう、マーレさんが持ってきた荷物の中に、醤油の代用品になる木の実が入っていたのだ。ただし、食用としてではなく、強い塩分とその香りによる防腐剤として、この世界では使われているらしい。
その実を煮詰めれば、濃い醤油がとれるが、そのままでは食べられたものじゃない。水、酒、ユニコーンの秘薬で薄めて、やっと口にできる様になった。それに、黒砂糖やロケッ鳥の脂を足しながら再度煮詰めて、調味料で味を整えれば、焼きダレの完成である。
「おい、また新手が来たようだぞ」
ニックさんの見つめる先には、虎やブラックゴブリンが数多のモンスターや動物を連れてやって来る。これ以上誤神木に力を付けさせないために、そして被害を出さないために、誤神木の出す香りに誘われた動物たちをこちらに引っ張ってきたのだ。
先ずは、相手の力を削ぐ!
さらに、こちらの戦力を増やす!
それが、計画の一手目である。
「美夜殿の料理を食べれば呪いは解ける!しかし、あの誤神木という呪いを振りまき、全てを己が養分とせんとする巨木を打ち倒さねば、結局我らは滅びる!魔物達は共に戦え!戦えぬ動物たちは、動けない他の仲間たちにこの料理を運び皆を救え!」
虎の雄叫びに、料理を食べて復活したモンスターや動物たちが呼応する。
全員が飢え死にする運命から、生き残る為に種族を超えて共に戦うという宣言であった。
そして、それは同時に……
「ホラ!大量の追加注文が入ったわよ!刺せ刺せ!扇げ扇げ!どんどん焼いていくからね!」
「もう無理ニャー。涙が溢れるのは、熱のせいだけじゃないニャー」
「ミャ……ミャ……ミャ」
「ああっ!ミャウルちゃんが死んだ魚の様な目に」
……私達への死刑宣告であった。
こうして、誤神木に対する開戦の狼煙は、ヤキトリの香ばしい匂いを乗せて、天高く立ち上るのだった。
おかしい……
誤神木と呼ばれるその木は、異変を感じていた。
今まで順調に集まっていた養分が来なくなった。
龍脈からも膨大なエネルギーを吸い込んでいるが、それ以外にも知識や情報が必要なのだ。
それがなくては、あれは完成しない。
動物や魔物の情報はある程度吸い込んだ。
後は、やはり人間だ。
あの生き物の身体の構成情報、受け継がれた知識、能力による進化の秘密などが、どうしても欲しいのだ。
動物や魔物を捕食して、その情報から、飢えた生き物をおびき寄せる香りは完成した。
これを広げれば、弱った人間共を集められるのに、養分が足りず、強い香りが出せない。
人間が欲しい。
人間が必要だ。
人間が喰いたい。
……喰いたい?
喰うとは動物の本能だった筈だが……
今まで感じなかったモノが生まれている。これも知識や情報を取り入れたせいか?
疑問……これも新しい感情だ。
どうして、獲物は近づいてこないのか。
幾千もの葉がその原因を感じ取る。
煙……それに含まれている肉の焼ける匂いが、我の芳香を打ち消しているのだ。
その煙の元に、人間の気配を感じる。
欲しい。
欲しい。
喰いたい。
何か我と似た気配を感じるが、どうでもよい。共に喰らい吸収するまで。
だが、人間のいる場所は遠く、我の枝も根も届かぬ。
香りも打ち消され、引き寄せることも出来ぬ。
どうする。
どうする?
何だ……強い力を感じる。
あれは、前に我に戦いを挑んだモノだ。
強い力……雷を放つ獣だ。
怖い。
恐ろしい。
嫌だ。
どうする。
同じ事をするのだ。
力をかなり使うが、前と同じ事をすれば良い。
獣を追い払い、他の人間や動物を我が内へ引き込むのだ。
そうしよう。
名前……
力を使うには、相応しい名を付けた方が良い。
そうすれば、力はさらに強くなる。
誰が我に伝えた?
魔獣の知識?
いや、これは我を生んだモノの伝言。
ならば名付けよう。
おまえたちの名は「花果使(かかし)だ」
「出てきたぞ。奴等だ」
虎の言葉に、全員が誤神木を注目する。
誤神木の枝から、一抱えもある真っ赤に熟れた実が、次から次へと落ちていく。
地面に落ちた実から太い根が伸びる。しかし、それは地中に伸びることなく、四方に伸びた根はワシャワシャと地面をかき分けながら、こちらへと向かって来る。
根を足とするなら、胴体に当たる実の上部からは茎が伸び、そこからイバラの蝕腕と、頭部に当たる花を咲かせた。
その数およそ百体。
それが一斉にこちらに向かってくる。
「自分は以前奴と戦った時、あの軍勢を生み出され押し負けたのだ。催淫効果のある香りはうっとうしいが強さはたいしたことな……ム?強さが増している。奴め、名前を付けることを覚えたか。『花果使(かかし)』だと?ふざけた名を付けおって」
虎がブツブツ呟いている。
なるほど、あの軍勢に一匹で立ち向かってやられたのか。無理もない。それで仲間を求めていたのね。
「ちょっと、それヤバいんじゃないの?こっちがいくら数を揃えたって、香りで操られたら、逆に不利になるわよ」
私の言葉に、虎は何かあきれたように、
「無自覚とは恐ろしいな」
と、また呟くのだった。
はて?……
花果使の群れが波のように押し寄せて来る。
対するこちらの戦力は、
影使いのナナンダ。
狩人のニック。
豹獣人のジャガマルク。
それに、ブラックゴブリン五匹と、ダークウルフ三匹がそれぞれ新たに集まったモンスター八十匹を率いて先陣を切る。
モンスターも、ホーンベアやフォレストウルフ、アーマーブルなどの強者に厳選しているので、花果使相手でも有利に戦えるだろう。
そして、防御力の高い実力者達が本隊として、根の槍衾を抜けて誤神木を攻撃するのだ。
修行僧のレンバ。
熊猫獣人のコランダ。
〈封雷の虎〉。
の二人と一匹である。
……ん?
私とルカ、ゴランとリッカにミャウル、そしてマーレさんは後方支援として、ここに残るし、オショウは別の役目でここにはいないけど、誰か忘れているような?
「おお、こりゃ壮観やな。こんなモンスター同士の合戦なんて滅多にお目にかかれんで」
私の後ろでヤキトリ片手に観戦モードになっているのは、中年エルフのネルフだった。
「……あんた、ここで何やってんの?」
「え?仕事終わったんで後は見学でもと……」
「いや、戦闘に参加しなさいよ!あんた強いんでしょ?」
「冗談言わんといてや。あんな乱戦の中に陰陽師が参加してどうするん?」
「そりゃそうだけど……でも、全属性持ちの魔法のエキスパートでしょ?爆裂や天竜魔法で一発ドカンと……」
「わて、そんなんよう使わんわ」
は?
「わてが使えるのは、〈天竜〉やのうて〈風水〉や。風向きや地面の水脈から、建物のなんかの場所や方角の良いところを調べる術や」
へ?
「あと、〈龍脈〉やのうて〈金行〉。地中から鉱物を探り取り出したりするのに重宝しますな。〈植物〉はちょっと変化して〈木行〉や。数十年かかる木の生長を二、三日に短縮できるで。どや、凄いやろ」
なぜか扇子をバッと開いて自慢するネルフ。
「じ、じゃあ火と風の合成魔法は?」
「〈乾燥〉や」
恐る恐る尋ねる私に、ドきっぱりとネルフは答えた。
攻撃性の欠片もねえ……
「干物作りや地下室なんかの除湿、木材を適度に乾燥させて、より上質な木材として建築ギルドに卸すなど、結構重宝されとるんや」
「アタシラモ、テツダッテルヨ」
火焔揚羽の妖精あかりちゃんが、すかさずアピール。
うんうん、ええ娘や、ほんまええ娘や。
しかし、そうするとこの人の得意分野って……
「ブッワハハハ、その通りだよ、お嬢ちゃん。このオッサンは建築や生産関係に特化してるんだ」
側で聞いてたゴランが笑いながら口を挟む。
「魔力は高いのに、他の八属性も二つ三つの基本的なものしか使えねえんだ。建築関係に特化した陰陽師のオッサンエルフ。笑えるだろ?笑エルフだな」
ネルフと肩を組みながら大笑いするゴラン。
……笑エルフ。この人一人でどんどん私の中のエルフのイメージが急降下していってるんですけど。高潔で頭の固い男性エルフのイメージ何処行った?
ドジっ娘エルフやエロフとは違う意味で駄メルフである。
でも、各属性二、三種類使えるってことは、属性全部で十二あるから、二十四~三十二も使えるってことだよね。私は植物が六に地形が三だから、十分に凄いんじゃないかな。それに、絶対この人大技一発かますよりも、小さな効果を積み重ねて、多大な成果を出す熟練の技巧派タイプだと思うんだけど。
「……嬢ちゃんはコイツのこと馬鹿にしないのかい?」
どこかイタズラ小僧がするように、挑発的な口調で尋ねるゴラン。
なら、正直に答えるか。
「私が真っ正面から向かっていったって、この人にのらりくらりと躱され、いつの間にか小技を積み重ねられて詰んでしまう状況しか思い浮かばないわ。だから、侮ったりはしない。でも、笑エルフには笑っちゃうわね」
その答えに、ゴランはイタズラが成功したかのようにニカッと笑って、
「やっぱ最高だよ、お嬢ちゃん。もし、このオッサンを見た目で見下してたら、俺達もあんたをその程度と見限っていただろうぜ」
上機嫌になったゴランは、そのまま昔語りを始めるのだった。
「元々コイツの護衛ってことで、俺とナナンダが雇われたのが始まりさ」
ほうほう。
「農村に行けば、最適な場所に農地を広げ、山に行けば伐採し過ぎてハゲ山になったところに木を生やし、木材を乾燥させて良質な品に変えちまう。海辺に行けば、干物作りや塩造りの手伝いでおばちゃんたちの大スターさ」
ふむふむ。
「しかし、その高すぎる能力と、コイツのいいかげんな性格が災いして、いろんな奴に目を付けられてな。何度トラブルに巻き込まれ命の危機に遭ったことやら」
「なんのなんの、お前さんも結構トラブルを巻き起こしたり、むしろ増大させとるからな、リーダーさん」
ハッハッハと笑い合う二人。
何だろう、この二人の面倒を見ているナナンダさんの苦労を思うと、鼻の奥がツンとくるよ。
「そんなことやってるうちに、どんどんレベルやギルドのランクが上がり、ニックやレンバを仲間にして、今の〈影馬車隊〉が出来たって訳だ」
なるほどなるほど。ナナンダさんもしっかりした常識人が入ってくれて、さぞかし安心しただろう。レンバさんなんか本当に手綱握ってるし。
「そこで、だ」
ゴランがンッンッと咳払いしながら切り出した。
「改めて、勧誘するぜ。俺たちのパーティーに入らないか?ギルドでの誘いは最低だったからな。勿論、この戦いにお互い生き残ったらの話だけどな」
「とりあえず、今んところ大丈夫やろ。ほら見てみ、かなり押しとるで」
戦場に目を戻すと、圧倒的にこちらが優勢だ。虎が警戒していたが、どうやら杞憂だったみたいね。
「無自覚ちゅうんは恐ろしいもんやな」
何か虎と同じ事を呟きながら、ケガした者の為に薬を作る、とサッサと立ち去るネルフ。ゴランも串打ちに戻っていった。
「美夜ニャン、美夜ニャン」
二人がいなくなった後、足元からしゃがんだリッカが呼びかける。
うあ、ビックリした。気付かなかったよ。さては、忍者スキルで気配消してたなこの猫ニャン者。
「分かっているニャ?この状況」
もちろん分かっている。これは……
「あの男、死亡フラグ立てやがった(よ)(ニャン)!」
見事に、声が重なる私達。
「どうするニャ?どうするニャ?」
「いや、どうするったって、まあ、このまま串打ってもらって戦場に送らないようにするしかないんじゃない?」
「別の意味で死んじゃいそうな気がするニャン」
「そこまでは知らないわよ。このまま戦況が押し切ってくれることを祈りましょう」
そう言いながら、私がヤキトリを焼き、リッカが火を煽る。
実は、この作業が戦況を左右しているなど、その時の私達は知るよしもなかった。
そして、あまりに忙しくて、メッセージがすでに表示されていたのにも気付かなかったのである。
〔〈必殺料理〉が発動しました〕
おかしい。
また、誤神木は思った。
花果使がまるで役に立たない。
確かに攻撃力は高くないが、花果使の本質は、花がその香りで蝶や蜂を呼び寄せ、受粉させるように、獲物を惑わせ魅了し、我の根元へ導くことなのだ。
だが、今戦っているモンスター達にはまるで効いていないではないか。
あの〈封雷の虎〉を追い払った時よりも、花果使の力は増しているというのに。
獣タイプのモンスターが、花果使の胴体に当たる果実に噛み付き、実を噛みちぎった。
これで、このモンスターは確実に魅了にかかり、抵抗することなく我にその身を捧げるのだ。
捧げなければならないのだ。
だが、何故影響が出ない!
何故戦い続けるのだ!
おかしい。
おかしい。
おかしい。
誤神木は芽生えたばかりの知性で必死に分析を続けるのであった。
その理由は、美夜の焼くヤキトリにあった!
美夜が新たに獲得した〈戦場の料理人〉の固有スキル〈必殺料理〉は、戦場で料理を作り味方の腹を満たすことによって、様々な効果を発現させるというものであった。
タレに一角馬の秘薬を使ったことにより、あらゆる呪いの解呪はもちろん、炎を吐くロケッ鳥の肉による火属性付与。これにより、モンスター達の攻撃に火属性が付いたため、植物属性の花果使に大ダメージを与え戦況を有利に進めた。
さらに、〈必殺料理〉はさらなる効果を食べた者に与える。
どこかの料理学校の総帥が語るところによれば、〈必殺料理〉(スペシャリテ)とはその料理人のこだわり、技術、思いなどが込められた作り手の顔が見える料理のことであると。
では、美夜の作った料理には何が込められているのか。
それは、魅了。
半吸血鬼と花人族。両方のアビリティを合わせ持つ美夜のオリジナルアビリティ〈魔性の魅了〉。これこそが美夜の最大の個性。
その効果が〈必殺料理〉が発現した瞬間料理に宿り、それを食べ生命を救われたモンスター達をもれなく全員魅了したのであった。
その為、彼等は花果使の魅了にかかることはなく存分に戦える。さらに、種族がバラバラでも、美夜という絶対の主の元で一致団結し、ブラックゴブリンやダークウルフの指示に従い、統率の取れた動きで花果使の群れをなぎ払っていった。
なお、フォスの村からやって来たメンバーは魅了の効果こそ出ていないが、以前食べた料理から強いステータスアップの効果や魅了などの状態異常耐性を得ており誤神木に操られる事なく、花果使を楽々と倒していた。
そして、〈必殺料理〉はその名にふさわしい効果をも発揮していたのである。
ヌウウウッ!
誤神木は唸った。
その苛立ちは枝葉を激しく揺らし、ザワザワと激しい葉音を周囲に響かせた。
「すでに魅了されていて我が力が効かないだと?あの女が……我と似た気配を持つあの女が我よりも強い力を持つというのか」
誤神木はさらに激しく枝葉を揺らすが、それもやがて収まる。
「ならば、もっと強い果実を生み出せば良い。あの女よりも強い魅了効果の味と香りを持つ花果使をもっと大量に」
だが……
「実が生らぬ!花が咲かぬ!芽が出ぬ!何故だ?何故だ?」
誤神木は混乱した。
新しい実を生らす為の花が咲かない。何かが芽が生えるのを妨害しているのだ。
そこで、初めて誤神木は異変に気付く。己の身に起きていた異変に。
「これは……あの煙が原因かっ!」
正解である。
ロケッ鳥の強い油分をふんだんに含んだ煙、すなわち油煙は薄く広がり、風に乗り、誤神木の気付かぬ内にその身にまとわりついていたのだ。
そして、台所の換気扇にこびり付いた油汚れのように固まり、新芽が生えるのを阻害しているのであった。
なお、これには〈風水〉により、絶妙な風向きの場所を拠点、すなわちヤキトリの調理場に選択したネルフの貢献が大きいが、本人がそこまで計算していたのかどうかは謎である。
おのれっ!
おのれっ!
おのれぇぇっ!
怨嗟のざわめきを発する誤神木。あまりの怒りに所々に亀裂が走る!
「あの女!料理一つで我をここまで追い込むかっ!あの女だっ!〈封雷の虎〉よりもあの女が我の最大の敵だ!」
その怒りが新たな能力を目覚めさせる。
「あの女はただでは殺さん。あの料理のように生かしたまま我が枝で突き刺し、永劫の苦しみを与えてやる。それにはあの獣が適任か。行け、新しい僕〈魔枝螺〉(マシラ)よ!」
誤神木の怒りが美夜一人に集中し、新たな魔物が美夜を狙う!
しかし、そんなことなど全く知るよしもない美夜は、必死にヤキトリを焼き続けるのであった。
「ほら、そこ!もっと炭をくべて。団扇でパンパン扇いで!」
「手がキツいニャー。熱いニャー」
「こら、ミャウル!鳥肉は手元側に小さめの肉、大きめの肉を先っぽに刺していかないと上手く焼けないわよ」
「鳥人族のいたいけな少女に、鳥肉の串打ちさせるなんて鬼ミャ、悪魔ミャ、吸血鬼ミャ!」
「その通りですけど、何か」
「皮肉が通じないミャ!」
「黙ってそこの皮肉を串に通しなさい」
「上手いことやり返されたミャ!」
「チクショウ、無茶苦茶いい匂いさせやがって。俺にも一本食わせてくれよ」
「そんな余裕ないわよ、ゴラン。戦力外通知受けたんだから、大人しく手伝いなさい。ハイ!追加十本おまちどう」
焼き上がったヤキトリを、マーレさんに手渡す。タレ五本、塩五本の盛り合わせだ。
「旨い!脂が口の中に溢れる!噛めば噛むほど味と脂が溢れるぞ!」
「当然さ!朝一番に村の猟師が獲ってきたロケッ鳥だよ。沢山あるからどんどん食べとくれ」
あの沈着冷静なレンバさんが舌鼓を打ってる。他の戦闘に参加するメンバーやモンスターまで一心不乱にヤキトリを噛み締めて味わっている。
マーレさんの言うとおり、元気になった村の人達が色々な食材を私達に託してくれたのだ。
ロケッ鳥とは、その身に上質の脂をたっぷりと蓄え、戦闘時には炎を吐き、逃走時にはお尻からジェット噴射のように炎を噴いて、加速して走り去るダチョウのような大型の鳥らしい。中にはロケットの如く空高く飛び上がり、崖や川を飛び越えて逃げ切る猛者もいるんだとか。
その身に染みこんだ脂は上質で、肉も走り回っている為か弾力があり、一切れ噛めば口の中が脂で一杯になるという高級食材である。
そんな鳥肉を贅沢にもヤキトリにして炭火でガンガン焼いているのだ。辺り一面に煙と共に鳥肉と脂とタレの焼ける何とも言えない香りが、風に乗って広がって行く。
「まさか、あの塩っぱいジャンの実と黒砂糖と酒でこんなタレが出来るなんてね。おばちゃんビックリだよ」
「フッフッフ、あの実はまだまだ使い道があるわよ。今度ゆっくり教えてあげる」
そう、マーレさんが持ってきた荷物の中に、醤油の代用品になる木の実が入っていたのだ。ただし、食用としてではなく、強い塩分とその香りによる防腐剤として、この世界では使われているらしい。
その実を煮詰めれば、濃い醤油がとれるが、そのままでは食べられたものじゃない。水、酒、ユニコーンの秘薬で薄めて、やっと口にできる様になった。それに、黒砂糖やロケッ鳥の脂を足しながら再度煮詰めて、調味料で味を整えれば、焼きダレの完成である。
「おい、また新手が来たようだぞ」
ニックさんの見つめる先には、虎やブラックゴブリンが数多のモンスターや動物を連れてやって来る。これ以上誤神木に力を付けさせないために、そして被害を出さないために、誤神木の出す香りに誘われた動物たちをこちらに引っ張ってきたのだ。
先ずは、相手の力を削ぐ!
さらに、こちらの戦力を増やす!
それが、計画の一手目である。
「美夜殿の料理を食べれば呪いは解ける!しかし、あの誤神木という呪いを振りまき、全てを己が養分とせんとする巨木を打ち倒さねば、結局我らは滅びる!魔物達は共に戦え!戦えぬ動物たちは、動けない他の仲間たちにこの料理を運び皆を救え!」
虎の雄叫びに、料理を食べて復活したモンスターや動物たちが呼応する。
全員が飢え死にする運命から、生き残る為に種族を超えて共に戦うという宣言であった。
そして、それは同時に……
「ホラ!大量の追加注文が入ったわよ!刺せ刺せ!扇げ扇げ!どんどん焼いていくからね!」
「もう無理ニャー。涙が溢れるのは、熱のせいだけじゃないニャー」
「ミャ……ミャ……ミャ」
「ああっ!ミャウルちゃんが死んだ魚の様な目に」
……私達への死刑宣告であった。
こうして、誤神木に対する開戦の狼煙は、ヤキトリの香ばしい匂いを乗せて、天高く立ち上るのだった。
おかしい……
誤神木と呼ばれるその木は、異変を感じていた。
今まで順調に集まっていた養分が来なくなった。
龍脈からも膨大なエネルギーを吸い込んでいるが、それ以外にも知識や情報が必要なのだ。
それがなくては、あれは完成しない。
動物や魔物の情報はある程度吸い込んだ。
後は、やはり人間だ。
あの生き物の身体の構成情報、受け継がれた知識、能力による進化の秘密などが、どうしても欲しいのだ。
動物や魔物を捕食して、その情報から、飢えた生き物をおびき寄せる香りは完成した。
これを広げれば、弱った人間共を集められるのに、養分が足りず、強い香りが出せない。
人間が欲しい。
人間が必要だ。
人間が喰いたい。
……喰いたい?
喰うとは動物の本能だった筈だが……
今まで感じなかったモノが生まれている。これも知識や情報を取り入れたせいか?
疑問……これも新しい感情だ。
どうして、獲物は近づいてこないのか。
幾千もの葉がその原因を感じ取る。
煙……それに含まれている肉の焼ける匂いが、我の芳香を打ち消しているのだ。
その煙の元に、人間の気配を感じる。
欲しい。
欲しい。
喰いたい。
何か我と似た気配を感じるが、どうでもよい。共に喰らい吸収するまで。
だが、人間のいる場所は遠く、我の枝も根も届かぬ。
香りも打ち消され、引き寄せることも出来ぬ。
どうする。
どうする?
何だ……強い力を感じる。
あれは、前に我に戦いを挑んだモノだ。
強い力……雷を放つ獣だ。
怖い。
恐ろしい。
嫌だ。
どうする。
同じ事をするのだ。
力をかなり使うが、前と同じ事をすれば良い。
獣を追い払い、他の人間や動物を我が内へ引き込むのだ。
そうしよう。
名前……
力を使うには、相応しい名を付けた方が良い。
そうすれば、力はさらに強くなる。
誰が我に伝えた?
魔獣の知識?
いや、これは我を生んだモノの伝言。
ならば名付けよう。
おまえたちの名は「花果使(かかし)だ」
「出てきたぞ。奴等だ」
虎の言葉に、全員が誤神木を注目する。
誤神木の枝から、一抱えもある真っ赤に熟れた実が、次から次へと落ちていく。
地面に落ちた実から太い根が伸びる。しかし、それは地中に伸びることなく、四方に伸びた根はワシャワシャと地面をかき分けながら、こちらへと向かって来る。
根を足とするなら、胴体に当たる実の上部からは茎が伸び、そこからイバラの蝕腕と、頭部に当たる花を咲かせた。
その数およそ百体。
それが一斉にこちらに向かってくる。
「自分は以前奴と戦った時、あの軍勢を生み出され押し負けたのだ。催淫効果のある香りはうっとうしいが強さはたいしたことな……ム?強さが増している。奴め、名前を付けることを覚えたか。『花果使(かかし)』だと?ふざけた名を付けおって」
虎がブツブツ呟いている。
なるほど、あの軍勢に一匹で立ち向かってやられたのか。無理もない。それで仲間を求めていたのね。
「ちょっと、それヤバいんじゃないの?こっちがいくら数を揃えたって、香りで操られたら、逆に不利になるわよ」
私の言葉に、虎は何かあきれたように、
「無自覚とは恐ろしいな」
と、また呟くのだった。
はて?……
花果使の群れが波のように押し寄せて来る。
対するこちらの戦力は、
影使いのナナンダ。
狩人のニック。
豹獣人のジャガマルク。
それに、ブラックゴブリン五匹と、ダークウルフ三匹がそれぞれ新たに集まったモンスター八十匹を率いて先陣を切る。
モンスターも、ホーンベアやフォレストウルフ、アーマーブルなどの強者に厳選しているので、花果使相手でも有利に戦えるだろう。
そして、防御力の高い実力者達が本隊として、根の槍衾を抜けて誤神木を攻撃するのだ。
修行僧のレンバ。
熊猫獣人のコランダ。
〈封雷の虎〉。
の二人と一匹である。
……ん?
私とルカ、ゴランとリッカにミャウル、そしてマーレさんは後方支援として、ここに残るし、オショウは別の役目でここにはいないけど、誰か忘れているような?
「おお、こりゃ壮観やな。こんなモンスター同士の合戦なんて滅多にお目にかかれんで」
私の後ろでヤキトリ片手に観戦モードになっているのは、中年エルフのネルフだった。
「……あんた、ここで何やってんの?」
「え?仕事終わったんで後は見学でもと……」
「いや、戦闘に参加しなさいよ!あんた強いんでしょ?」
「冗談言わんといてや。あんな乱戦の中に陰陽師が参加してどうするん?」
「そりゃそうだけど……でも、全属性持ちの魔法のエキスパートでしょ?爆裂や天竜魔法で一発ドカンと……」
「わて、そんなんよう使わんわ」
は?
「わてが使えるのは、〈天竜〉やのうて〈風水〉や。風向きや地面の水脈から、建物のなんかの場所や方角の良いところを調べる術や」
へ?
「あと、〈龍脈〉やのうて〈金行〉。地中から鉱物を探り取り出したりするのに重宝しますな。〈植物〉はちょっと変化して〈木行〉や。数十年かかる木の生長を二、三日に短縮できるで。どや、凄いやろ」
なぜか扇子をバッと開いて自慢するネルフ。
「じ、じゃあ火と風の合成魔法は?」
「〈乾燥〉や」
恐る恐る尋ねる私に、ドきっぱりとネルフは答えた。
攻撃性の欠片もねえ……
「干物作りや地下室なんかの除湿、木材を適度に乾燥させて、より上質な木材として建築ギルドに卸すなど、結構重宝されとるんや」
「アタシラモ、テツダッテルヨ」
火焔揚羽の妖精あかりちゃんが、すかさずアピール。
うんうん、ええ娘や、ほんまええ娘や。
しかし、そうするとこの人の得意分野って……
「ブッワハハハ、その通りだよ、お嬢ちゃん。このオッサンは建築や生産関係に特化してるんだ」
側で聞いてたゴランが笑いながら口を挟む。
「魔力は高いのに、他の八属性も二つ三つの基本的なものしか使えねえんだ。建築関係に特化した陰陽師のオッサンエルフ。笑えるだろ?笑エルフだな」
ネルフと肩を組みながら大笑いするゴラン。
……笑エルフ。この人一人でどんどん私の中のエルフのイメージが急降下していってるんですけど。高潔で頭の固い男性エルフのイメージ何処行った?
ドジっ娘エルフやエロフとは違う意味で駄メルフである。
でも、各属性二、三種類使えるってことは、属性全部で十二あるから、二十四~三十二も使えるってことだよね。私は植物が六に地形が三だから、十分に凄いんじゃないかな。それに、絶対この人大技一発かますよりも、小さな効果を積み重ねて、多大な成果を出す熟練の技巧派タイプだと思うんだけど。
「……嬢ちゃんはコイツのこと馬鹿にしないのかい?」
どこかイタズラ小僧がするように、挑発的な口調で尋ねるゴラン。
なら、正直に答えるか。
「私が真っ正面から向かっていったって、この人にのらりくらりと躱され、いつの間にか小技を積み重ねられて詰んでしまう状況しか思い浮かばないわ。だから、侮ったりはしない。でも、笑エルフには笑っちゃうわね」
その答えに、ゴランはイタズラが成功したかのようにニカッと笑って、
「やっぱ最高だよ、お嬢ちゃん。もし、このオッサンを見た目で見下してたら、俺達もあんたをその程度と見限っていただろうぜ」
上機嫌になったゴランは、そのまま昔語りを始めるのだった。
「元々コイツの護衛ってことで、俺とナナンダが雇われたのが始まりさ」
ほうほう。
「農村に行けば、最適な場所に農地を広げ、山に行けば伐採し過ぎてハゲ山になったところに木を生やし、木材を乾燥させて良質な品に変えちまう。海辺に行けば、干物作りや塩造りの手伝いでおばちゃんたちの大スターさ」
ふむふむ。
「しかし、その高すぎる能力と、コイツのいいかげんな性格が災いして、いろんな奴に目を付けられてな。何度トラブルに巻き込まれ命の危機に遭ったことやら」
「なんのなんの、お前さんも結構トラブルを巻き起こしたり、むしろ増大させとるからな、リーダーさん」
ハッハッハと笑い合う二人。
何だろう、この二人の面倒を見ているナナンダさんの苦労を思うと、鼻の奥がツンとくるよ。
「そんなことやってるうちに、どんどんレベルやギルドのランクが上がり、ニックやレンバを仲間にして、今の〈影馬車隊〉が出来たって訳だ」
なるほどなるほど。ナナンダさんもしっかりした常識人が入ってくれて、さぞかし安心しただろう。レンバさんなんか本当に手綱握ってるし。
「そこで、だ」
ゴランがンッンッと咳払いしながら切り出した。
「改めて、勧誘するぜ。俺たちのパーティーに入らないか?ギルドでの誘いは最低だったからな。勿論、この戦いにお互い生き残ったらの話だけどな」
「とりあえず、今んところ大丈夫やろ。ほら見てみ、かなり押しとるで」
戦場に目を戻すと、圧倒的にこちらが優勢だ。虎が警戒していたが、どうやら杞憂だったみたいね。
「無自覚ちゅうんは恐ろしいもんやな」
何か虎と同じ事を呟きながら、ケガした者の為に薬を作る、とサッサと立ち去るネルフ。ゴランも串打ちに戻っていった。
「美夜ニャン、美夜ニャン」
二人がいなくなった後、足元からしゃがんだリッカが呼びかける。
うあ、ビックリした。気付かなかったよ。さては、忍者スキルで気配消してたなこの猫ニャン者。
「分かっているニャ?この状況」
もちろん分かっている。これは……
「あの男、死亡フラグ立てやがった(よ)(ニャン)!」
見事に、声が重なる私達。
「どうするニャ?どうするニャ?」
「いや、どうするったって、まあ、このまま串打ってもらって戦場に送らないようにするしかないんじゃない?」
「別の意味で死んじゃいそうな気がするニャン」
「そこまでは知らないわよ。このまま戦況が押し切ってくれることを祈りましょう」
そう言いながら、私がヤキトリを焼き、リッカが火を煽る。
実は、この作業が戦況を左右しているなど、その時の私達は知るよしもなかった。
そして、あまりに忙しくて、メッセージがすでに表示されていたのにも気付かなかったのである。
〔〈必殺料理〉が発動しました〕
おかしい。
また、誤神木は思った。
花果使がまるで役に立たない。
確かに攻撃力は高くないが、花果使の本質は、花がその香りで蝶や蜂を呼び寄せ、受粉させるように、獲物を惑わせ魅了し、我の根元へ導くことなのだ。
だが、今戦っているモンスター達にはまるで効いていないではないか。
あの〈封雷の虎〉を追い払った時よりも、花果使の力は増しているというのに。
獣タイプのモンスターが、花果使の胴体に当たる果実に噛み付き、実を噛みちぎった。
これで、このモンスターは確実に魅了にかかり、抵抗することなく我にその身を捧げるのだ。
捧げなければならないのだ。
だが、何故影響が出ない!
何故戦い続けるのだ!
おかしい。
おかしい。
おかしい。
誤神木は芽生えたばかりの知性で必死に分析を続けるのであった。
その理由は、美夜の焼くヤキトリにあった!
美夜が新たに獲得した〈戦場の料理人〉の固有スキル〈必殺料理〉は、戦場で料理を作り味方の腹を満たすことによって、様々な効果を発現させるというものであった。
タレに一角馬の秘薬を使ったことにより、あらゆる呪いの解呪はもちろん、炎を吐くロケッ鳥の肉による火属性付与。これにより、モンスター達の攻撃に火属性が付いたため、植物属性の花果使に大ダメージを与え戦況を有利に進めた。
さらに、〈必殺料理〉はさらなる効果を食べた者に与える。
どこかの料理学校の総帥が語るところによれば、〈必殺料理〉(スペシャリテ)とはその料理人のこだわり、技術、思いなどが込められた作り手の顔が見える料理のことであると。
では、美夜の作った料理には何が込められているのか。
それは、魅了。
半吸血鬼と花人族。両方のアビリティを合わせ持つ美夜のオリジナルアビリティ〈魔性の魅了〉。これこそが美夜の最大の個性。
その効果が〈必殺料理〉が発現した瞬間料理に宿り、それを食べ生命を救われたモンスター達をもれなく全員魅了したのであった。
その為、彼等は花果使の魅了にかかることはなく存分に戦える。さらに、種族がバラバラでも、美夜という絶対の主の元で一致団結し、ブラックゴブリンやダークウルフの指示に従い、統率の取れた動きで花果使の群れをなぎ払っていった。
なお、フォスの村からやって来たメンバーは魅了の効果こそ出ていないが、以前食べた料理から強いステータスアップの効果や魅了などの状態異常耐性を得ており誤神木に操られる事なく、花果使を楽々と倒していた。
そして、〈必殺料理〉はその名にふさわしい効果をも発揮していたのである。
ヌウウウッ!
誤神木は唸った。
その苛立ちは枝葉を激しく揺らし、ザワザワと激しい葉音を周囲に響かせた。
「すでに魅了されていて我が力が効かないだと?あの女が……我と似た気配を持つあの女が我よりも強い力を持つというのか」
誤神木はさらに激しく枝葉を揺らすが、それもやがて収まる。
「ならば、もっと強い果実を生み出せば良い。あの女よりも強い魅了効果の味と香りを持つ花果使をもっと大量に」
だが……
「実が生らぬ!花が咲かぬ!芽が出ぬ!何故だ?何故だ?」
誤神木は混乱した。
新しい実を生らす為の花が咲かない。何かが芽が生えるのを妨害しているのだ。
そこで、初めて誤神木は異変に気付く。己の身に起きていた異変に。
「これは……あの煙が原因かっ!」
正解である。
ロケッ鳥の強い油分をふんだんに含んだ煙、すなわち油煙は薄く広がり、風に乗り、誤神木の気付かぬ内にその身にまとわりついていたのだ。
そして、台所の換気扇にこびり付いた油汚れのように固まり、新芽が生えるのを阻害しているのであった。
なお、これには〈風水〉により、絶妙な風向きの場所を拠点、すなわちヤキトリの調理場に選択したネルフの貢献が大きいが、本人がそこまで計算していたのかどうかは謎である。
おのれっ!
おのれっ!
おのれぇぇっ!
怨嗟のざわめきを発する誤神木。あまりの怒りに所々に亀裂が走る!
「あの女!料理一つで我をここまで追い込むかっ!あの女だっ!〈封雷の虎〉よりもあの女が我の最大の敵だ!」
その怒りが新たな能力を目覚めさせる。
「あの女はただでは殺さん。あの料理のように生かしたまま我が枝で突き刺し、永劫の苦しみを与えてやる。それにはあの獣が適任か。行け、新しい僕〈魔枝螺〉(マシラ)よ!」
誤神木の怒りが美夜一人に集中し、新たな魔物が美夜を狙う!
しかし、そんなことなど全く知るよしもない美夜は、必死にヤキトリを焼き続けるのであった。
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