カースブレイカーズ 〜美夜ちゃんは呪われた幻夢世界をひっくり返す!〜

ユキマサ

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第二十四夜 魔枝螺VSゴラン……って、え?

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「行け!魔枝螺(マシラ)よ。あの女を我が枝に突き刺せ!」

 誤神木の命令が下る。
 すると、誤神木の枝に変化が生じた。
 先端の枝分かれした所からグニャリと螺旋状に絡まっていき、指に、そして腕や足へと変わっていく。腕と足が出来れば次は胴体だ。四本の太い枝が複雑に絡み合い、たくましい胴体と共に、頭部や尻尾まで造り上げていく。
 そうして出来上がったのは、枝を絡み合わせて造られた猿の人形だ。毛皮の代わりに木の葉が背面を中心に身体を覆っている。身体のサイズも様々で、大中小はもちろん、ノッポやゴリラの様にたくましい個体、異様に腕が長い個体などはまだ良い方で、片腕だけが胴体と同じくらい太い個体、指が七本ある個体など歪な形の人形が木の枝に擬態して、機会をジッと伺っているのだ。
 その数、およそ五十体。
 美夜達は、その存在に気付かずに、誤神木の元へ攻め込もうとしていた。


 花果使の群れは全て倒した。
 こちらの被害はいたって軽微。多少の負傷したモンスターはいるが、死傷者はいない。上手くいきすぎてちょっと拍子抜けな位だ。(私の料理があれこれ多大な貢献をしているとは、自分でもまだ気付いていない)
 この好機を逃す手は無い。
 なにせ、相手は龍脈から無尽蔵のエネルギーを吸収しているのだ。時間を置けば、また新たな僕を大量に生み出されてしまう。
 ならば、ここで一気に攻めるのみ!

「〈シャドウロード〉!なんだな」

 ナナンダさんの一声で、彼の足元から影の道が一直線に伸びていく。
 根の槍の林を突っ切って、向かう先は誤神木。
 その道を突っ切る三つの影。
 〈髪の鎧〉による、絶対防御の黒いライダースーツに身を包んだ、修行僧レンバ。
 鋼鉄の鎧に二つの丸盾で仲間を守る、分厚い毛皮のパンダさん、盾戦士コランダ。
 雷を纏いし毛皮と、素早い動きで触れることさえかなわない。〈封雷の虎〉。
 仲間内でも特に防御力の高いトップ3に、道の横合いから伸びてくるロートスピアなど通用しない。あれは死角となる足下から襲ってくるから驚異なのだ。だが、ナナンダさんの敷いたシャドウロードが足下をガッチリガードしてくれるので気にせずに進める。
 先ず誤神木の根本に辿り着いたのは、コランダさん。辿り着くなり、背中に背負っていた戦斧をフルスイング!
 しかし、カコーンと高い音を響かせただけで終わってしまった。

「あたしの〈斧使い〉のレベルじゃ歯が立たないンダよ」

 諦めて、再び戦斧を背中に収めるコランダさん。
 だが、攻撃を諦めた訳ではない!

「パン打!パパン打!パパパン打!」

 可愛らしい掛け声で、両手に着けたパンダの絵が描かれた丸盾で誤神木に突っ張りをかましている。
 一見すれば、パンダが巨木の幹にじゃれついているような、微笑ましい光景に見えるかもしれない。
 だが、さにあらず!その証拠に、斧を叩き込んでも傷一つ付かなかった誤神木の表皮が、みるみる削り取られていくではないか!
 その秘密は盾に描かれたパンダ模様にあった。その絵は実は点描画で描かれており、描=鋭く硬い鋲(スパイク)のことなのだ。
 そんなもんに剣を打ち込めば刃は欠け、生身でぶつかれば肉が抉り取られるだろう。その特注の盾で、抉りこむように打つべし、打つべしと熟練の盾スキルでもって〈シールドバッシュ〉を叩き込んでいるのだ。千年以上風雪に耐えてきたであろう誤神木が徐々に抉られていった。
 コランダさんが、表面から破壊する陽の拳の使い手なら、内部から破壊する陰の拳の使い手がここにいる。
 修行僧レンバ。
 ゆっくりと呼吸を整え、ゆらりと構えを取る。

「哈ッ、跛ッ、覇ッ、波ッ、刃ッ、破ッ!……〈波紋響震撃〉!」

 正拳、蹴撃、縦拳、掌底、手刀と打ち込んでいき、そして捻りを加えた双掌打を最後に放って深く息を吐く。
 だが、打ち込んだ箇所には傷一つ無い。
 首を捻ってると、突然、複数の破裂音と共に、何本もの太い枝が落ちてきたではないか!
 これは一体……

「説明しよう」

 突然、隣にニュッと現れて解説を始めるネルフさん。

「波紋響震撃、それは巨大で防御力の高いモンスターを倒すための必殺技である。
まず複数の異なる波長の浸透勁を打ち込んでいく。すると、一つ一つではさほど影響のない浸透勁が体内を反射しながら駆け巡り、三種以上の浸透勁が重なり合った箇所で爆発的な衝撃が起きる、という必殺奥義である。〈髪拳〉の威力、水質操作に長けた魔力、そして血の滲む様な修練があって初めて可能な技といえよう!」

 解説のネルフさん、ありがとうございました。
 あと、しれっとヤキトリつまみ食いしないで下さい。

 ザザザザッ……

 誤神木の葉が激しく揺れて音を出す。
 それは苦悶の悲鳴か、はたまた怒りに震える音か。
 どうやら怒りの方だったようだ。一斉に、何百枚という木の葉が二人に降り注ぐ!
 リーフレインとでも名付けようか、リーフカッターの雨が二人に突き刺さる瞬間、

「やらせん」

 紫電が走る。
 それは、瞬く間に何百枚ものリーフカッターを灰にしていった。

「二人とも、怪我はないか」

 そう問うたのは、一足遅れて到着したトラさん。今まで後続のモンスター達の為に、〈影の道〉の周りのルートスピアを片っ端から潰して回ってたため時間がかかっていたのだ。
 二人の無事を確認した後、誤神木に与えたダメージを見てニヤリと笑い、

「なかなかやるな。二人共少し離れていろ」

 言うやいなや、物凄い勢いで誤神木の周りを回り始める。あまりに速すぎて残像を起こし、蒼白い輪が誤神木を囲んでいるようだ。
 ……どっかの童話のように、バターにならなきゃいいけど。
 いや、違う。あれは目の錯覚による残像なんかじゃない。雷だ。トラの体から放出される雷がリング状に繋がって、どんどん帯電してるのだ。

 ゴガガァン! ガガガン! ガガガガァン!!

 凄まじい轟音を響かせ、雷輪が内側に雷を放出しながら上昇していく。
 それは、何十本もの枝を根本から弾き飛ばし、幹を焦げ付かせながら、誤神木の三分の一の高さまで登って力を使い果たし消滅した。

「〈雷大鼓の連ね打ち〉とでも名付けようか。……ムッ?」

 それは、一瞬の油断だった。雷に弾き飛ばされた枝々から一斉に何かが放たれたのだ。
 あれには見覚えがような……ってマズい!グレネの実だ。最初のダンジョンで切り札になった爆裂する木の実。
 繰り返し巻き起こる閃光と轟音。距離を置いたこちらですら目が眩み、何が起こってるのか分からない。
 閃光が消え、私の目に飛び込んで来た光景は、何十体もの木で出来た巨大な猿人形と、そいつらの鋭く伸びた指に貫かれたコランダさんの姿だった。



「コランダさん!」

 思わず叫んでしまう。それほど状況は絶望的だった。
 レンバさんやトラにも、他の猿達の伸びた指が突き刺さっているが、こちらはまだ浅手である。〈髪の鎧〉の防御力や身に纏った雷でガード出来たのだろう。
 だが、コランダさんは防げなかったのだ。胸や胴体そして頭を貫かれ、貫通してしまっている。あれではもう……

「美夜ニャン、美夜ニャン」

 こんな時にリッカが呑気に呼びかけてくる。何をそんなに落ち着いて……

「いや、あれ大丈夫ニャから」

 ふぇ?頭蓋骨ぶち抜かれて平気な訳無い……

 ボフン!

 空気が抜けたような音と共に、コランダさんの身体が一気に萎み、フニャフニャになったじゃないの!貫かれた頭はパンダ顔のフードに、身体は毛皮のコートに変わる。その中から現れたのは小麦色の肌が眩しいダイナマイトボディのお姉様!良かった無事だった。

「以前、ヘビのモンスターを倒した時に〈脱皮〉の呪いをかけられてニャ、毛や羽がボロボロ抜け落ちて防御力が失われた状態で、同レベル以上のヘビモンスターを十体倒さニャかならなかったニャ。あの時はみんニャ『こんなみっともない格好で街に帰れるかっ!』って死にものぐるいで狩りまくったニャ。呪いを克服したらそれぞれ〈脱皮〉系の能力を獲得したニャ」

 ほほう、呪いを解呪して能力を手に入れたパターンなのね。

「言っとくけど、あんな頭ぶち抜かれても平気なのはコランダ姐さんの〈脱出脱皮〉だけニャ。あたしのは職業〈忍者〉に取り込まれて、〈空蝉の術〉に変化したニャ。致命傷を受けると自動的に衣服を着せた丸太を身代わりにして、下着姿で脱出するという別の意味で致命傷な能力になっちゃったニャ……ってなんでそんな目で見るニャ?身の危険を感じるニャ。絶対やらニャいニャよ!」

 ぜひ見たい!という思いが顔に出てしまった……って違うからね!純粋に技が観たいんであって、隣のオッサン達みたいにスケベ心なんかないんだからね。
 しかし……コランダさんパンダの方が本体だよね?明らかに身体串刺しにされた状態から助かるって、デタラメにも程があるんじゃないかな?

「何バカなことやってるミャ!コランダ姐さんピンチミャ!あの能力使うと、とっても疲れるミャ!それに、こっちにも大勢向かって来てるミャ!」

 ミルファの叱咤に慌てて戦場を見ると、コランダさん、レンバ、そして虎にそれぞれ二体ずつ猿人形が相手取っており、あの三人がかなり苦戦している。コランダさんをかばっているからだ。そして、残りの四十体余りがこちらに突進しているのだ。
 先陣をあの三人とするなら、第二陣にモンスターの群れを率いるジャガマルクと、その後ろで〈シャドウロード〉を造ってるナナンダさんと護衛のニックさんがいて、そのまた後方には本陣として私達がいる。

「こりゃあかんな」

 指メガネで覗き込みながら、ネルフが嘆息しながら呟いた。

「あの木彫りの猿の名前は魔枝螺。レベルが20を超えとる。さっきの花菓使の倍近い強さや。こっちのモンスターのレベルは平均10前後。わてら冒険者が15で美夜ちゃんが8。数の上では倍でもレベル差が有り過ぎる。すぐに全滅してしまうな」

 レベル20以上が四十体って、そんなんありか?ゲームバランス崩壊してるわよ!
 そう叫びそうになるのを、私はグッと飲み込んだ。
 このゲームでは、ステータスの合計値が10上がる毎にレベルが1上がる方式になっている。
 モンスターを倒せば戦闘経験値が手に入り、それを職業、種族そして行動によってシステムが各ステータスに分配していくのだ。
 武器を振って戦えば〈力〉や〈技量〉が、
 攻撃を受けたり長距離を移動すれば〈体力〉が、
 攻撃を避けたりダッシュを繰り返せば〈素早さ〉が、
 〈炎熱操作〉などの魔法を使えば〈魔力〉や〈精神〉が、
 あと、本を読んで勉強すれば〈知力〉が上がるようになっている。
 職業や種族によって上がりやすいステータスなどの差が有り、そうして唯一無二のキャラクターが作られてくる。
 そしてレベルが上がると、能力を向上させるアビリティポイントや、ギルドに入れたり他の地域に行ける資格等々、様々な特典を受け取れるのだ。
 だが、この「カースブレイカーズ」がリリースされて約三ヶ月、およそ90日の間に到達出来た最高レベルは48だそうだ。これは他のゲームに比べて、格段に低いと言えよう。
 その主な原因は、一日一回のログイン制限と、〈疲れ〉によるステータス低下にある。
 このゲームのウリは、就寝前の短い時間で夢の世界の冒険を長く体感出来ることなんだけど、プレイするからにはトップを目指すというのがゲーマーの業。
 ゲームをログアウトすると、そのまま熟睡してしまうならしなきゃいいじゃん。と考え、何日も何十日もゲーム内の世界で冒険し、一晩熟睡した位では疲れが抜けず、現実世界で居眠りや不注意による事故が大幅に増えてしまった。ぐっすり眠れるのが売りのゲームシステムなのに本末転倒である。
 これは不味いと、制作会社が追加した機能が〈疲れ〉のステータス異常。
 ゲーム内で10時間以上活動したり、スキルや魔法を頻繁に使うと〈疲れ〉てステータスが低下してしまい、寝る(ログアウト)事でしか回復しないようにしたそうな。
 おかげで過度な時間のプレイや、スキル連発による短時間の経験値稼ぎがなくなり、極端な突出した強さのプレイヤーがいなくなったのだが……
 いけない、話が少し逸れてしまった。
 先程も述べたが、レベルアップすると他の地域への通行許可が獲得出来る。最初の都市イーファスからアルツの村、サザンの街、そしてフォスの村までが序盤のエリアで(私、思いっきり飛び越してるな……)、レベル15になれば通行許可を得て、関所を超えて次のエリアに行けるのだ。
 つまり、序盤のエリア内でレベル20が40体以上など全滅させると言っているようなもの。無理ゲーでありクソゲーである。
 そんなことを考えている内に魔枝螺40体と、ジャガマルク率いるモンスター80体がぶつかろうとしていた。
 魔枝螺達は二列横隊で突撃してくる。それを見たジャガマルクは体格の大きいモンスターを前面に3列での鶴翼の陣で迎え撃つ。
 ナナンダさんは〈シャドウロード〉を変形させ、誤神木の根本にいる3人とこちらの陣の足元を守っている。こうしないと誤神木の根が足元から襲ってくるのだ。二つの陣を繋ぐ紐のような細い影が酷く頼りなく思える。
 先ずはこちらの先制攻撃!炎のブレスや風の刃などの遠距離攻撃が魔枝螺を襲う。
 だが、魔枝螺達は一切構わず突っ込んで来る!

「!?」

 木偶人形故に痛みや恐怖は無いのだろうか?延焼したり切り刻まれるのも構わずに、クマやサイなどの大型モンスターと正面から衝突する。先制攻撃が効いたのか、互角の組み合いだ。だが、ここで魔枝螺達は思いも寄らない行動に出た!
 後列の魔枝螺達が、前列の魔枝螺の背中や肩、頭を踏み台にして大きく跳躍したのだ。
 挟み打ちにするつもりか!と誰もが予想したが、こちらの陣を大きく飛び越えた魔枝螺の群れ約20体は、隙だらけの後ろのモンスターなど見向きもせずにこちらに向かって走ってくる!

「……そう来たか」

 なんかネルフが感嘆してるけど、それどころじゃないでしょ!
 こっちには戦力外通告された人しかいないのよ。魔枝螺20体なんて明らかにオーバーキル!なんとかしてマーレさんだけでも逃さないと。でも、あんな数足止めなんか出來る訳ないし。

「そうだ!ネルフ。前みたいに火焔揚羽の糸の結界を……」
「もう張っとったけど、足止めにもならんな。プチプチ千切れて終わりや」

 最後の希望がアッサリとまあ……
 為す術もなく、丘を駆け上ってくる魔枝螺を絶望的に見るしか私には出来なかった。


「おい!あいつらヤバイんジャガ!」

 ジャガマルクが叫ぶが、誰も動ける筈がなかった。
 魔枝螺の数は半分に減ったが、それでも80体のモンスターでなんとか凌いでる状態なのだ。魔枝螺の木製の身体は酷く堅いのに猿のように素早く、身体を覆う木の葉はリーフシールドのように弾力がありこちらの攻撃を防いでしまう。離れればリーフカッター、近づけばリーフブレードや、螺旋状の木の指を鋭く伸ばして相手を貫くスパイラルブランチで攻撃してきてくるので手が付けられない。どんどんこちらのモンスター達が戦闘不能になり、次々と倒れて回復が追いつかない状態になっていた。
 かといって、もし美夜を殺されたら、今モンスター達にかかっている火属性付与や、魅了状態により可能となった指揮系統が消え去り、やはり戦線は崩壊してしまう。
 この戦いは完全に詰んでしまっていた。
 ならば、モンスターの指揮を放り出して、一般人のマーレと美夜を抱えて雷速のスピードで離脱するべきだろうか?ファミルは空を飛んで逃げられるが、誤神木の根本で人間態になってしまったコランダは諦めるしかないのかと苦悩する。
 ジャガマルクは非情な決断を迫られていた。


「足手まといになってしまって、申し訳ないンダね」

 コランダは自分を庇いながら戦うレンバとトラに謝った。
 彼ら二人の前には、6体の魔枝螺が立ち塞がっている。なのに〈脱出脱皮〉で一命を取り留めた自分はロクに動けないのだ。
 元々無謀な試みだったのかもしれない、と焦るコランダに後悔の念が生まれる。
 フォスの村の攻防が終わり、村人達の呪いが解けた後、村に設置してある通信用の魔石で冒険者ギルドに事態を報告した。そして、誤神木討伐の為に応援を要請したのだ。
 だが、要請は却下された。オーガ砦の攻防が難攻しており、しかも伝説のキングオーガまで出現が確認され、戦士団や騎士団、冒険者総出で対応している事態になっていたのだ。
 それを聞いた「影馬車隊」のメンバーは、自分達が発見、報告したオーガ砦がとんでもない事態になっている事に複雑な思いを抱き、自分達で誤神木を討つことを主張した。トラから伝えられた敵の予想戦力と、数日もしないうちに尽きてしまう食料と水から判断すれば妥当だと言えるだろう。ギルドからの指示もありコランダ達も賛成した。
 だが、実際はこれだ。この戦いは負けた。
 ダンジョンや未開の地や森で、トラップや身を潜めるモンスターに注意しながら進み、小規模な群れや、ダンジョンの発生源となった呪われた武具が変化したボスモンスターを倒すのが冒険者の役割なら、こんなモンスターの大群を集団戦で迎え撃つのは戦士団の役目であり、それを生み出すような巨大な誤神木のような災害級の大型モンスターを撃つのは騎獣に乗り空をも駆ける騎士団の役割なのだ。
 ならば、冒険者としての最後の役割は、この誤神木の情報を持ち帰って次に活かすこと。
 レンバとトラ、そしてジャガマルクなら魔枝螺の群れを突破することは可能だろう。その際に一般人のマーレを拾えば、足の早いリッカや空を飛べるファミルも逃げられる可能性が高い。
 あとのメンバーには私と一緒にこいつらを足止めしてもらおう、とジャガマルクと同じことを考えながら、自分を置いて撤退しろ、と言おうとした時、魔枝螺の一体を打ち倒したレンバが見透かしたように声を掛ける。

「心配するな。何とかなる」

「ホウ?やはりあのエルフが切り札か」

 こちらも魔枝螺を雷を纏った爪で粉砕しながら、トラが問い掛ける。
 コランダも、あの正体不明の陰陽師エルフならば何か奇策を持っているのでは、と期待する。
 だが、レンバは首を横に振ってこう告げた。

 ちょうどその時、焦るジャガマルクに「まだ、希望はある」とニックが言った。

「「ゴランがいる」」、と。

「「「は?!」」」

 コランダ、トラ、ジャガマルクは異なる場所で、同じように目を丸くして驚きの声を上げるのだった。

 



「しゃーない。俺がなんとか足止めするわ」

 ゴランが面倒くさそうに、迫りくる魔枝螺の群20体に向かって一歩踏み出す。
 一体何を……と思ったが、すぐに彼の考えを読み取る察しの良い私。
 やれやれしょうがない。付き合ってあげますか。

「あー、美夜はん、美夜はん。何してますのん?ゴランの首にグリンウイップ絡まってますけど」

「だって、馬になって戦うんでしょ?魔喰凱馬(マクガイバー)みたいに強くなるまで何度も絞め落とさなきゃ。さあ、行けゴラン。ゴー、ラン、go、run」

 このゴランという男は、走り疲れると馬系のモンスターに変身するというおもし……厄介な〈馬成り〉という呪いを生まれつき持っている。
 だが、自分では何のモンスターになるかまではコントロール出来ないので、レンバさんを担いで走り、狂暴なモンスターになったらキュッと首を締めて気絶させてもらい、気付けをしてもらって目覚めたらまた走るのだとか。
 何度聞いても涙を誘う話である。
 それで、レンバさんの代役を務めようとしたのだが……

「あー、お気持ちは有難いんやけど、今からゴランがやるのはそっちの隠し芸の方やなくて、一発芸の方やから。その手綱はいらんからしまっとき。ゴランの顔青くなっとるから」

「一発芸?」

 ネルフさんの言葉に、私はグリンウイップを解く。どうやら考えを読み取れなかったらしい。ゴメンね、ゴラン。

「ゴホッゴホッ。人の呪いや能力をネタ扱いしてんじゃねえよ!時間がないからもう行くぜ」
「待ちや!ゴラン」

 ネルフさんがガシッと肩を掴んでゴランを引き止める。その表情は珍しく真剣そのもの。

「分かっとんのか?下手したら死ぬんやで。お前には貸しがタンマリあるんや」

「ヘッ、心配するな。ちゃんと生きて帰って報酬で利子付けて返してやらあ」

 夕陽を背に死地に向かう男を引き止める戦友。男同士の友情がそこには有った。私、リッカ、ファミル、マーレさんの四人の目が潤んだのは、夕陽が眩しいせいではない。

「ほな、これ」

 ヒョイッと一枚の紙切れを渡すネルフ。

「何だこれ?『使鬼神誓約書。もし私が死んだらネルフ様の使鬼神になって借金分働きます』って何じゃこりゃぁ?」
「お前さんの借金が今回の報酬なんかで返せる訳ないやろ。これにサインして安心していってこい」
「手前ぇ今『逝ってこい』って言わなかったか?絶対に生きて帰って、お前の借金踏み倒してやらあ!」

 ビリビリと誓約書を破りながら、ズンズンと足を踏み鳴らして進むゴラン。
 男の友情なんてそこにはなかった。

「ま、これで緊張も解れて生き残る確率も少しは上がるやろ。やっぱ飲み友達いなくなったら寂しいからなあ」

 ヒラヒラと手を振りながら、ジト目で見つめる女四人にいけしゃあしゃあと言い訳する中年エルフ。この男何処まで本気なのか、全く読めない。

「借金は絶対に踏み倒させんけどな」

 ボソリと呟いた言葉は、絶対に本気だった。


 そんなバカなやり取りをしてるうちにも魔枝螺の群れはドンドン迫って来る。
 丘の上でそれを見下ろしながら、ゴランは右手を上に突き出し、大きく叫んだ!

「マクガイバー!」

 突き出した手の先に黒い空間の穴が現れる。
 ゴランの〈空間操作〉による〈空間収納〉の穴だ。そこからゆっくり出てきたのは……
 仔馬程の大きさの馬の模型?あれは確か魔喰凱馬が着けてた鎧。それを馬の形に組み立てたのか……ってまさか?
 魔喰凱馬の聖衣……じゃなかった模型が独りでに分解、変形しながらゴランの身体に装着していく!
 イヤイヤ!ちょっと待って。運営さんこれ大丈夫なの?ガシャン、ビシッとか生身の身体に装着するのに有り得ないカッコ良い効果音が聴こえてくるんですけど?
 あれ?なんか聞き慣れたメロディが聞こえる。具体的には、小宇宙だとか奇跡を起こせだとかのフレーズが脳内で再生されるような熱いメロディが。
 振り向くと、何と音源はサウンドドラゴンのルカだった!足や尻尾を地面に打ち鳴らせば重低音の打楽器に、翼を細かく動かせば弦楽器のように熱いビートを掻き鳴らし、その長い首から奏でる音は力強い管楽器、そして胸の所をまるでアコーディオンを演奏するかのように押さえれば、喉からピアノのような鍵盤楽器の旋律まで響き渡る。
 そんな超絶スキルを駆使して演奏するのが熱血アニソンなんて……お母さん喜んで良いのか、悲しむべきなのか?

「美夜ニャン。しっかりするニャ!」

 いろいろ衝撃が強すぎて混乱している私に、何故か興奮した様子のリッカが励ましに近づく。

「あれはペガサスじゃニャくて、邪◯ニャ!」
「邪◯とな!?」

 あまりの発言にツッコミ入れる私。

「そうニャ。最初は主人公の対抗馬みたいに登場したのに、幼い頃の恋心と馬になって好きな女の子の尻に敷かれることへの歓びを読者に暴露されて、すっかりその他大勢のポジションに転落した可哀想な男ニャ」

 あれは、熱血だの硬派だのが主流だった当時の小学生男子に、新しい扉を開いた伝説のエピソードだった。そんな彼らが成長して「我々の世界ではご褒美です!」などと言い放ったのかどうかは定かではない。
 そんなバカなことを考えているうちに、ゴランの装着が終わったようだ。身体の要所々々を包むプロテクター、馬の頭を象った兜が特徴的だ。
 だが、それで終わりではなかった。

「ペガサスブーツ!」

 新たな装備が虚空から飛び出す。……ってペガサスぅ?
 白い翼が付いた靴が、ゴランの足に装着。翼が足に巻き付いてブーツになった。

「ちょっと!ペガサス出ちゃったわよ!」
「お、落ち着くニャ……このクナイを額にぶっ刺せばユニコーンに……」

「出てこい!ユニコーンランス!」

 リッカがクナイを投げる直前に、身の丈程もある馬上槍を軽々と装備するゴラン。

「「ユニコーン来たぁぁ!」」

 思わず抱き合ってはしゃぐ私達。

「君ら、さっきから何をそんなに騒いどるん?」
「気にしないで!憧れのヒーローのイメージを守るための乙女の戦いよ!」

 関わらない方が良いと判断したのか、そっと顔を逸らすネルフ。

「それじゃあ、行ってくるぜ!」

 そして、フッ、と笑って魔枝螺の群れに向かって駆け出すゴラン。
 その姿はまるで……

「ねえ、リッカちゃん」
「何ニャ?」
「私、今ドン・キホーテの物語思い出しちゃった」
「奇遇だニャ。あたしも風車に向かって槍持って突っ込む老人の影が見えたニャ」
「なんか、一気にホッとするわねー」

 私達を守るために、一人死地に向かう男に向かってバチあたりなことを言う女二人がそこに居た。

「ところで、リッカちゃん」
「何かニャ?」
「あなた、プレイヤーよね」

 ハッキリと断定する私に、リッカはアッサリと頷いた。

「アタシも初めてプレイヤーに会ったニャ。これからもよろしくニャ。美夜ニャン」

 スッ、と右手を差し出すリッカ。

〔リッカからフレンドの申請が届きました〕

〔受け入れますか?〕

 もちろん。喜んで。
 私は、右手をギュッと握って、この世界での熱い友情を誓い合うのだった。


──────────────────────────

 すみません。間違えて途中で公開してしまいました。
 ここまで読んで下さった皆様に感謝の言葉もございません。
 


 





 






 






    
    
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魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

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