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第二十話:九州山中変態行!天狗の試練と執拗なる刺客の影
しおりを挟む長崎の喧騒を後に、桃色助平太一行は、四つ目の「天逆毎の鍵」の破片が眠るという「天狗の隠れ里」を目指し、九州の奥深い山中へと足を踏み入れた。道は険しく、人跡未踏の原生林がどこまでも続く。
「おおおおっ!この天を突くような巨木!その逞しき幹は、まるで天界の巨人の…むふふ、たくましき『一物』のよう!そして、この苔むした岩肌の、なんと官能的なる湿り具合!この助平太、大自然の雄大なる『エロス』に、身も心も打ち震えておりますぞ!」
助平太は、鎖場をよじ登りながらも、その変態的な視点で周囲の自然を鑑賞し、新たな「美」の発見に余念がない。
「このド変態!少しは真面目に山を登れだゾ!お前が一番足手まといなんだ!」
プルルンが助平太の頭の上で、バランスを取りながら叫ぶ。
「助平太殿、気を抜くと滑落するぞ。この辺りは霧も深くなってきた」
カゲリが冷静に注意を促す。辰五郎は、持ち前の体力で一行を引っ張っていたが、さすがに険しい山道に息を切らし始めていた。
「へっ…へへ…江戸の火事場とは、また違ったキツさだな、こりゃ…」
そんな一行の苦難の行軍を、嘲笑うかのように二つの影が追っていた。血煙のお蝶と鉄仮面の玄蕃である。玉藻の前から新たな妖力を授かった彼らは、以前にも増して執拗かつ強力になっていた。
霧が深くなった峠道で、突如としてお蝶が一行の前に舞い降りた。その手には、血のように赤い気を纏った妖刀「紅蜘蛛(べにぐも)」が握られている。
「うふふ…変態侍さん、またお会いしましたわね。今宵の私は、前回までとは一味も二味も違いますわよ?この紅蜘蛛の餌食にしてあげる」
お蝶の妖艶さはそのままに、その殺気は以前とは比較にならないほど鋭くなっている。
「おお!お蝶殿!そのお姿、さらに妖しく、そして美しくなられましたな!その紅き妖刀、まるで貴女様の『情念の炎』が形を成したかのよう!この助平太、その炎で身を焼かれてみたいものでござる!」
「ほざきなさい!」
お蝶の剣技は、霧を利用し、幻のように現れては消え、助平太たちを翻弄する。その太刀筋は鋭く、カゲリのクナイと辰五郎の即席の棍棒(木の枝)では受け止めるのが精一杯だ。
さらに、背後からは鉄仮面の玄蕃が、地響きを立てて襲いかかってきた!その両腕には、禍々しい紋様が刻まれた鉄甲が装着され、一撃の破壊力は岩をも砕く。
「この鉄クズ野郎!また性懲りもなく出てきやがったか!」
辰五郎が玄蕃に殴りかかるが、鉄甲に阻まれ、逆に強烈な一撃を食らって吹き飛ばされる。
「ぐはっ…!こいつら、前より格段に強くなってやがる…!」
「プルルン殿、何か策はござらぬか!このままでは、拙者の『変態コレクション』に、この美しい山岳風景が加わる前に、全員お陀仏でござるぞ!」
プルルンは、霧の中を素早く飛び回り、お蝶と玄蕃の動きを観察していた。
「あの女、霧に紛れてるけど、動きの癖は変わってないんだゾ!それに、あの鉄仮面、パワーは上がったけど、足元の動きが少し鈍い!」
プルルンの分析を元に、カゲリが辰五郎に指示を出す。
「辰五郎殿、玄蕃の足元を狙え!私が霧を払う!」
カゲリは、お龍から貰った煙幕弾とは逆の効果を持つ「晴嵐玉(せいらんぎょく)」を投げつけ、一時的に霧を晴らした!
視界が開けたことで、お蝶の動きが露わになる。そこに助平太が、なぜか筆と墨壺を構えて突進した!
「お蝶殿!その霧が晴れた瞬間の、驚きと焦りに歪むお顔!実に、実に…『生の輝き』に満ちておりますぞ!その一瞬の表情、この助平太が、墨絵にして永遠に留めさせていただきます!」
「なっ…この変態、こんな時にまで…!」
お蝶は、助平太のあまりの変態ぶりに一瞬怯み、動きが止まる。
その隙を見逃さず、辰五郎が玄蕃の足元に強烈な踏み込みを入れ、体勢を崩させた!
「うおおお!江戸っ子火消しの根性、なめんなよ!」
玄蕃がよろめいたところに、カゲリのクナイが鉄甲のわずかな隙間に突き刺さる!
「ぐぬぬ…おのれ…!」
玄蕃は苦悶の声を上げ、お蝶も「今日はこのくらいにしておいてあげるわ…!」と捨て台詞を残し、二人は再び霧の中へと姿を消した。
「ふぅ…またもや、ギリギリの戦いでござった…。しかし、お蝶殿のあの『驚愕のお色気』、実に素晴らしい一枚が描けそうでござる…」
助平太は、鼻血を垂らしながらも満足げに筆を動かしている。
刺客を辛くも退けた一行は、さらに険しい山道を進んだ。やがて、霧が立ち込め、木々が奇妙な形にねじくれた、不気味な森へと迷い込んでしまう。
「…なんだか、嫌な感じがするんだゾ。空気が重いし、誰かに見られてるような…」
プルルンが不安そうに呟く。
突然、目の前の風景がぐにゃりと歪み、一行はそれぞれ別の幻影に取り囲まれた!
辰五郎の前には、江戸の町が大火に見舞われ、助けを求める人々の悲鳴が響き渡る。
カゲリの前には、かつて裏切った(と思い込んでいる)仲間の亡霊が現れ、彼女を責め立てる。
プルルンは、巨大な猫じゃらしと山盛りのカステラに囲まれ、どちらを選ぶか葛藤している。
そして助平太の前には…なんと、これまでの人生で出会った全ての美女たちが、湯浴み姿で彼を取り囲み、「助平太様、一番好きなのは誰?」「私たちの中で、誰の『ここ』が一番美しいの?」と、究極の選択を迫ってくるではないか!
「おおおおおっ!こ、これは…なんという…なんという甘美なる試練!選べぬ!拙者には選べませぬぞ!全ての『美』が、等しく尊く、そして愛おしい!ああ、このまま、この『美女地獄(ハーレム)』で、永遠に苦しみ悶えたいものでござる!」
助平太は、鼻血とよだれを垂れ流し、恍惚の表情でその場にへたり込んだ。
「…この男、本当に…」
カゲリは、自身の幻影と戦いながらも、助平太のあまりの変態ぶりに、もはや怒りを通り越して一種の感嘆すら覚えていた。
しかし、助平太のその「一点の曇りもない、全ての美を平等に愛する変態性(?)」が、意外な形で幻術を打ち破るきっかけとなった。彼のあまりにも純粋で強大な「変態エネルギー」は、森の幻術のバランスを崩し、幻影に亀裂を生じさせたのだ!
「…ん?なんだか、美女たちの輪郭が薄れてきたような…?おお、いけませぬ!消えないでくだされ、我が愛しの女神たちよ!」
助平太の叫びと共に、森の幻術が霧散し、一行は我に返った。
「…助平太の旦那、あんた、もしかして…」
辰五郎が、何かを言いかけた時、森の奥から、鋭い声が響いた。
「何奴か!ここは天狗の聖域!人間風情が気安く立ち入ることを許さぬ!」
声と共に、木の梢から、黒い羽を持つ烏天狗が数体、音もなく舞い降りてきた。その手には鋭い槍が握られ、その目は人間に対する強い警戒心と敵意を宿している。
「我らは、天狗の隠れ里の門番。これ以上進みたければ、我らが長老の許しを得るがいい。だが、そのためには、お前たちの『覚悟』と『真心』を試させてもらうぞ!」
ついに、天狗の隠れ里の入り口へとたどり着いた助平太一行。しかし、彼らを待ち受けるのは、さらなる試練と、人間を容易には受け入れない天狗たちの厳しい目であった。そして、お蝶と玄蕃の影もまた、彼らのすぐ背後に迫っていた…。
(第二十話 了)
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