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第二十九話:竜宮城の変態門番!忠誠の激闘と乙姫様の夢
しおりを挟む幻の島「月見ずの島」に上陸し、廃墟と化した竜宮城の入り口にたどり着いた桃色助平太一行。その前に立ちはだかるは、巨大なハサミを持つ蟹の妖怪「鋏之介(はさみのすけ)」と、八本の触手をうねらせる蛸の妖怪「墨之丞(すみのじょう)」であった!
「人間風情が、乙姫様の聖なる眠りを妨げるとは、万死に値するぞ!」
鋏之介が、鋼鉄のような巨大なハサミを打ち鳴らし、威嚇する。
「我ら竜宮の守護者ある限り、この先へは一歩も通さん!」
墨之丞は、口から真っ黒な墨を吐き出し、一行の視界を遮ろうとする。
「おおおおおっ!なんと勇ましき海の豪傑たち!鋏之介殿の、その甲羅の艶やかな光沢と、ハサミの力強いフォルム!そして、墨之丞殿の、そのヌメヌメとした吸盤の一つ一つと、柔軟にしてたくましき触手!この助平太、その『海の幸』ならぬ『海の造形美』に、今、猛烈に食指…いや、筆が動いておりますぞ!」
助平太は、強敵を前にしても臆することなく、その特異な美意識を全開にする。
「このド変態!また始まったゾ!こいつら、かなり強そうだ!」プルルンが助平太の頭の上で叫ぶ。
「問答無用!」
鋏之介と墨之丞の連携攻撃が始まった!鋏之介の巨大なハサミが薙ぎ払い、墨之丞の八本の触手が鞭のようにしなり、カゲリと辰五郎に襲いかかる!その攻撃は的確で重く、長年この場を守り続けてきた者の熟練と執念が感じられた。
「うおおっ!このタコ野郎、動きが読みにくいぜ!」辰五郎が銛(船から拝借してきた)で応戦するが、墨之丞の柔軟な触手は巧みに攻撃をかわし、逆に辰五郎の体を締め上げようとする。
「触手の数が多すぎる!しかも、あの蟹の甲羅、硬すぎるぞ!」カゲリもクナイで応戦するが、鋏之介の鉄壁の防御に苦戦を強いられる。
助平太は、二体の妖怪の猛攻をひらりひらりとかわしながらも、その戦いぶりに新たな「美」を見出していた。
「おお!鋏之介殿のその鉄壁なる守り!そして墨之丞殿のその変幻自在なる攻め!まさに、長年連れ添った夫婦の如き、阿吽の呼吸!その『忠誠心』に裏打ちされた戦いぶり、実に、実に…胸が熱くなりますぞ!特に、その乙姫様を想うが故の、悲壮なる覚悟に満ちた眼差し(があるとして)!この助平太、その『滅びの美学』に、深く感銘を受けております!」
助平太の場違いな賛辞は、戦いの最中にも関わらず、鋏之介と墨之丞の心に奇妙な波紋を投げかけた。彼らは、ただ命令に従い、この廃墟を守り続けてきた。その意味すら忘れかけていた忠誠を、この奇妙な人間は「美」と呼ぶのか…?
「…黙れ、人間!我らが乙姫様への忠義、貴様のような者に理解できるものか!」
鋏之介は動揺を隠すように叫び、さらに激しくハサミを振り下ろす。
「我らは、この竜宮城が滅びようとも、乙姫様がお目覚めになるその日まで、この場を守り抜くと誓ったのだ!」
墨之丞の触手の動きも、どこか悲壮感を帯びてくる。
「おお!その悲壮なる覚悟!その滅びの美学!実に、実にそそる!しかし、鋏之介殿、墨之丞殿!真の忠誠とは、ただ守るだけでなく、姫君の『笑顔』を取り戻すことではござりませぬか!?この廃墟で、ただひたすら眠り続ける姫君を待つことが、本当に姫君のためになるとお思いか!?」
助平太の言葉は、変態的ながらも、どこか核心を突いていた。
「我々も、その鍵を探している。その鍵が、乙姫様や、この世界の危機に関わっていると知ったからだ」カゲリが、冷静に言葉を継ぐ。
「あんたらが乙姫様を大事に思ってるってんなら、俺たちと話くらいしたっていいんじゃねえか?」辰五郎も、武器を構えながらも、対話の可能性を探る。
鋏之介と墨之丞の動きが、わずかに鈍った。彼らの脳裏に、かつての美しかった竜宮城の姿と、優しかった乙姫様の笑顔が蘇る。そして、今のこの荒廃した現実…。
「…乙姫様は…永い眠りにつかれておる…。あの日、恐ろしい災厄がこの島を襲い、竜宮城は輝きを失った…。我らは、ただ、お目覚めを信じて…」
鋏之介の声が、初めて弱々しく震えた。
「その災厄こそ、我々が追う『天逆毎の鍵』と関係があるやもしれませぬぞ!そして、その鍵を集めることで、乙姫様の眠りを覚ます手立てが見つかるやもしれませぬ!我々は、姫君の『寝起きの無防備なお色気』を拝見したいという純粋な動機(と、ちょっぴりの下心)で、ここまで来たのでござる!」
「…お前のような人間は初めてだ。そして、そこの変態…お前の言うこと、半分も理解できんが、その…乙姫様を想う気持ちだけは、嘘ではないようだな…」墨之丞が、戸惑いながらも呟いた。
激しい戦いの末、そして助平太たちの(奇妙な)言葉と真摯な(?)態度に、鋏之介と墨之丞はついに武器を収めた。長きにわたる孤独な守護の中で、彼らもまた、現状を打破する何かを求めていたのかもしれない。
「…よかろう。お前たちの力を試させてもらった。そして、その…奇妙な覚悟もな。もし、お前たちが本当に乙姫様を…この竜宮城を救うというのなら…我らも、道を開こう」
かくして、竜宮城の門番であった鋏之介と墨之丞は、助平太一行の案内役となることを承諾したのであった。彼らの心の中には、この変態侍とその仲間たちに対する、警戒と、ほんの少しの期待が入り混じっていた。
「では、鋏之介殿、墨之丞殿!早速、乙姫様の待つ(かもしれない)閨(ねや)へと、我々を導いてくだされ!」
「…閨ではございませぬが…乙姫様は、この城の最深部、『潮騒の玉座』にて、深い眠りについておられると聞いております…」
鋏之介と墨之丞の案内で、一行はついに竜宮城の内部へと足を踏み入れた。そこは、珊瑚や真珠、美しい貝殻で飾られた回廊が続き、壁には色鮮やかな魚たちが戯れる様が描かれている。しかし、その華麗な装飾も、今は色褪せ、所々崩れ落ちており、そこはかとない哀愁が漂っていた。
「おお…この廃墟の美しさ!そして、この微かに残る乙姫様の残り香!まるで、忘れ去られた恋人の面影を追うような、切なくも甘美な感覚でござるな!」
やがて一行は、ひときわ大きく、そして荘厳な扉の前にたどり着いた。
「ここが…『潮騒の玉座』でございます。この奥に、乙姫様が…そして、おそらくは『天逆毎の鍵』の破片も…」
鋏之介が、神妙な面持ちで告げる。
扉を開けると、そこは広大な玉座の間であった。中央には、巨大な真珠貝で作られた玉座が鎮座し、その上には、美しい絹の衣をまとった、絶世の美女が、静かに目を閉じて横たわっていた。その姿は、まるで眠れる森の美女のようだが、その表情はどこか苦しげで、胸元には、禍々しい紫色の光を放つ宝玉のようなものが置かれている。そして、その宝玉こそが、五つ目の「天逆毎の鍵」の破片であった!
「おおおおおっ!乙姫様!なんという!なんという神々しいまでの美しさ!その閉じられた瞼!その微かに開いた唇!そして、その胸元に輝く…あの宝玉の、なんと妖しくも蠱惑的な光!この助平太、今、猛烈に…猛烈に…!」
助平太が、乙姫様の寝姿に新たな興奮を覚え、その傍らに駆け寄ろうとした瞬間、玉座の間全体に、冷たく鋭い妖気が立ち込めた!
「…フフフ…ようやくお出ましね、変態侍さん。その鍵は、渡さないわよ」
声と共に、玉座の陰から、血煙のお蝶と鉄仮面の玄蕃が、新たな武器と、さらに禍々しい妖気をまとって姿を現した!彼らは、どうやら先回りして、この玉座の間で待ち伏せしていたらしい!
「おのれ、また貴様らか!乙姫様の安眠を妨げる不届き者め!」鋏之介と墨之丞が、再び戦闘態勢に入る。
竜宮城の最深部で、五つ目の鍵の破片と、眠れる乙姫様を巡る、最後の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた!
(第二十九話 了)
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