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高校3年2学期
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2学期も中ごろ。
いってらっしゃーいと元気よくクラスメイトに手を振られ俺たちは教室を追い出された。
「じゃ、行こっか」
そう言って隣に立つ黒髪ロングの同級生は買い出しリストの紙を見せて笑った。
学校全体が浮ついた空気に包まれ、放課後だというのにまだまだ多くの人間が学校に残り熱心に準備励んでいる。
少し前を歩く同じクラスの名も知らない女生徒の後ろを歩きながら無為に他クラスの様子を覗いた。
「やっぱり学園祭前だと人沢山残ってるね」
「そうっすね。」
ゾンビやお化け、鬼のマスクをかぶった人間たちが横を走り去って行ったと思えばごりごりの運動部であろう人間がファンシーなドレスを身にまとい歩いていく。いつもだったら考えられない光景に口元を隠して小さく笑った。
「みんな面白いね。何するんだろう」
「何ですかね、お化け屋敷とか?」
「確かに!さっき怖い仮面被った人いたもんね」
「1組は……何するんすかね」
「1組はえっとね」
なんだったかなと頭を悩ませ始めた女生徒に少し期待する。
最近、旺史と話せていない。いや、正確には会えてもすれ違いざまとか、休憩時間のほんの数分会話する程度。放課後、旺史がスタジオや公園にくる頻度も少なくなってしまった。その代わりあの集団と仲良く出かけている様子をよく見かける。結局は俺といるよりそっちの集団でいた方がいいんだろうと心は卑屈になる一方だった。
だから、1組が、旺史が学園祭で何をするのか知らなかった。旺史から教えてほしかった。
「1組は音楽パフォーマンス?とかだったはず!」
「音楽パフォーマンス?」
「そう。1組の楽器できる人達を集めて生演奏しながら、楽器できない人たちは踊るらしいよ」
「へー。」
少し心がざわついた。楽器が演奏できる人たちは誰なんだろうか。そこに旺史はいるんだろうか。いたら俺は。
俺は、どう思うんだろう。
心が不安定なまま黒髪女生徒に連れられてリストの買い出しを進めた。
これはあの店で、それはこの店でと言われるがままに付いていき荷物を持つ。
「結構、時間かかっちゃったね」
「っすね。」
「……詩樹くん敬語じゃなくてもいいのに」
「あー、そうっすよね」
「そうっすね、ばっかり聞くよ?」
「そっ、そうだね、ごめん」
また習慣ででそうになる言葉を飲み込んで無理やり違う言葉を吐き出した。
黒髪女生徒は自由な両の手を後ろに組み俺の方を振り返って小首をかしげ、いいよ、許してあげる。なんて言葉を発した。
「詩樹くんってさ、旺史くんと仲いいよね?」
「そうっすか?」
「うん。旺史くんといる時の詩樹くん全然雰囲気違うよ」
「へ~」
「へ~って。……私との会話に興味ある?」
「まぁ、そこそこ?」
「なにそれ」
「すみません」
「詩樹くんってほんとに人を寄せ付けないよね。今日一緒にいて楽しくなかった?」
「買い出しなんで、楽しいとか楽しくないとかないっすね」
「ふ~ん」
突然興味をなくしたのか女生徒は私先行くねとそうそうに下駄箱まで走って行ってしまった。
別にこれくらいの重さならどうってこともないが全部の荷物を押し付けて先行くねってどういうことだよと一人ごちる。突然下の名前で呼ばれたことも、旺史との関係を聞かれたこともどうにも意味が分からないことが多すぎて、ただただ女性という生き物への疑問が増えた時間だった。
両手に荷物を抱えながら4組の教室を目指す。いまだでかい声で騒ぐ人間もいるが、買い出しのために教室を追い出された頃よりはだいぶ残っている人間も減っているようだった。買い出しの効率悪かったななんてぼんやり考えながら歩いている時だった。
「じゃ、次は旺史な!」
「え~無理だよ」
「なんでぇ、やってみてよ!」
「そーだよ」
1組の教室から盛り上がる声が漏れ聞こえてくる。呼びかけられている話題の中心であろう人物に興味がひかれ廊下を通り過ぎる途中で教室の中を伺い見た。机や椅子を前後に寄せられていて、教室の真ん中には広い空間ができていた。その空間にギターやベース、電子ピアノに、ずいぶんと簡素化されたドラムが設置されている。そのドラムの前、あの陽気集団の中心にギターを持って座っている旺史がいた。はやくはやく、なんてもてはやされて眉をたらしている旺史がゆっくりとギターに手を添える。
やめろ、やめろやめろ。
全身の血液が沸騰していくような感覚に襲われた。
弾くな。
ギターでもやめてくれ。
見たくなくて廊下の先に目線を逸らした時だった。
機械から増幅されて放出された単音の電子の音が廊下に響き渡った。
その音は鼓膜を抜けて心臓を貫く。ぱぁんと心臓から弾け出した毒々しい感情に飲み込まれてしまいそうで、目を閉じて大きく息を吸って吐いた。
二人の世界などなかった。
この思いはお前には伝わらないんだろうな。
いってらっしゃーいと元気よくクラスメイトに手を振られ俺たちは教室を追い出された。
「じゃ、行こっか」
そう言って隣に立つ黒髪ロングの同級生は買い出しリストの紙を見せて笑った。
学校全体が浮ついた空気に包まれ、放課後だというのにまだまだ多くの人間が学校に残り熱心に準備励んでいる。
少し前を歩く同じクラスの名も知らない女生徒の後ろを歩きながら無為に他クラスの様子を覗いた。
「やっぱり学園祭前だと人沢山残ってるね」
「そうっすね。」
ゾンビやお化け、鬼のマスクをかぶった人間たちが横を走り去って行ったと思えばごりごりの運動部であろう人間がファンシーなドレスを身にまとい歩いていく。いつもだったら考えられない光景に口元を隠して小さく笑った。
「みんな面白いね。何するんだろう」
「何ですかね、お化け屋敷とか?」
「確かに!さっき怖い仮面被った人いたもんね」
「1組は……何するんすかね」
「1組はえっとね」
なんだったかなと頭を悩ませ始めた女生徒に少し期待する。
最近、旺史と話せていない。いや、正確には会えてもすれ違いざまとか、休憩時間のほんの数分会話する程度。放課後、旺史がスタジオや公園にくる頻度も少なくなってしまった。その代わりあの集団と仲良く出かけている様子をよく見かける。結局は俺といるよりそっちの集団でいた方がいいんだろうと心は卑屈になる一方だった。
だから、1組が、旺史が学園祭で何をするのか知らなかった。旺史から教えてほしかった。
「1組は音楽パフォーマンス?とかだったはず!」
「音楽パフォーマンス?」
「そう。1組の楽器できる人達を集めて生演奏しながら、楽器できない人たちは踊るらしいよ」
「へー。」
少し心がざわついた。楽器が演奏できる人たちは誰なんだろうか。そこに旺史はいるんだろうか。いたら俺は。
俺は、どう思うんだろう。
心が不安定なまま黒髪女生徒に連れられてリストの買い出しを進めた。
これはあの店で、それはこの店でと言われるがままに付いていき荷物を持つ。
「結構、時間かかっちゃったね」
「っすね。」
「……詩樹くん敬語じゃなくてもいいのに」
「あー、そうっすよね」
「そうっすね、ばっかり聞くよ?」
「そっ、そうだね、ごめん」
また習慣ででそうになる言葉を飲み込んで無理やり違う言葉を吐き出した。
黒髪女生徒は自由な両の手を後ろに組み俺の方を振り返って小首をかしげ、いいよ、許してあげる。なんて言葉を発した。
「詩樹くんってさ、旺史くんと仲いいよね?」
「そうっすか?」
「うん。旺史くんといる時の詩樹くん全然雰囲気違うよ」
「へ~」
「へ~って。……私との会話に興味ある?」
「まぁ、そこそこ?」
「なにそれ」
「すみません」
「詩樹くんってほんとに人を寄せ付けないよね。今日一緒にいて楽しくなかった?」
「買い出しなんで、楽しいとか楽しくないとかないっすね」
「ふ~ん」
突然興味をなくしたのか女生徒は私先行くねとそうそうに下駄箱まで走って行ってしまった。
別にこれくらいの重さならどうってこともないが全部の荷物を押し付けて先行くねってどういうことだよと一人ごちる。突然下の名前で呼ばれたことも、旺史との関係を聞かれたこともどうにも意味が分からないことが多すぎて、ただただ女性という生き物への疑問が増えた時間だった。
両手に荷物を抱えながら4組の教室を目指す。いまだでかい声で騒ぐ人間もいるが、買い出しのために教室を追い出された頃よりはだいぶ残っている人間も減っているようだった。買い出しの効率悪かったななんてぼんやり考えながら歩いている時だった。
「じゃ、次は旺史な!」
「え~無理だよ」
「なんでぇ、やってみてよ!」
「そーだよ」
1組の教室から盛り上がる声が漏れ聞こえてくる。呼びかけられている話題の中心であろう人物に興味がひかれ廊下を通り過ぎる途中で教室の中を伺い見た。机や椅子を前後に寄せられていて、教室の真ん中には広い空間ができていた。その空間にギターやベース、電子ピアノに、ずいぶんと簡素化されたドラムが設置されている。そのドラムの前、あの陽気集団の中心にギターを持って座っている旺史がいた。はやくはやく、なんてもてはやされて眉をたらしている旺史がゆっくりとギターに手を添える。
やめろ、やめろやめろ。
全身の血液が沸騰していくような感覚に襲われた。
弾くな。
ギターでもやめてくれ。
見たくなくて廊下の先に目線を逸らした時だった。
機械から増幅されて放出された単音の電子の音が廊下に響き渡った。
その音は鼓膜を抜けて心臓を貫く。ぱぁんと心臓から弾け出した毒々しい感情に飲み込まれてしまいそうで、目を閉じて大きく息を吸って吐いた。
二人の世界などなかった。
この思いはお前には伝わらないんだろうな。
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