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第五章 後宮へ
第五章②
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桃園房にいたときから一緒にいた蛙だ。池でひとりで生きていくと宣言されたようで、蓮花はなんだか寂しくなる。
「蓮花様、大丈夫ですわ。きっと彼は強く生きていきます。……彼?」
桜綾はたおやかに首を傾げた。
「いや、オスとかメスとか考えたことがありませんでした」
「とにかく大丈夫です」
とても可憐で美しい桜綾がいつになくキッパリと言うので、蓮花はこの義姉が大好きになってしまった。
「あの……芙蓉宮にてお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
相変わらず扇で口元は覆ったままだったけれど、蓮花には桜綾が少しだけ微笑んだように見えた。
芙蓉宮での暮らしは優雅なものだった。
朝起きて、桜綾と朝食を取る。
見習いながら、作法を教わりながら頂く。その後は彩鳳国についての歴史の勉強や、しきたりなどを学ぶ。それは桜綾も一緒だ。
蓮花の知識は三国全ての歴史が頭に入っているけれど、彩鳳国に伝わる歴史は解釈が違って、蓮花にはそれが面白かった。
かと言って指摘するようなことはしない。
芙蓉宮は後宮の一部だ。皇族であっても未婚である煌月が足を踏み入れることはできない。婚約期間中は、蓮花は煌月と二人で会うときは四阿でと決められていた。
煌月は礼儀正しく先触れを出してから芙蓉宮を訪れる。
戦場からの帰り道だったときは鎧姿だったけれど、宮中にいる時は当然官服を着ていた。
その姿はとても優美だと、芙蓉宮では煌月が姿を見せると大騒ぎだ。
それでも女官達はそんな姿を表立って見せることはない。
ただ、蓮花と煌月に誰がお茶を持っていくのかで熾烈なくじ引きが行われるだけだ。
「桜綾様が好きになさいって言ったら、けろりんは言葉が分かったみたいに池に向かったんです!」
「そうか」
煌月は優しく微笑みながら蓮花の話を聞いていた。
そうして、そっと蓮花の手を取る。
蓮花は胸がどきん、とした。
「なかなか来られなくて申し訳なく思っていたのだが、お前はどこにいても変わらなくて……何と言うか、安心したよ」
「桜綾様は、とても良くして下さいます」
「うん。二人がまるで姉妹のようだと聞いてとても安心した」
「ただ……」
「ん?」
「とても素敵な方なのですが、なにかお悩みがあるように感じるのです」
「ふむ?」
煌月からはそんな様子は全く分からない。
蓮花にだから分かることなのだろう。
「仲良くして差し上げてくれ。長い間、この芙蓉宮を守ってこられたけれど、宮中では親しい人はいないと思うから」
「はい」
蓮花はにっこり笑う。
それを見て、煌月は口元に笑みを浮かべた。
「俺と会えないことも少しは寂しいと思って欲しいのだがな」
「寂しいですよ。でも寂しいって言っちゃいけないように思っているのです。だって、皆様とても良くして下さるから……」
「早く一緒に暮らしたいな」
英雄のこんな蕩けそうな顔を誰が見ることができるだろう。
「私も」
蓮花がそう言って煌月の手をきゅっと握り返すと、煌月は微笑んで蓮花の指先に軽く唇を付けた。
覗き見ていた女官たちから、きゃーっと黄色い声が上がる。
「なんだか騒がしいな」
蓮花はくすくすと笑った。
そんな様子を桜綾が見ていたことを蓮花は知らない。
また来るから、そう言い残して芙蓉宮を去った煌月を見送ると、背後から「蓮花様……」と声をかけられた。
振り返ると立ち姿も美しい桜綾がいつものように口元を扇で覆って品よく立っている。
蓮花は膝を折って挨拶をする。
「桜綾様、ごきげんよう」
桜綾は煌月が去っていった方をじっと見ていた。
そうして、蓮花の方を見る。
「蓮花様……ご一緒にお茶は如何かしら?」
「もちろん、ご一緒させていただきます」
桜綾は蓮花を伴って四阿に入る。
女官達にお茶の用意をさせると、桜綾は扇を振って女官を下がらせてしまった。
「蓮花様、大丈夫ですわ。きっと彼は強く生きていきます。……彼?」
桜綾はたおやかに首を傾げた。
「いや、オスとかメスとか考えたことがありませんでした」
「とにかく大丈夫です」
とても可憐で美しい桜綾がいつになくキッパリと言うので、蓮花はこの義姉が大好きになってしまった。
「あの……芙蓉宮にてお世話になります。どうぞよろしくお願いいたします」
相変わらず扇で口元は覆ったままだったけれど、蓮花には桜綾が少しだけ微笑んだように見えた。
芙蓉宮での暮らしは優雅なものだった。
朝起きて、桜綾と朝食を取る。
見習いながら、作法を教わりながら頂く。その後は彩鳳国についての歴史の勉強や、しきたりなどを学ぶ。それは桜綾も一緒だ。
蓮花の知識は三国全ての歴史が頭に入っているけれど、彩鳳国に伝わる歴史は解釈が違って、蓮花にはそれが面白かった。
かと言って指摘するようなことはしない。
芙蓉宮は後宮の一部だ。皇族であっても未婚である煌月が足を踏み入れることはできない。婚約期間中は、蓮花は煌月と二人で会うときは四阿でと決められていた。
煌月は礼儀正しく先触れを出してから芙蓉宮を訪れる。
戦場からの帰り道だったときは鎧姿だったけれど、宮中にいる時は当然官服を着ていた。
その姿はとても優美だと、芙蓉宮では煌月が姿を見せると大騒ぎだ。
それでも女官達はそんな姿を表立って見せることはない。
ただ、蓮花と煌月に誰がお茶を持っていくのかで熾烈なくじ引きが行われるだけだ。
「桜綾様が好きになさいって言ったら、けろりんは言葉が分かったみたいに池に向かったんです!」
「そうか」
煌月は優しく微笑みながら蓮花の話を聞いていた。
そうして、そっと蓮花の手を取る。
蓮花は胸がどきん、とした。
「なかなか来られなくて申し訳なく思っていたのだが、お前はどこにいても変わらなくて……何と言うか、安心したよ」
「桜綾様は、とても良くして下さいます」
「うん。二人がまるで姉妹のようだと聞いてとても安心した」
「ただ……」
「ん?」
「とても素敵な方なのですが、なにかお悩みがあるように感じるのです」
「ふむ?」
煌月からはそんな様子は全く分からない。
蓮花にだから分かることなのだろう。
「仲良くして差し上げてくれ。長い間、この芙蓉宮を守ってこられたけれど、宮中では親しい人はいないと思うから」
「はい」
蓮花はにっこり笑う。
それを見て、煌月は口元に笑みを浮かべた。
「俺と会えないことも少しは寂しいと思って欲しいのだがな」
「寂しいですよ。でも寂しいって言っちゃいけないように思っているのです。だって、皆様とても良くして下さるから……」
「早く一緒に暮らしたいな」
英雄のこんな蕩けそうな顔を誰が見ることができるだろう。
「私も」
蓮花がそう言って煌月の手をきゅっと握り返すと、煌月は微笑んで蓮花の指先に軽く唇を付けた。
覗き見ていた女官たちから、きゃーっと黄色い声が上がる。
「なんだか騒がしいな」
蓮花はくすくすと笑った。
そんな様子を桜綾が見ていたことを蓮花は知らない。
また来るから、そう言い残して芙蓉宮を去った煌月を見送ると、背後から「蓮花様……」と声をかけられた。
振り返ると立ち姿も美しい桜綾がいつものように口元を扇で覆って品よく立っている。
蓮花は膝を折って挨拶をする。
「桜綾様、ごきげんよう」
桜綾は煌月が去っていった方をじっと見ていた。
そうして、蓮花の方を見る。
「蓮花様……ご一緒にお茶は如何かしら?」
「もちろん、ご一緒させていただきます」
桜綾は蓮花を伴って四阿に入る。
女官達にお茶の用意をさせると、桜綾は扇を振って女官を下がらせてしまった。
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