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第五章 後宮へ
第五章③
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食事の際も、扇を口元から外すことはほぼない。それが淑女としての礼儀だと分かってはいる。
常にそうしているのか聞いたら、家族の前では扇は使わないと言っていた。
当然かもしれないけれど、まだ家族とは思っていただけないんだな、と思うと少しだけ寂しい気持ちの蓮花だ。
蓮花もそれに準じて、扇で口元を覆いながらお茶を頂く。
お茶もお菓子もこんな風にして食べていたら、正直味など分かったものではない。
「蓮花様……」
「はい」
「あの……扇はなしにしませんか?」
そう桜綾に言われて、蓮花はとても嬉しくなってしまった。
「はいっ! ぜひ!」
そっと扇を置いた桜綾は頬の丸みも美しく、真っ白な肌に小さく赤い唇もとても美しい方なのだった。
──本当に綺麗……。
村にはこんなに綺麗で優美な女性はいなかった。
「そんなに見られたら、恥ずかしいです」
桜綾は小さな声で蓮花に抗議する。
「すみません。桜綾様はあまりに美しい方なのでつい見てしまうんです。不躾でした」
蓮花はそう言って、そっと目を伏せる。
自分だって、じろじろ見られたら嫌なのだし、それは桜綾だって同じだろう。
「いえ。いろんな方に見られるので、見られることは平気なのです。蓮花様のような美しい方に見つめられるのが恥ずかしいの」
「美しいのは桜綾様です。私は村で桜綾様ほど美しい方を見たことはありません」
「まあ……」
蓮花は村での素朴な生活のことを話して聞かせる。
桜綾にしてみれば、生まれてから王族として贅沢三昧で暮らしてきてそれが当然の暮らしの中、蓮花の話は中々に興味深いものだった。
誰もが桜綾を美しいと崇める。
それが本当のことなのか、お世辞なのか分からないし、知ろうとすることすら意味がない。
そんな中で暮らしてきた。
表情など表に出さないほうが軋轢を生まない。
むしろ桜綾の前で、こんなに表情豊かなのは蓮花だけなのだ。
「蓮花様、蓮花様は天人なのですよね? 私お伺いしたいことがございます」
「て……んにんと呼ばれていますが、桃園房の出身というだけなのです。けれど、桜綾様のお話はお聞きしたく存じます」
「蓮花様は煌月様と……そのとても仲がよろしくていらっしゃるのね」
もしかして、先ほど指先に口づけを送られていたのを見られていたのだろうか。
そう思うと急に顔がかぁっと熱くなる蓮花だ。
「その……あ、お見苦しいところを」
「いえ。まるで、物語に出てくる皇子と媛のような光景でございました」
本物のお姫様にそのように言われるとくすぐったいものがある。
「お二人はどうしてあのように仲良くいらっしゃって、蓮花様は煌月様に愛されていらっしゃるの?」
蓮花から見れば、桜綾も充分に醒雪に愛されているように見える。
「醒雪様は桜綾様をとても愛していらっしゃいますよね?」
いつぞや最初に醒雪が桜綾を紹介してくれた時も、醒雪はとても愛おしげに桜綾を見つめていた。
それを蓮花はとても羨ましく思ったのだ。間違いはないと思う。
なのに、憂いを帯びた顔で桜綾は首を横に振るのだ。
「いいえ。私は昔から決められた婚姻相手。醒雪様はやむなく受け入れてくださっているだけのものです」
絶対にそんなことはない。
でなければ、あんなに愛おしげに見つめるわけがないのだし、それに宮廷においてもその発言から醒雪が桜綾に絶大な信頼を置いていることが分かっている。
桜綾は醒雪の王太子妃として、磐石であるはずだ。
なのに、なぜこれほどまでに醒雪に愛されていない、と思うのだろうか。
「なぜ、そんな風に思われるのです?」
桜綾はそのとても美しい顔を赤く染めてそっと俯いた。
──ん?
「蓮花様……その、はしたないと思わないでくださいませね。煌月様のように、情熱的に口づけなどされたことはないからです」
顔から火が出そうだ。
(こ、煌月様ーっ!)
見られていたことも指摘されたことも恥ずかしいが、今は桜綾の話を聞かなくてはいけない。
「ご婚姻されてどれくらい経つのです?」
「えっと……十……?」
「十ヶ月?」
「いえ、十年?」
ごふっ!
はしたないのは充分に分かっている。
常にそうしているのか聞いたら、家族の前では扇は使わないと言っていた。
当然かもしれないけれど、まだ家族とは思っていただけないんだな、と思うと少しだけ寂しい気持ちの蓮花だ。
蓮花もそれに準じて、扇で口元を覆いながらお茶を頂く。
お茶もお菓子もこんな風にして食べていたら、正直味など分かったものではない。
「蓮花様……」
「はい」
「あの……扇はなしにしませんか?」
そう桜綾に言われて、蓮花はとても嬉しくなってしまった。
「はいっ! ぜひ!」
そっと扇を置いた桜綾は頬の丸みも美しく、真っ白な肌に小さく赤い唇もとても美しい方なのだった。
──本当に綺麗……。
村にはこんなに綺麗で優美な女性はいなかった。
「そんなに見られたら、恥ずかしいです」
桜綾は小さな声で蓮花に抗議する。
「すみません。桜綾様はあまりに美しい方なのでつい見てしまうんです。不躾でした」
蓮花はそう言って、そっと目を伏せる。
自分だって、じろじろ見られたら嫌なのだし、それは桜綾だって同じだろう。
「いえ。いろんな方に見られるので、見られることは平気なのです。蓮花様のような美しい方に見つめられるのが恥ずかしいの」
「美しいのは桜綾様です。私は村で桜綾様ほど美しい方を見たことはありません」
「まあ……」
蓮花は村での素朴な生活のことを話して聞かせる。
桜綾にしてみれば、生まれてから王族として贅沢三昧で暮らしてきてそれが当然の暮らしの中、蓮花の話は中々に興味深いものだった。
誰もが桜綾を美しいと崇める。
それが本当のことなのか、お世辞なのか分からないし、知ろうとすることすら意味がない。
そんな中で暮らしてきた。
表情など表に出さないほうが軋轢を生まない。
むしろ桜綾の前で、こんなに表情豊かなのは蓮花だけなのだ。
「蓮花様、蓮花様は天人なのですよね? 私お伺いしたいことがございます」
「て……んにんと呼ばれていますが、桃園房の出身というだけなのです。けれど、桜綾様のお話はお聞きしたく存じます」
「蓮花様は煌月様と……そのとても仲がよろしくていらっしゃるのね」
もしかして、先ほど指先に口づけを送られていたのを見られていたのだろうか。
そう思うと急に顔がかぁっと熱くなる蓮花だ。
「その……あ、お見苦しいところを」
「いえ。まるで、物語に出てくる皇子と媛のような光景でございました」
本物のお姫様にそのように言われるとくすぐったいものがある。
「お二人はどうしてあのように仲良くいらっしゃって、蓮花様は煌月様に愛されていらっしゃるの?」
蓮花から見れば、桜綾も充分に醒雪に愛されているように見える。
「醒雪様は桜綾様をとても愛していらっしゃいますよね?」
いつぞや最初に醒雪が桜綾を紹介してくれた時も、醒雪はとても愛おしげに桜綾を見つめていた。
それを蓮花はとても羨ましく思ったのだ。間違いはないと思う。
なのに、憂いを帯びた顔で桜綾は首を横に振るのだ。
「いいえ。私は昔から決められた婚姻相手。醒雪様はやむなく受け入れてくださっているだけのものです」
絶対にそんなことはない。
でなければ、あんなに愛おしげに見つめるわけがないのだし、それに宮廷においてもその発言から醒雪が桜綾に絶大な信頼を置いていることが分かっている。
桜綾は醒雪の王太子妃として、磐石であるはずだ。
なのに、なぜこれほどまでに醒雪に愛されていない、と思うのだろうか。
「なぜ、そんな風に思われるのです?」
桜綾はそのとても美しい顔を赤く染めてそっと俯いた。
──ん?
「蓮花様……その、はしたないと思わないでくださいませね。煌月様のように、情熱的に口づけなどされたことはないからです」
顔から火が出そうだ。
(こ、煌月様ーっ!)
見られていたことも指摘されたことも恥ずかしいが、今は桜綾の話を聞かなくてはいけない。
「ご婚姻されてどれくらい経つのです?」
「えっと……十……?」
「十ヶ月?」
「いえ、十年?」
ごふっ!
はしたないのは充分に分かっている。
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