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第七章 天女の舞
第七章②
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しかし、煌月と鴻璘はその母の庇護を受けていないのだ。
救いは三人兄弟の仲の良さだった。
それぞれお互いに尊敬していて、軍神、英雄とも呼ばれている煌月も出過ぎることはなく兄である醒雪を深く尊敬している。
煌月自身は誕生の際に鳳が祝福したと噂されている。ひた隠しに秘匿されているそれは事実なのではないかと溯は思っていた。
理由は煌月の『引き』の強さである。
まだ南方が今よりも乱れていた頃、今よりも頻繁に煌月は戦に出ていた。
その際毒矢を受け、生死の境をさまよった。戦場に付いていった宮廷医師すらもう手の施しようがない、と諦めたほどのケガをした。
あの時、煌月は儚くなっていてもおかしくはなかったのだ。
なのに、煌月は生きていた。
医師が言うにはありえない回復の仕方だったという。
間違いなく毒は全身に回りかけていたし、呼吸すらままならない状態だったはずなのだ、と。
その場にいた全員が煌月の死を覚悟したのだ。
「奇跡が起きたとしか思えない」そう言っていた。
そして、今回のことだ。
同じように毒矢を受け、生死の境をさまよったのに、偶然天人と出会い、その手によって息を吹き返した。
しかもその天人は女性で妙齢で、命を助けられた煌月は恩義のみならず、好意を持ち、また女性も煌月に悪しからぬ感情を持った。
まるで運命のようだ。
その『引き』の強さは宿命に守られているかのようだと溯は思っていた。煌月がこの国を守ろうとしているように国が煌月を手放さない。
それが不幸か幸福かは本人にしか分からないことだが。
ただ、一度見かけた蓮花と煌月の二人はまるで割れた茶碗の欠片のように、二人でいることがぴったりで、しっくりいくものだった。
もしかしたら、身分など関係のない生まれだったとしてもこの二人ならば惹かれあったのかもしれない。
だからこそ煌月が蓮花に執着する気持ちも分かるような気がするのだ。
二人を見ていて、溯はそんなふうに感じるものだった。
* * *
夏に行う大祭の舞の稽古があるから、と蓮花は宮中に呼び出される。
ここ一週間ほどは芙蓉宮で蓮花と桜綾に歴史を教えてくれている祭や歴史、礼式を司る部署の役人の黎太常という人物が蓮花の舞を見てくれていた。
「さすがは天人とも呼ばれる桃園房の方です。蓮花様、まるで天女の舞ですよ。これで尚書省の奴らもぐうの音も出ないはずです」
妙に鼻息が荒い。
中央の役所で政府の中心ともなる尚書省と、祭や礼式を司る礼部はあまり仲良くないらしい。
『鳳凰』が知っていた舞だったのも幸いし、蓮花はお尻を叩かれることもなく舞の練習を進めていった。
今日、宮中で行われる舞の稽古は、本番同様に煌月と舞うものだ。
初めての相方の時は勝手が分からずいつも緊張する。ここのところ忙しいのか、ずっと煌月は芙蓉宮に姿を見せていなかった。
舞の練習だけでもその姿を見ることができるのは蓮花としてはとても嬉しい。
「蓮花様、こちらです」
芙蓉宮の女官に案内され、宮中の礼部の中にある部屋に向かう。
扇で頬から下は覆っていたが、宮中を移動するだけでも今まで接したことのない官人達の視線がまとわりつくようだ。
やはり芙蓉宮はかなり閉鎖された空間で、蓮花にとっては居心地の良いところだったのだろう。
その芙蓉宮を出る時、最近では蓮花の前では扇を使わなくなった桜綾に言われた。
「いいですか、蓮花様、堂々となさってて。人はいろいろとあなたのことを好奇心たっぷりに良くも悪くも言うでしょう。気にしてはいけません。大事なのは煌月様だけです。それを忘れないで」
まとわりつく視線や、囁き声。お綺麗だと褒める声も、あれが天人かと珍しがる声も聞こえる。
(分かりました。桜綾さま、気にしませんわ)
救いは三人兄弟の仲の良さだった。
それぞれお互いに尊敬していて、軍神、英雄とも呼ばれている煌月も出過ぎることはなく兄である醒雪を深く尊敬している。
煌月自身は誕生の際に鳳が祝福したと噂されている。ひた隠しに秘匿されているそれは事実なのではないかと溯は思っていた。
理由は煌月の『引き』の強さである。
まだ南方が今よりも乱れていた頃、今よりも頻繁に煌月は戦に出ていた。
その際毒矢を受け、生死の境をさまよった。戦場に付いていった宮廷医師すらもう手の施しようがない、と諦めたほどのケガをした。
あの時、煌月は儚くなっていてもおかしくはなかったのだ。
なのに、煌月は生きていた。
医師が言うにはありえない回復の仕方だったという。
間違いなく毒は全身に回りかけていたし、呼吸すらままならない状態だったはずなのだ、と。
その場にいた全員が煌月の死を覚悟したのだ。
「奇跡が起きたとしか思えない」そう言っていた。
そして、今回のことだ。
同じように毒矢を受け、生死の境をさまよったのに、偶然天人と出会い、その手によって息を吹き返した。
しかもその天人は女性で妙齢で、命を助けられた煌月は恩義のみならず、好意を持ち、また女性も煌月に悪しからぬ感情を持った。
まるで運命のようだ。
その『引き』の強さは宿命に守られているかのようだと溯は思っていた。煌月がこの国を守ろうとしているように国が煌月を手放さない。
それが不幸か幸福かは本人にしか分からないことだが。
ただ、一度見かけた蓮花と煌月の二人はまるで割れた茶碗の欠片のように、二人でいることがぴったりで、しっくりいくものだった。
もしかしたら、身分など関係のない生まれだったとしてもこの二人ならば惹かれあったのかもしれない。
だからこそ煌月が蓮花に執着する気持ちも分かるような気がするのだ。
二人を見ていて、溯はそんなふうに感じるものだった。
* * *
夏に行う大祭の舞の稽古があるから、と蓮花は宮中に呼び出される。
ここ一週間ほどは芙蓉宮で蓮花と桜綾に歴史を教えてくれている祭や歴史、礼式を司る部署の役人の黎太常という人物が蓮花の舞を見てくれていた。
「さすがは天人とも呼ばれる桃園房の方です。蓮花様、まるで天女の舞ですよ。これで尚書省の奴らもぐうの音も出ないはずです」
妙に鼻息が荒い。
中央の役所で政府の中心ともなる尚書省と、祭や礼式を司る礼部はあまり仲良くないらしい。
『鳳凰』が知っていた舞だったのも幸いし、蓮花はお尻を叩かれることもなく舞の練習を進めていった。
今日、宮中で行われる舞の稽古は、本番同様に煌月と舞うものだ。
初めての相方の時は勝手が分からずいつも緊張する。ここのところ忙しいのか、ずっと煌月は芙蓉宮に姿を見せていなかった。
舞の練習だけでもその姿を見ることができるのは蓮花としてはとても嬉しい。
「蓮花様、こちらです」
芙蓉宮の女官に案内され、宮中の礼部の中にある部屋に向かう。
扇で頬から下は覆っていたが、宮中を移動するだけでも今まで接したことのない官人達の視線がまとわりつくようだ。
やはり芙蓉宮はかなり閉鎖された空間で、蓮花にとっては居心地の良いところだったのだろう。
その芙蓉宮を出る時、最近では蓮花の前では扇を使わなくなった桜綾に言われた。
「いいですか、蓮花様、堂々となさってて。人はいろいろとあなたのことを好奇心たっぷりに良くも悪くも言うでしょう。気にしてはいけません。大事なのは煌月様だけです。それを忘れないで」
まとわりつく視線や、囁き声。お綺麗だと褒める声も、あれが天人かと珍しがる声も聞こえる。
(分かりました。桜綾さま、気にしませんわ)
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