輝く月は天の花を溺愛する

如月 そら

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第七章 天女の舞

第七章③

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 その時ひそひそと話していた女官と視線が合った。蓮花は目元だけでにこりと微笑む。
 きゃーっと黄色い声が上がった。
 単に愛想悪くするよりも良くした方がいいかもしれないと思って微笑んだだけだ。

 若い女官たちはきゃあきゃあとはしゃぎだす。
「ご覧になった? なんて、美しい方なの? 私を見て微笑まれたわ」
「違うわ。私の方をお向きになってたわ」
「ため息が出そう……なんて可憐なの」

 お転婆と言われて祖母に怒られたことは数しれないが、可憐などとは生まれて初めて言われたことだ。
 それでも何となく雅であることが宮中では重要視されていることは蓮花にも分かった。
 微笑みつつ、丁寧にまた優美に見えるように振る舞う。好きではないが、できないことはない。
 教育だけは厳しく受けてきているのだ。

 ──お祖母様にも、桜綾様にも、そして煌月様にも恥をかかせるようなことは致しません。
 足を進めると笙の音が響いてくる。

 その部屋ではすでに煌月がいて、舞の練習をしていた。
 官服ではなく、礼服をまとい、手に銀色のバチを持って鳳凰を舞っている。
 それは蓮花が見たことがないほどに美しく力強く、優美な舞だった。蓮花には、本当に鳳が煌月の姿をとって地上に舞い降りたようにも感じた。

 煌月が舞を終えると、部屋の中ではほうっとため息が聞こえる。
「煌月様、さすがです。素晴らしい」
「いや、少し遅れたか?」
「そうですね、あまり音は気にされなくても良いかと……」

 煌月は部屋の入口でぼうっと見とれてしまっていた蓮花に向かって笑顔を向けた。
「来たな」
「はい」
 蓮花はしずしずと煌月のもとに行き拝礼する。そんな蓮花に煌月は笑顔を向けた。
「だいぶ桜綾様に教えていただいたな? ん?」

(絶対、いつもと違うって思ってるのだわ)
 そう思うと取り澄ました自分を見られるのは妙に恥ずかしい気がして、蓮花は顔が赤くなるのを感じた。
 そして周りには絶対に聞こえないくらいの小さな声で「いじわる……」と言う。
 煌月はくすくすと笑っていた。

 周りからは煌月に声を掛けられた蓮花が頬を染めて可憐に俯いたように見えただろう。
 また、それに対して煌月が嬉しそうに普段は見せないような天真爛漫な笑顔をしたことで、なんとお似合いの二人なのかと周り中からため息のようなものが漏れる。

「さて、蓮花、礼部尚書からは十分に練習できていると聞いている。合わせるか」
「承知いたしました」

 部屋の中にも、入口にも驚くべきことに庭に面している扉の向こうにも人がいる。蓮花は祭りの時に村の中で舞ったことはあるけれど、こんなにたくさんの人の前で舞うことは初めてだった。
「ずいぶんたくさんいらっしゃるのですね」
「ああ、あんなものは瓜か馬鈴薯だと思えばいいぞ」
「まあ……」

 なんということを言うのか、とつい蓮花はくすっと笑ってしまった。そんな蓮花の笑顔にもその場がざわつく。
 時折聞こえる「天女……」という声に否定したい気持ちだが、そんなことには意味はない。
 桃園房では祭りは特に大事にされてきた。その中で蓮花は厳しく育っている。

 祭りには意味がある。
 特にこの夏の鎮魂の祭りは感謝でもあり、また祈りでもある大事なものだ。

 国を挙げてその祭を執り行う宮中で舞うということがどれほどの意味を持つものか、蓮花は理解していた。他人を気にしている場合ではない。
 奉納を無事にすることが最優先だ。
「お願いいたします、煌月様」

 蓮花の顔つきが変わったと見るや、煌月も表情を引き締めた。その場の空気がピンと張る。舞台のそれぞれ端に移動する。
「楽を」

 煌月の澄んだ声が上がるとその場に高く笛の音が響いた。
 緩やかな奏上。蓮花は面を伏せる。その笛の音に合わせてゆっくりと登壇し、所定の位置につく。
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