輝く月は天の花を溺愛する

如月 そら

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第九章 新しい国

第九章③

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 動きやすい服装に蓮花は着替え、薬草などの準備を済ませ、先ほどの渡り廊下に戻る。
「準備できたわ。行きましょう」
「はい、お願いいたします」
 見回りの目を抜けてなんと芙蓉宮の木を登り、高い壁を乗り越えたら、外に出ることができた。

 ふうっと蓮花は息をつく。
 ──なんだ……こんなに簡単に外に出られるものだったのね。

 翡翠色の瓦屋根を目に焼き付けて、蓮花は前を向く。鎧を着た男性に声をかけた。
「行きましょう」
 男性に案内されて、宮廷のはずれまでくると、馬が三頭ともう一人鎧を着た男性が立っていた。

「こちらの者は私と同じく蓮花様の警備を担当する者です」
 男性は跪拝する。
「実はこちらの者は口がきけないのですが、弓の腕は誰にも負けません」
「名前は?」
夜衡やこうといいます」

「あなたは?」
「失礼いたしました。私は順許じゅんきょと申します」
 鎧の男性は順許で、口がきけない弓の男性は夜衡というらしい。夜衡は弓が得意と言うだけあって、背中に大きな弓を背負っていた。

「では、急ぎましょう」
 馬に乗り三人は南下する。蓮花は慣れないながらも宮中で乗馬を練習していたので、なんとか二人についていくことができていた。

 二人だけならもっと早く移動することができるのだろう。
 自分が足を引っ張っていることは蓮花にも自覚があったが、それでも蓮花が行かないわけにはいかない。
 夜通し馬で駆け続けて、進んでいくと段々景色が変わってくる。

「蓮花様、次の街で一旦休憩を……」
 そう言った順許の足元に矢が刺さった。馬が驚いて前足を大きく上げ、順許が馬から落下した。
「順許!」
 蓮花が悲鳴のような声を上げる。

 夜衡は素早く矢をつがえ、矢が放たれた方角へ射返したのが見えた。
 蓮花は自分の馬を止めると、順許が落馬したところへ駆け寄る。そこへ何本もの矢が飛んできた。
 目の前で順許の身体に矢が刺さり、急所に当たるのを見る。

 ──うそ……!
 ぐいっと首の後ろを掴まれて、夜衡が蓮花をかばい、森の中に連れて行こうとする。
「でも……夜衡、順許が!」
 夜衡は首を横に振った。もう助からないと言いたいのだろう。

 その時、何頭もの黒い大きな馬が二人の前に駆けてきた。
 夜衡は矢をつがえて、蓮花の前に立ちはだかる。
「ここにいるぞ!」
「全く! 手間をかけさせやがって」
 二人を取り囲んだ男たちは見たこともない衣装や鎧を着ていた。

「これで合ってんのか?」
「知らねえ。首長のところに連れてこいってのが命令だからな」

 肌の色が浅黒く、彩鳳国の住民ではないようだ。それに彩鳳国なら首長なんて呼び方はしない。その呼び方をしているのは南の赫州国かくしゅうこくだ。
 ──この人たち、赫州国の人たちなの!?

 未だに国境では諍いが絶えないとは言われていたが、まだ国境までは辿り着いていないようにも思う。それでもここまで入り込んで来ていたということなのだろう。
「矢を下ろせ」
「首長!」

 取り囲まれた男たちの奥から一人の男性が出てきて、まだ矢をつがえたままの夜衡に声をかけた。
 立派な鎧を着ており、きりりとして強く輝く目が印象的な整った顔立ちの男性だ。
「お前がいくら早くても俺たち全員は倒せん。それに、それは天女だろう。殺すような真似はするかよ」

 彼のその声を聞いて、夜衡はゆっくりと矢を下ろした。
 二人に声をかけてきた男性は荒々しい気配を身にまとっていて、褐色の肌に金髪をなびかせている。
 首長と呼ばれるのが彼なのだと一目で分かった。

 ──天女ではないけれど……。
 蓮花の正体は知られているようだ。

「どうして……」
 蓮花が芙蓉宮を出たことは誰にも知られていないはずだ。
 彼はにやりと笑った。

「どうしてだろうな? おとなしくしていた赫州国が急に国境を荒らしだした。しかも場所は南方直轄領。そうなると、出るだろう? 国の英雄が」
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