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第九章 新しい国
第九章④
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蓮花は驚いて目を見開く。実際にその通りのことが起きていた。
「もしも国の英雄が重傷と聞いたら? それでも天女は黙っているか?」
──嵌められたんだわ……!
しかもこの男性の話しぶりからすると、狙われたのは煌月ではない。
蓮花だ。
「ちょっと待って……では煌月様のお怪我は……」
「怪我なんてしていない。ピンピンしているぞ」
それを聞いて蓮花の口から大きな吐息が漏れた。
──良かった……。煌月様に何もなくて!
「しかし、こいつの矢は厄介だ。まさかこんな奴がついてくるとは思わなかった。劉将軍含め、強い軍人は南方討伐に出ていると思ったからな。うちのものが何人もやられてしまった」
チッと彼は舌打ちしている。
蓮花がここまでおびき寄せられたのは間違いないようだが、夜衡は赫州国の人ではなかったらしい。一緒に来たのはどうやら計算外だったようだ。しかも凄腕らしい。
「夜衡には何もしないで。彼は口がきけないの」
「へえ? それで置いていかれたのかな。まあ、いい。天女はこちらに来い。来なければこいつを殺す」
夜衡の首に大きな剣が当てられて、蓮花は慌てて夜衡をかばう。
「やめて!」
「では、おとなしくしていることだ」
まさか罠に嵌められているなんて思ってもいなかった。
蓮花は手首を縛られて、首長と呼ばれる男性の馬に一緒に乗せられる。馬は力強く、大きな男性と蓮花を乗せても力強く早く駆けた。
移動するにつれて、景色がどんどんと変わっていく。緑の森があったものが、岩だらけの場所になり、気温が上がりやがて砂に囲まれた地域に入る。
蓮花はもちろん足を踏み入れたことはなかったけれど、これが赫州国なのだろう。夜の宿では猿轡をされて、手首足首を縛られ寝台の上に放り出される。
そこまでしているのだから逃げられるはずもないのに、逃げたら夜衡を殺すと言われていた。
放り出された寝台の窓から月が見える。月から連想されるのはたった一人の人だけだ。
──煌月様……!
煌月は心配しているだろうか?
それとも、まだ戦場にいて蓮花に起こったことを知らないままなのだろうか。蓮花のことを知ったら助けに来てくれるだろうか。
昼間は馬で移動する。とはいえほとんど人のいない砂地のような場所を移動するので、誰かに助けを求めるのはおろか、逃げようとしても、逃げ切れるような場所ではなかった。
「天女、水は飲め。枯れたら死ぬぞ」
脱水は食事を抜くよりも恐ろしいことだと書物から知っていたので、水をもらえる時、蓮花は遠慮なく飲むようにしていた。食事ももちろんだ。逃げるにも体力がなかったら逃げきれない。
──そのためにも食事は大事だわ。
「私、天女って名前じゃないわ」
水の器を返しながら蓮花は言う。
「ふーん、そうかよ。なんていうんだ?」
「蓮花。あなたは?」
「俺は覇玄」
「赫州国の首長なの?」
馬を休ませるために水場の木陰で休憩しながら、蓮花と覇玄はぽつぽつと話す。
数日、旅をしてきてやっと普通に話せるようになってきていた。
「赫州国は小さな民族がいくつも集まってできている。それをまとめているのが俺だ。俺も自分の民を持っている。彩鳳国で言ったら村のようなものだな。民は家族みたいなものだよ」
「どうして私を攫ったんです?」
さすがに首長と聞けば気軽な口を利くわけにもいかない。蓮花は丁寧な話し方に変えた。
覇玄の方は全く気にしていないように見える。
「天女は人を生き返らせると聞いたからだ」
噂というものは大きくなりがちだが、さすがに生き返らせることなんてできない。蓮花は覇玄に言い返した。
「それは無理です! それに何度も言っているけれど、私は天女じゃないのに……」
「けれど、毒で死にそうな英雄を救ったと聞いた!」
それは今まで見たことがないほどに切羽詰まっていて、強い口調だった。
「誰か、死にそうな方がいらっしゃるの……?」
逃げることしか考えていなかったけれど、困っている人がいると聞けばそのままにすることもできないような気がした。
もしも、大事な人だったら……。
──私だって何をしても助けたいと思ってしまうもの。
「もしも国の英雄が重傷と聞いたら? それでも天女は黙っているか?」
──嵌められたんだわ……!
しかもこの男性の話しぶりからすると、狙われたのは煌月ではない。
蓮花だ。
「ちょっと待って……では煌月様のお怪我は……」
「怪我なんてしていない。ピンピンしているぞ」
それを聞いて蓮花の口から大きな吐息が漏れた。
──良かった……。煌月様に何もなくて!
「しかし、こいつの矢は厄介だ。まさかこんな奴がついてくるとは思わなかった。劉将軍含め、強い軍人は南方討伐に出ていると思ったからな。うちのものが何人もやられてしまった」
チッと彼は舌打ちしている。
蓮花がここまでおびき寄せられたのは間違いないようだが、夜衡は赫州国の人ではなかったらしい。一緒に来たのはどうやら計算外だったようだ。しかも凄腕らしい。
「夜衡には何もしないで。彼は口がきけないの」
「へえ? それで置いていかれたのかな。まあ、いい。天女はこちらに来い。来なければこいつを殺す」
夜衡の首に大きな剣が当てられて、蓮花は慌てて夜衡をかばう。
「やめて!」
「では、おとなしくしていることだ」
まさか罠に嵌められているなんて思ってもいなかった。
蓮花は手首を縛られて、首長と呼ばれる男性の馬に一緒に乗せられる。馬は力強く、大きな男性と蓮花を乗せても力強く早く駆けた。
移動するにつれて、景色がどんどんと変わっていく。緑の森があったものが、岩だらけの場所になり、気温が上がりやがて砂に囲まれた地域に入る。
蓮花はもちろん足を踏み入れたことはなかったけれど、これが赫州国なのだろう。夜の宿では猿轡をされて、手首足首を縛られ寝台の上に放り出される。
そこまでしているのだから逃げられるはずもないのに、逃げたら夜衡を殺すと言われていた。
放り出された寝台の窓から月が見える。月から連想されるのはたった一人の人だけだ。
──煌月様……!
煌月は心配しているだろうか?
それとも、まだ戦場にいて蓮花に起こったことを知らないままなのだろうか。蓮花のことを知ったら助けに来てくれるだろうか。
昼間は馬で移動する。とはいえほとんど人のいない砂地のような場所を移動するので、誰かに助けを求めるのはおろか、逃げようとしても、逃げ切れるような場所ではなかった。
「天女、水は飲め。枯れたら死ぬぞ」
脱水は食事を抜くよりも恐ろしいことだと書物から知っていたので、水をもらえる時、蓮花は遠慮なく飲むようにしていた。食事ももちろんだ。逃げるにも体力がなかったら逃げきれない。
──そのためにも食事は大事だわ。
「私、天女って名前じゃないわ」
水の器を返しながら蓮花は言う。
「ふーん、そうかよ。なんていうんだ?」
「蓮花。あなたは?」
「俺は覇玄」
「赫州国の首長なの?」
馬を休ませるために水場の木陰で休憩しながら、蓮花と覇玄はぽつぽつと話す。
数日、旅をしてきてやっと普通に話せるようになってきていた。
「赫州国は小さな民族がいくつも集まってできている。それをまとめているのが俺だ。俺も自分の民を持っている。彩鳳国で言ったら村のようなものだな。民は家族みたいなものだよ」
「どうして私を攫ったんです?」
さすがに首長と聞けば気軽な口を利くわけにもいかない。蓮花は丁寧な話し方に変えた。
覇玄の方は全く気にしていないように見える。
「天女は人を生き返らせると聞いたからだ」
噂というものは大きくなりがちだが、さすがに生き返らせることなんてできない。蓮花は覇玄に言い返した。
「それは無理です! それに何度も言っているけれど、私は天女じゃないのに……」
「けれど、毒で死にそうな英雄を救ったと聞いた!」
それは今まで見たことがないほどに切羽詰まっていて、強い口調だった。
「誰か、死にそうな方がいらっしゃるの……?」
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もしも、大事な人だったら……。
──私だって何をしても助けたいと思ってしまうもの。
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