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第十三章 邂逅
第十三章③
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緩やかに馬車の速度が落ち、やがて停まる。馬車の外から武人が扉を叩く音がした。
「蒼暉さま、皇都に到着いたしました」
「ご苦労だった。彼女はこのまま後宮内の桃華宮へ」
ここでも後宮……!
一体どういうつもりで後宮に入れるのかは分からなかった。
馬車を降りるとき、蒼暉は蓮花の方へ振り向いた。
「ああ、そうだ。我が国の後宮は木を登って逃げ出せるような場所はないからな」
そう言ってにっと笑う。
「……っ!」
バレた。彩鳳国を脱出したときのように手頃な木に登って逃げてやろうかという気持ちが頭をよぎっていたから。
しかし、よく考えれば彩鳳国の後宮である芙蓉宮から脱出させたのは蒼暉自身なのだ。蓮花が思いつきそうな手段など絶っているのに違いない。
「諦めないわ」
キリッと蓮花は言い返す。蒼暉は涼やかな美貌に楽しそうな笑顔を浮かべた。
「天女との知恵比べか……滾るな。やってみるといい」
ははっと笑って蒼暉は馬車を後にする。
馬車はそのまま後宮の裏口につけられ、蓮花は馬車を降りる前に布で目隠しされた。
(頭に来る。本当に小賢しいわ)
目隠しされていれば、脱出するための正しい道を蓮花は覚えることができない上に、歩くにも補助がなくては無理だ。
車を降りた瞬間に走って逃げることもできない。
そのまま、蓮花は車の中で待たされた。しばらくして甘い香りを纏った者が車の中に入ってくる。
「失礼いたします」
「お願いいたします」
女性の声だった。後宮の女官なのかもしれない。
「お預かりいたします」
声からはどのように思っているかは全く分からなかった。目隠しをされた蓮花を見ているはずなのに、声から動揺など察することはできない。あらかじめ打ち合わせ済みなのかもしれなかった。
「どうぞ、手をお取りになってください」
そっと手を握られる。ゆっくり立ち、車を降りる。
さらりと肌を撫でる風が彩鳳国よりもひんやりとしていた。
紛れもなく北の国に連れてこられたのだと分かる。
目が見えない状態で整えられた道を右に曲がったり左に曲がったりしている。蓮花には本当に道を曲がっているのか、それとも同じところをぐるぐる回らされているのか、判別はつかない。
蒼暉の抜け目のなさにうんざりする。大雑把に蓮花を攫った覇玄とは大違いだ。
それでも最初に芙蓉宮を抜け出す手配をしたのは夜衡こと蒼暉だった。あの頃から赫州国の内情を知り、蓮花が芙蓉宮を出るのを待っていたのだろう。
目的は何なのだろうか……。
信頼関係を作って、時期をみて一気に思い通りに事を動かす。策士らしい行動だった。
(ここを抜け出すのは本当に難しいかもしれない)
女官に連れられてやがてどこかの室内に入ったのを感じる。
桃華宮と呼ばれていたところに着いたのかもしれない。
「天女さま、失礼いたします」
蓮花の目隠しがそっと外された。蓮花はゆっくりと目を開け、室内の様子を見て驚く。
芙蓉宮で蓮花が使っていたような部屋を想像していたのだが、それよりもはるかに広く、豪華だった。しかもそれだけではなく、派手ではない愛らしさがある部屋なのだ。
奥に見える寝台は淡い桃色の薄布で覆われた天蓋が花びらのように柔らかく重なっている。柱や梁は象牙色で、金彩は控えめながら細やかな花文様が室内の光に照らされてほのかにきらめいていた。
寝台にも梁にも牡丹や蝶など女性らしい意匠が飾られている。
この部屋は使う女性のために愛情を持って用意されていると強く感じた。それにしては使用感がないのが気になったけれど。
「恐れながら、天女さま、長旅でお疲れであろうと存じます。湯殿の準備をしておりますので、ご一緒にどうぞ」
あっという間に数人の女官に囲まれて、衣類を脱がされ、湯浴み用の薄絹に着替えさせられる。
「え……これで外に出るのはちょっと……」
「こちらでございます」
「蒼暉さま、皇都に到着いたしました」
「ご苦労だった。彼女はこのまま後宮内の桃華宮へ」
ここでも後宮……!
一体どういうつもりで後宮に入れるのかは分からなかった。
馬車を降りるとき、蒼暉は蓮花の方へ振り向いた。
「ああ、そうだ。我が国の後宮は木を登って逃げ出せるような場所はないからな」
そう言ってにっと笑う。
「……っ!」
バレた。彩鳳国を脱出したときのように手頃な木に登って逃げてやろうかという気持ちが頭をよぎっていたから。
しかし、よく考えれば彩鳳国の後宮である芙蓉宮から脱出させたのは蒼暉自身なのだ。蓮花が思いつきそうな手段など絶っているのに違いない。
「諦めないわ」
キリッと蓮花は言い返す。蒼暉は涼やかな美貌に楽しそうな笑顔を浮かべた。
「天女との知恵比べか……滾るな。やってみるといい」
ははっと笑って蒼暉は馬車を後にする。
馬車はそのまま後宮の裏口につけられ、蓮花は馬車を降りる前に布で目隠しされた。
(頭に来る。本当に小賢しいわ)
目隠しされていれば、脱出するための正しい道を蓮花は覚えることができない上に、歩くにも補助がなくては無理だ。
車を降りた瞬間に走って逃げることもできない。
そのまま、蓮花は車の中で待たされた。しばらくして甘い香りを纏った者が車の中に入ってくる。
「失礼いたします」
「お願いいたします」
女性の声だった。後宮の女官なのかもしれない。
「お預かりいたします」
声からはどのように思っているかは全く分からなかった。目隠しをされた蓮花を見ているはずなのに、声から動揺など察することはできない。あらかじめ打ち合わせ済みなのかもしれなかった。
「どうぞ、手をお取りになってください」
そっと手を握られる。ゆっくり立ち、車を降りる。
さらりと肌を撫でる風が彩鳳国よりもひんやりとしていた。
紛れもなく北の国に連れてこられたのだと分かる。
目が見えない状態で整えられた道を右に曲がったり左に曲がったりしている。蓮花には本当に道を曲がっているのか、それとも同じところをぐるぐる回らされているのか、判別はつかない。
蒼暉の抜け目のなさにうんざりする。大雑把に蓮花を攫った覇玄とは大違いだ。
それでも最初に芙蓉宮を抜け出す手配をしたのは夜衡こと蒼暉だった。あの頃から赫州国の内情を知り、蓮花が芙蓉宮を出るのを待っていたのだろう。
目的は何なのだろうか……。
信頼関係を作って、時期をみて一気に思い通りに事を動かす。策士らしい行動だった。
(ここを抜け出すのは本当に難しいかもしれない)
女官に連れられてやがてどこかの室内に入ったのを感じる。
桃華宮と呼ばれていたところに着いたのかもしれない。
「天女さま、失礼いたします」
蓮花の目隠しがそっと外された。蓮花はゆっくりと目を開け、室内の様子を見て驚く。
芙蓉宮で蓮花が使っていたような部屋を想像していたのだが、それよりもはるかに広く、豪華だった。しかもそれだけではなく、派手ではない愛らしさがある部屋なのだ。
奥に見える寝台は淡い桃色の薄布で覆われた天蓋が花びらのように柔らかく重なっている。柱や梁は象牙色で、金彩は控えめながら細やかな花文様が室内の光に照らされてほのかにきらめいていた。
寝台にも梁にも牡丹や蝶など女性らしい意匠が飾られている。
この部屋は使う女性のために愛情を持って用意されていると強く感じた。それにしては使用感がないのが気になったけれど。
「恐れながら、天女さま、長旅でお疲れであろうと存じます。湯殿の準備をしておりますので、ご一緒にどうぞ」
あっという間に数人の女官に囲まれて、衣類を脱がされ、湯浴み用の薄絹に着替えさせられる。
「え……これで外に出るのはちょっと……」
「こちらでございます」
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