2 / 86
1.身代わりのお見合い
身代わりのお見合い①
しおりを挟む
「伯父様? お声が廊下にまで響いてますわよ」
「だって香澄、つい大きくなってしまうだろう」
くすくすと笑いながら香澄は和室を洋風に変えた和洋折衷の客間に入り、テーブルの上にお茶とお菓子を置く。
いつだってこの伯父は大袈裟なのだ。
伯父の向かいで父も微妙な顔をしていた。込み入った話なのかもしれない。香澄は用を済ませたら部屋を出ようとそっと立ち上がる。
先ほどまで大騒ぎしていた伯父はその香澄の仕草をじっと見ていた。
「良いことを思いついた」
「兄さんそれは止めてください」
なにか思いついたらしい伯父を即座に父が止めている。急にこの場に来た香澄には、何のことだかさっぱり分からなかった。
「菜々美が家を出てしまったんだ」
伯父は腕を組んで苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「あら……」
香澄に話しかけてきたようだったので、足を止めた。
従姉妹の菜々美はお嬢様なのだがとても自由に生きている人で、元々この柚木家の型に嵌まった部分は彼女に合わないところがあるのだ。
菜々美なら正直、家を出ても自分で生きていけるだろう。それくらいにバイタリティのある人だ。
むしろそんな従妹を型に嵌めようとしている伯父の方に無理がある。
「菜々美ちゃんは自由だからなぁ」
「自由すぎる!」
(雷が落ちたわ)
香澄は苦笑する。
「大体、本当は今週末見合いをするはずだったんだ。家を出るだけならともかく、置手紙をして家出状態だ」
吐き捨てるような伯父の声には同情するが所詮は他人事だ。
「あらら。そうだったんですね」
それはお見合いが嫌だったのでは? と思うけれども、香澄は口にはしなかった。
「頭が痛い。散々探しているが、どうやって隠れたものだか見つからない。見合い相手は大手コンサルティング会社のやり手CEOなんだ。取引相手でもあるし、こちらからの失礼は許されない」
「大変ですわね」
伯父がまたじっと香澄を見ている。
(ん……?)
「香澄は菜々美とも年齢が近かったな。いや、むしろお前の方が年上だったのではなかったか?」
大学出たてのピチピチの菜々美は二十三歳で、確かに香澄はその三歳年上で二十六歳だった。大きな声では言いたくない。童顔だから幼く見えるだけだ。
「ま……あ、私の方が年上、かも?」
菜々美は伯父夫婦が年を重ねてからできた愛娘だった。その分、わがままに育ってしまったこともやむないことなのではないだろうか。
「従姉妹ならそれほど変わらないだろう」
先ほどまで取り乱したようすだったのに、伯父は急に落ち着きを取り戻し始める。
(え、ちょっと待って。それは……)
「兄さん……」
父の咎めるような声にやっと香澄は危機感を感じ始めていた。
「伯父様? どういうことかしら?」
声が震えそうだ。
「交際相手でもいるのか?」
「だって香澄、つい大きくなってしまうだろう」
くすくすと笑いながら香澄は和室を洋風に変えた和洋折衷の客間に入り、テーブルの上にお茶とお菓子を置く。
いつだってこの伯父は大袈裟なのだ。
伯父の向かいで父も微妙な顔をしていた。込み入った話なのかもしれない。香澄は用を済ませたら部屋を出ようとそっと立ち上がる。
先ほどまで大騒ぎしていた伯父はその香澄の仕草をじっと見ていた。
「良いことを思いついた」
「兄さんそれは止めてください」
なにか思いついたらしい伯父を即座に父が止めている。急にこの場に来た香澄には、何のことだかさっぱり分からなかった。
「菜々美が家を出てしまったんだ」
伯父は腕を組んで苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「あら……」
香澄に話しかけてきたようだったので、足を止めた。
従姉妹の菜々美はお嬢様なのだがとても自由に生きている人で、元々この柚木家の型に嵌まった部分は彼女に合わないところがあるのだ。
菜々美なら正直、家を出ても自分で生きていけるだろう。それくらいにバイタリティのある人だ。
むしろそんな従妹を型に嵌めようとしている伯父の方に無理がある。
「菜々美ちゃんは自由だからなぁ」
「自由すぎる!」
(雷が落ちたわ)
香澄は苦笑する。
「大体、本当は今週末見合いをするはずだったんだ。家を出るだけならともかく、置手紙をして家出状態だ」
吐き捨てるような伯父の声には同情するが所詮は他人事だ。
「あらら。そうだったんですね」
それはお見合いが嫌だったのでは? と思うけれども、香澄は口にはしなかった。
「頭が痛い。散々探しているが、どうやって隠れたものだか見つからない。見合い相手は大手コンサルティング会社のやり手CEOなんだ。取引相手でもあるし、こちらからの失礼は許されない」
「大変ですわね」
伯父がまたじっと香澄を見ている。
(ん……?)
「香澄は菜々美とも年齢が近かったな。いや、むしろお前の方が年上だったのではなかったか?」
大学出たてのピチピチの菜々美は二十三歳で、確かに香澄はその三歳年上で二十六歳だった。大きな声では言いたくない。童顔だから幼く見えるだけだ。
「ま……あ、私の方が年上、かも?」
菜々美は伯父夫婦が年を重ねてからできた愛娘だった。その分、わがままに育ってしまったこともやむないことなのではないだろうか。
「従姉妹ならそれほど変わらないだろう」
先ほどまで取り乱したようすだったのに、伯父は急に落ち着きを取り戻し始める。
(え、ちょっと待って。それは……)
「兄さん……」
父の咎めるような声にやっと香澄は危機感を感じ始めていた。
「伯父様? どういうことかしら?」
声が震えそうだ。
「交際相手でもいるのか?」
185
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
勘違いで別れを告げた日から豹変した婚約者が毎晩迫ってきて困っています
Adria
恋愛
詩音は怪我をして実家の病院に診察に行った時に、婚約者のある噂を耳にした。その噂を聞いて、今まで彼が自分に触れなかった理由に気づく。
意を決して彼を解放してあげるつもりで別れを告げると、その日から穏やかだった彼はいなくなり、執着を剥き出しにしたSな彼になってしまった。
戸惑う反面、毎日激愛を注がれ次第に溺れていく――
イラスト:らぎ様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる