敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

文字の大きさ
10 / 86
2.本当の名前

本当の名前④

しおりを挟む
 先ほど師匠が言っていたのはその書道展の話だ。この『東部書道展』という展覧会は会派を問わず参加できるもので、歴史もあり有名なものだった。

 香澄も毎年出品している。
 作品を書くためにはまずは『何を書く』かを考えなくてはいけない。そして書いたものを師匠に見てもらったり、会の中での錬成会という一日中書く日などもあってそこでも練習を重ねる。半年ほど前から準備を開始するものなのだ。

 香澄はお手本となる本の中から印象深い言葉を書き出して書にすることにしていた。
 おそらく師匠が手にしていたのもその参考資料になりそうな本なのだろう。
 お稽古用の部屋にはそういう参考資料がたくさんあった。

 香澄はその本棚の前に立ち、なにか書の参考になるものはないかとチェックを始める。
「柚木さん、最近なにかあった?」
 夢中になって本棚を見ていた香澄はそう声をかけられて、思わず手を止める。

 師匠が香澄のことをにこにことしながら見ていた。
「いえ……なにもないですよ?」
 強いて言えば、お見合いをした。

 けれどあれはお断りして終わりとなったのだし、香澄はもともと身代わりだったのだ。
 出会ったのは素敵な人だったけれど、それは終わったことだ。

「ふぅん? なんか雰囲気が違うんですけどね」
「気のせいだと思いますよ」
「そうかなぁ? 僕はその手の勘は非常に良いと自負しているんだけれど。君がそう言うなら、まぁいい」
 実際に師匠の勘が鋭いのも確かではある。

「そうだな……そんな柚木さんには大正とか昭和初期の文豪の小説の作品を書にするのも良いかもしれない」
 香澄は首を傾げた。
「宮沢賢治とか、夏目漱石とかですか?」

 頭の中を『雨ニモマケズ……』などの文章がふとよぎる。学校で覚えさせられた記憶があった。暗唱のテストとかあったように思う。

「泉鏡花とか谷崎潤一郎とかね」
「読んだことないです……」
「面白いよ。まあ、けど書きやすいのは近代の小説だろう」

 師匠に差し出されたそれは少し前に発売されたベストセラー小説で、映画化もされて有名になったものだった。
「あら? 谷崎潤一郎とかではないんですか?」
「そうだね。君にはこちらの方が向いているだろう」

 差し出された文庫本は、香澄の記憶では賞を受賞していたし、ミリオンセラーにもなっていた本ではあった。
「これを、書に?」
「よく読み込んでみて」

 香澄はその本を受け取った。見覚えがある表紙だ。本のタイトルが流行語にノミネートされており、一世を風靡した作品なのだ。よく探せば自宅にもあるはずだ。

 昔は何度か読んだ記憶があったけれど、内容はもう忘れていた。
「うちにもあった気がしますけど。どこにやったかな……」
「それは資料だから持ち帰っていいよ」
「ありがとうございます」
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...