敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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3.ガラスの靴を置いて

ガラスの靴を置いて①

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「柚木香澄です」
「香澄さん、見つけた。本当に君だ」
 そういって見せた神代の笑顔は元からの顔立ちの端正さとも相まって、輝くようなもので香澄には眩しいくらいだった。

「あの……本当に探したのですか?」
 疑問に思って香澄は聞いてみた。
「ええ。そうです。君がシンデレラのようにガラスの靴を置いていってくれていたから助かった」
「ガラスの靴?」
 そんなものを置いていった覚えはない。

「ヒントですよ。柚木家には菜々美さんと年の近い従姉妹がいた。書を嗜んでいる年の近い従姉妹はあなただけだ。それでも探すのは簡単でなくて二週間もかかってしまった。書は本名ではないんですね」
「あ、そうです。雅号っていう書道用の名前を使いますから」

 もちろん香澄にも雅号があった。神代は眉根を寄せて苦笑している。
「知らなかったんです。けど、俺はあなたを探し当てた」
 あの綺麗な榛色の瞳が真っすぐに香澄をとらえていた。

「俺と結婚を前提にお付き合いしてくれますか?」
「結婚前提!? どうしてどうなるんです?」
「だってお見合いに来ていたでしょう。あれって結婚前提ですよね」
「けど、神代さんもご存じなんですよね? お見合いは菜々美ちゃんの身代わりで……」

「柚木家としてはどちらでも構わないみたいですよ?」
 それはそうかもしれないけれど。やけに用意周到なような……。
「伯父様、菜々美さんのお父様も、香澄さんのお父様にもご了解いただきました。香澄さんと結婚前提の交際をさせていただくこと。お二人とも大変にお喜びで」
 そう言って、神代はにっこりと笑う。

「ああ、そう言えば香澄さんを身代わりにしたこともお詫びされましたね」
 しれっと神代が言うのに、香澄は言葉を返すことができない。心の中で叫ぶだけだ。

 ──伯父様っ! お父様まで、裏切者っっ!
 逃げられない……いや、こんな風に追いかけられたら逃げる気なんて端からなかった。

「私、菜々美ちゃんの身代わりだからって……」
「うん。それが君のお断りしなくちゃいけない事情だったんだよね。じゃあ、今は? 俺はあの時もっと一緒にいたいと思った柚木香澄さんに交際を申し込んでいるんだけど?」

 綺麗な整った顔立ちで微笑んで首を傾げられたら、もう逆らうことなんでできなくて。
 しかもあの時は話していて楽しかったことも間違いではない。
 確かにあの時、自分が本来の相手だったらと願わずにはいられなくて、それで泣きそうになっていたことも間違いではないのだから。

「その、ふつつかですが……っ、よろしくお願いいたたします」
「よくできました」

 思わずといった感じで隣にいた神代が香澄を抱きしめる。
 爽やかな香水の香りが鼻に届き、抱きしめられても香澄は怖くなかった。

 ──怖く……ない。
 むしろその腕の中は安心すらできるようなものだった。
「一緒に映画に行ってくれる?」
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