13 / 86
3.ガラスの靴を置いて
ガラスの靴を置いて②
しおりを挟む
抱きしめたまま囁かれて、香澄は笑ってしまった。
「行きましょう」
ぎゅうっと香澄を抱く腕が強くなる。
「本当にあなただ……」
まるでやっと呼吸ができた人のようなその吐息混じりの声に必死さを感じて、思わず香澄は神代の広い背中に手を回してしまった。
自分を探し出してくれた。
香澄は諦めたのに、この人は諦めなかったのだ。
そのことをとても尊く感じた。
「神代さん……」
「ん?」
「探し出してくれて、ありがとうございます」
「こちらこそ。見つかってくれてありがとう」
ん? と思わず顔を上げると神代がとても優しい顔で微笑んでいた。つられるように香澄は笑ってしまった。
「もう! なに言ってるんです?」
「ああ、やっぱり可愛い。その笑顔が見たかった」
こうして交際することとなった二人は連絡先を交換したのだった。
しかし、神代はやり手と呼ばれる会社のCEOであり、香澄は半年後に展覧会を控えた書道家だ。
連絡先を交換したものの、普段はメールアプリのテキストメッセージでのやり取りが中心となってしまっていた。たまに、夜時間ができると神代が『通話してもいいですか?』とメッセージをくれてそれに香澄が了承すると、通話するという感じだ。
スマートフォンの向こうからは神代のため息が漏れ聞こえていた。
『はぁ……せっかくシンデレラを見つけたのに、一向にお会いできない……』
物語ではお姫様を探し当てた王子様は幸せに暮らしました。というのがエンディングであり、その後の生活については描かれないのが一般的だ。まさか、香澄も交際している相手と会うことがこんなにも難しいことなのだとは思わなかったのだ。神代が言わんとすることは分かる。
「神代さんもお忙しいですものね」
『しかも俺のお姫様は聞き分けが良すぎて、会いたいとかわがままを言ってくれないし』
どうしよう。会いたいのは間違いないのだが、なにせ交際歴のない香澄のことだ。どれくらい相手に甘えていいのか分からないというのが正直なところだった。
「え? えっ? わがままを言った方がいいんですか? 私も会いたいです……本当は」
小さい声で正直な気持ちを打ち明けてみたら、さらに大きなため息と甘くて低い声が耳をくすぐった。
『本当に可愛い。今すぐぎゅうっとしたい。そういえば映画を観に行こうという約束も果たしていない』
「あの、神代さんのお時間ができてからで大丈夫ですよ」
『来週のディナーの予定は忘れていませんよね?』
「ええ。もちろんです。楽しみにしていますね」
『俺もです。楽しみにしすぎて仕事の効率が良くなっているので、秘書に定期的に香澄さんとのデートの約束を入れるようにと勧奨があったくらいですよ』
その言い方にくすくすと香澄は笑ってしまった。
「秘書の方に?」
「行きましょう」
ぎゅうっと香澄を抱く腕が強くなる。
「本当にあなただ……」
まるでやっと呼吸ができた人のようなその吐息混じりの声に必死さを感じて、思わず香澄は神代の広い背中に手を回してしまった。
自分を探し出してくれた。
香澄は諦めたのに、この人は諦めなかったのだ。
そのことをとても尊く感じた。
「神代さん……」
「ん?」
「探し出してくれて、ありがとうございます」
「こちらこそ。見つかってくれてありがとう」
ん? と思わず顔を上げると神代がとても優しい顔で微笑んでいた。つられるように香澄は笑ってしまった。
「もう! なに言ってるんです?」
「ああ、やっぱり可愛い。その笑顔が見たかった」
こうして交際することとなった二人は連絡先を交換したのだった。
しかし、神代はやり手と呼ばれる会社のCEOであり、香澄は半年後に展覧会を控えた書道家だ。
連絡先を交換したものの、普段はメールアプリのテキストメッセージでのやり取りが中心となってしまっていた。たまに、夜時間ができると神代が『通話してもいいですか?』とメッセージをくれてそれに香澄が了承すると、通話するという感じだ。
スマートフォンの向こうからは神代のため息が漏れ聞こえていた。
『はぁ……せっかくシンデレラを見つけたのに、一向にお会いできない……』
物語ではお姫様を探し当てた王子様は幸せに暮らしました。というのがエンディングであり、その後の生活については描かれないのが一般的だ。まさか、香澄も交際している相手と会うことがこんなにも難しいことなのだとは思わなかったのだ。神代が言わんとすることは分かる。
「神代さんもお忙しいですものね」
『しかも俺のお姫様は聞き分けが良すぎて、会いたいとかわがままを言ってくれないし』
どうしよう。会いたいのは間違いないのだが、なにせ交際歴のない香澄のことだ。どれくらい相手に甘えていいのか分からないというのが正直なところだった。
「え? えっ? わがままを言った方がいいんですか? 私も会いたいです……本当は」
小さい声で正直な気持ちを打ち明けてみたら、さらに大きなため息と甘くて低い声が耳をくすぐった。
『本当に可愛い。今すぐぎゅうっとしたい。そういえば映画を観に行こうという約束も果たしていない』
「あの、神代さんのお時間ができてからで大丈夫ですよ」
『来週のディナーの予定は忘れていませんよね?』
「ええ。もちろんです。楽しみにしていますね」
『俺もです。楽しみにしすぎて仕事の効率が良くなっているので、秘書に定期的に香澄さんとのデートの約束を入れるようにと勧奨があったくらいですよ』
その言い方にくすくすと香澄は笑ってしまった。
「秘書の方に?」
199
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
王子様への置き手紙
あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
この溺愛は契約外です~恋焦がれた外科医から愛し愛されるまで~
水羽 凛
恋愛
不幸な境遇を生きる健気な女性花名は母親の治療費と引き換えに外科医である純正の身の回りの世話をすることになる。恋心を隠せない花名に純正は……。
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる