敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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3.ガラスの靴を置いて

ガラスの靴を置いて③

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『そうです。俺の効率が一気に上がるそうですよ。まあ、それも納得だけれど。楽しみにしていることがあるから、俺は人参を目の前にぶら下げられた馬です』
「まあ……」

 神代が正直にいろんなことを話してくれると香澄も心がくすぐられるような気持ちになる。これが嬉しいとか楽しいということで交際というものの醍醐味なのだろう。だから香澄も頑張って自分の気持ちを打ち明けてみることにした。

 ディナーの店も神代が探してくれた店で、いつも神代のリードに任せてしまっていることを香澄は気にしていたけれど、嬉しい気持ちを神代に伝える。
「私も来週のディナーでお会いできるのを楽しみにしているんです」
『一緒ですね』

 まるで神代があの綺麗な顔で微笑んでいる姿が見えるようだった。心が暖かい気持ちになって香澄は通話を終える。

 また今度……と通話を切るときは寂しくて本当に心がちぎられるかのようだった。
 さっきまで神代と話していたスマートフォンを香澄は胸にきゅっと押し当てる。

 ──神代さん、大好きです。
 いつか本人にそう伝えることが香澄の夢になった。


「先生、見ていただいてよろしいですか?」
 教室で生徒が前にいる香澄に細い毛筆で書かれた紙を持ってきた。生徒といっても香澄よりもだいぶお年を重ねた奥様だ。

 持ってきたのは親しい人に送る手紙だった。平日の昼間の教室は時間を持て余したご婦人や、改めて字を習いたいという紳士が生徒さんであることが多い。

 練習の際には練習用の半紙を使っているが、香澄に見てほしいと持ってきた毛筆は紙にもこだわり、墨が綺麗ににじむような用紙を使っている。

「お手紙、完成しましたか?」
 香澄はふわりと笑った。
「はい」
 生徒さんである奥様は恥ずかし気に微笑んで香澄に紙を渡した。彼女は学生時代からの友人に送る手紙を毛筆で書き進めていたのだ。

 香澄はそれを見ながらアドバイスをする。奥様は熱心にメモを取っていたが、今回は実際にその紙を手紙として出すので直接の添削はしない。
 大人のお稽古には実践が伴うこともあるので臨機応変に対応するようにしているのだ。

「私が出すお手紙をお友達が楽しみにしているんです」
「素敵ですね」
「ほら、今はメールとかメッセージといいますの? さっと送れるものがあるでしょう? 手書きのものは少ないですからとても喜ばれるんです」
「確かにその通りですね」

 香澄も神代に送る時はメッセージアプリでのやり取りが多い。書道をやっているけれど、毛筆で手紙を送るということは考えたことがなかった。

 振り返ると情報をリアルタイムで送れるメッセージの授受で完結させてしまうことが多いのだ。そう思うと必要最低限なやり取りしか神代としていないような気がして香澄は手紙を神代に送りたくなってしまった。
 生徒からは自分が教えることだけではなく学ぶべきことも多い。
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