15 / 86
3.ガラスの靴を置いて
ガラスの靴を置いて④
「私もお手紙を書いてみようかしら?」
香澄が言うと奥様は微笑まれた。
「先生は文字もお上手ですし、先様もきっとお喜びになると思いますよ?」
香澄は頭の中で早速文章を練り、手元のメモに書きつけていったのだった。
生徒がみんな帰った後、香澄は細い毛筆のペンを取り出して、教室にある和紙を丁寧に見てゆく。その中で薄桜色の綺麗な紙を見つけたので、丁寧にそれを取り出した。
そして、下書き用の紙も一緒に取り出す。
一般的な手紙の書き方としては『拝啓』などの頭語で始まり次に『時候のあいさつ』などを入れる。けれど親しい人に送る場合は、頭語・結語などを省いて簡略化したスタイルでも構わないと教室でも教えていた。
(交際相手は親しい人でいいのよね?)
真っ白な下書き用の紙を前にして香澄はそんなことを考える。頭語は省くこととした。明日にでもポストに投函すればディナーまでには到着するだろうと考えて筆を執る。
『神代佳祐様 お忙しい日々をお過ごしのことと存じます。……』
手紙の内容は今日、教室で友人に手紙を書く生徒さんがいたので自分も書いてみようと思ったこと、普段は会えないことも多いけれど香澄も会いたいと思っていること、それからディナーを楽しみにしていることなどを簡潔にまとめて文章にした。
一度読んで、違和感を感じるところや文章の繋がりがおかしいところ、それから助詞などをチェックしていく。
自身の手紙に赤を入れてからもう一度下書きをして、字のバランスを確認し本番用の紙に書き写していった。
書いている間は集中できる。
書き終わって遊び紙に余分な墨を吸わせて、もう一度確認した。
特に問題はないと思ったので以前に神代にもらった名刺を取り出し、丁寧に宛先を書いて切手を貼る。
明日、ポストに入れましょうと封筒をカバンの中に入れた。手紙を受け取った神代が喜んでくれたらいいなとくすぐったいような願うような気持ちで香澄は翌日にポストに封筒を投函したのだった。
* * *
神代R&C(リサーチ&コンサルティング)ファームは駅前の高層ビルの中に自社を構えるコンサルティング会社だ。
M&Aを得意としているが、最近の業務はそれだけにとどまらない。神代は先週末、休日だったというのに取引先社長にゴルフに行こうと声をかけられ、接待ゴルフに行く羽目になった。こうして会社の代表者として休日でも呼び出されることがある。
これもCEOの仕事の一つであると理解しているからもちろんお付き合いをさせていただいたものだ。
早朝から呼び出されて、一日中付き合った。おかげで停滞していたITコンサルティングの企画について進行を勧奨することができた。
香澄が言うと奥様は微笑まれた。
「先生は文字もお上手ですし、先様もきっとお喜びになると思いますよ?」
香澄は頭の中で早速文章を練り、手元のメモに書きつけていったのだった。
生徒がみんな帰った後、香澄は細い毛筆のペンを取り出して、教室にある和紙を丁寧に見てゆく。その中で薄桜色の綺麗な紙を見つけたので、丁寧にそれを取り出した。
そして、下書き用の紙も一緒に取り出す。
一般的な手紙の書き方としては『拝啓』などの頭語で始まり次に『時候のあいさつ』などを入れる。けれど親しい人に送る場合は、頭語・結語などを省いて簡略化したスタイルでも構わないと教室でも教えていた。
(交際相手は親しい人でいいのよね?)
真っ白な下書き用の紙を前にして香澄はそんなことを考える。頭語は省くこととした。明日にでもポストに投函すればディナーまでには到着するだろうと考えて筆を執る。
『神代佳祐様 お忙しい日々をお過ごしのことと存じます。……』
手紙の内容は今日、教室で友人に手紙を書く生徒さんがいたので自分も書いてみようと思ったこと、普段は会えないことも多いけれど香澄も会いたいと思っていること、それからディナーを楽しみにしていることなどを簡潔にまとめて文章にした。
一度読んで、違和感を感じるところや文章の繋がりがおかしいところ、それから助詞などをチェックしていく。
自身の手紙に赤を入れてからもう一度下書きをして、字のバランスを確認し本番用の紙に書き写していった。
書いている間は集中できる。
書き終わって遊び紙に余分な墨を吸わせて、もう一度確認した。
特に問題はないと思ったので以前に神代にもらった名刺を取り出し、丁寧に宛先を書いて切手を貼る。
明日、ポストに入れましょうと封筒をカバンの中に入れた。手紙を受け取った神代が喜んでくれたらいいなとくすぐったいような願うような気持ちで香澄は翌日にポストに封筒を投函したのだった。
* * *
神代R&C(リサーチ&コンサルティング)ファームは駅前の高層ビルの中に自社を構えるコンサルティング会社だ。
M&Aを得意としているが、最近の業務はそれだけにとどまらない。神代は先週末、休日だったというのに取引先社長にゴルフに行こうと声をかけられ、接待ゴルフに行く羽目になった。こうして会社の代表者として休日でも呼び出されることがある。
これもCEOの仕事の一つであると理解しているからもちろんお付き合いをさせていただいたものだ。
早朝から呼び出されて、一日中付き合った。おかげで停滞していたITコンサルティングの企画について進行を勧奨することができた。
あなたにおすすめの小説
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』
まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。
夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。
生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、姉と比較される日々。
「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」
その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。
しかし、彼女が消えた翌朝。
カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。
そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。
そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。
――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」
真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。
だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
あなたと別れて、この子を生みました
キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。
クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。
自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。
この子は私一人で生んだ私一人の子だと。
ジュリアとクリスの過去に何があったのか。
子は鎹となり得るのか。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
⚠️ご注意⚠️
作者は元サヤハピエン主義です。
え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。
誤字脱字、最初に謝っておきます。
申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ
小説家になろうさんにも時差投稿します。