敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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3.ガラスの靴を置いて

ガラスの靴を置いて⑤

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 神代R&CファームはCEOである神代が若くやり手であることもあり、若いスタッフも多いため今までのようなM&Aの業務だけでなく、最新のIT企画のコンサルティングの仕事を取ってくることもできるのだ。
 場合によってはCEO自らが現場に口を出すこともあり、風通しの良い会社だと言われていた。

 
「三津合エレクトロニクスからメールが来ていました」
 役員用の執務室の大きなデスクと三面で置かれているパソコンモニターから神代が顔を上げる。げんなりとした表情を隠そうともしていなかった。

「当然ですね。どうしてこうもスピード感がないんだ。夕食までお付き合いしたのだからさっさとしろというんだ」
 神代CEOの暴言は執務室が防音である関係で外に漏れることはない。慣れている秘書の高村たかむらはさらっと流した。

「ご苦労の甲斐がありましたね」
「担当部署にすぐ投げてプロジェクトを進めてもらえますか?」
「そのようにさせていただきました」

 先ほどから神代の前にいる秘書は神代が業務取締役をしていたころからついてくれている秘書で、神代のことは知り尽くしているのでこれくらいのことは指示をしなくても進めてくれる。

 神代もそれを十分に承知してはいるのだが、それでも念のために自分の意志は伝えるようにしている。
 察するというのは美しいことだと思うがそれによって仕事に漏れが発生するようなことを神代は好まないのだ。

 秘書である高村もそれを知っているので細かい報告は漏らさない。お互いに察しが良くても口に出すことでコンセンサスを得ることが大事だと分かっているからである。

「あと……柚木香澄様という方をご存じですか?」
 パタパタとすごい勢いでキーボードを叩いていた神代の手がぴたりと止まる。
 いつも何かをしながらでも高村の話を聞いているので、ぱたっとキーボードの音が止まって画面から顔を上げる神代というのを高村は初めて見た。

「なぜ、香澄さんの名前を……?」
 神代はまだ面と向かって香澄の名前を呼んだことはない。ただ、最近は心の中でいつもそのように呼んでいて、思いがけずに高村からその名前が出てきたものだから、驚いていつも心で呼んでいる名前が口から出てしまったのだ。

「香澄さん……ですか」
 仕事に夢中になっているがために堅物となってしまっていてモテにモテまくってはいるけれどお相手にはついぞ恵まれていなかったCEOの口から女性の名前が出てくることなどついぞなくて、驚いて思わず神代の言うことを繰り返してしまった高村に、神代は不機嫌そうに髪をかきあげた。

「なんで高村さんが名前で呼ぶんですよ。知ってますけど、どうしてその名前を?」
「こちらです」
 高村は神代に綺麗な色の封筒を差し出した。

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