16 / 86
3.ガラスの靴を置いて
ガラスの靴を置いて⑤
しおりを挟む
神代R&CファームはCEOである神代が若くやり手であることもあり、若いスタッフも多いため今までのようなM&Aの業務だけでなく、最新のIT企画のコンサルティングの仕事を取ってくることもできるのだ。
場合によってはCEO自らが現場に口を出すこともあり、風通しの良い会社だと言われていた。
「三津合エレクトロニクスからメールが来ていました」
役員用の執務室の大きなデスクと三面で置かれているパソコンモニターから神代が顔を上げる。げんなりとした表情を隠そうともしていなかった。
「当然ですね。どうしてこうもスピード感がないんだ。夕食までお付き合いしたのだからさっさとしろというんだ」
神代CEOの暴言は執務室が防音である関係で外に漏れることはない。慣れている秘書の高村はさらっと流した。
「ご苦労の甲斐がありましたね」
「担当部署にすぐ投げてプロジェクトを進めてもらえますか?」
「そのようにさせていただきました」
先ほどから神代の前にいる秘書は神代が業務取締役をしていたころからついてくれている秘書で、神代のことは知り尽くしているのでこれくらいのことは指示をしなくても進めてくれる。
神代もそれを十分に承知してはいるのだが、それでも念のために自分の意志は伝えるようにしている。
察するというのは美しいことだと思うがそれによって仕事に漏れが発生するようなことを神代は好まないのだ。
秘書である高村もそれを知っているので細かい報告は漏らさない。お互いに察しが良くても口に出すことでコンセンサスを得ることが大事だと分かっているからである。
「あと……柚木香澄様という方をご存じですか?」
パタパタとすごい勢いでキーボードを叩いていた神代の手がぴたりと止まる。
いつも何かをしながらでも高村の話を聞いているので、ぱたっとキーボードの音が止まって画面から顔を上げる神代というのを高村は初めて見た。
「なぜ、香澄さんの名前を……?」
神代はまだ面と向かって香澄の名前を呼んだことはない。ただ、最近は心の中でいつもそのように呼んでいて、思いがけずに高村からその名前が出てきたものだから、驚いていつも心で呼んでいる名前が口から出てしまったのだ。
「香澄さん……ですか」
仕事に夢中になっているがために堅物となってしまっていてモテにモテまくってはいるけれどお相手にはついぞ恵まれていなかったCEOの口から女性の名前が出てくることなどついぞなくて、驚いて思わず神代の言うことを繰り返してしまった高村に、神代は不機嫌そうに髪をかきあげた。
「なんで高村さんが名前で呼ぶんですよ。知ってますけど、どうしてその名前を?」
「こちらです」
高村は神代に綺麗な色の封筒を差し出した。
場合によってはCEO自らが現場に口を出すこともあり、風通しの良い会社だと言われていた。
「三津合エレクトロニクスからメールが来ていました」
役員用の執務室の大きなデスクと三面で置かれているパソコンモニターから神代が顔を上げる。げんなりとした表情を隠そうともしていなかった。
「当然ですね。どうしてこうもスピード感がないんだ。夕食までお付き合いしたのだからさっさとしろというんだ」
神代CEOの暴言は執務室が防音である関係で外に漏れることはない。慣れている秘書の高村はさらっと流した。
「ご苦労の甲斐がありましたね」
「担当部署にすぐ投げてプロジェクトを進めてもらえますか?」
「そのようにさせていただきました」
先ほどから神代の前にいる秘書は神代が業務取締役をしていたころからついてくれている秘書で、神代のことは知り尽くしているのでこれくらいのことは指示をしなくても進めてくれる。
神代もそれを十分に承知してはいるのだが、それでも念のために自分の意志は伝えるようにしている。
察するというのは美しいことだと思うがそれによって仕事に漏れが発生するようなことを神代は好まないのだ。
秘書である高村もそれを知っているので細かい報告は漏らさない。お互いに察しが良くても口に出すことでコンセンサスを得ることが大事だと分かっているからである。
「あと……柚木香澄様という方をご存じですか?」
パタパタとすごい勢いでキーボードを叩いていた神代の手がぴたりと止まる。
いつも何かをしながらでも高村の話を聞いているので、ぱたっとキーボードの音が止まって画面から顔を上げる神代というのを高村は初めて見た。
「なぜ、香澄さんの名前を……?」
神代はまだ面と向かって香澄の名前を呼んだことはない。ただ、最近は心の中でいつもそのように呼んでいて、思いがけずに高村からその名前が出てきたものだから、驚いていつも心で呼んでいる名前が口から出てしまったのだ。
「香澄さん……ですか」
仕事に夢中になっているがために堅物となってしまっていてモテにモテまくってはいるけれどお相手にはついぞ恵まれていなかったCEOの口から女性の名前が出てくることなどついぞなくて、驚いて思わず神代の言うことを繰り返してしまった高村に、神代は不機嫌そうに髪をかきあげた。
「なんで高村さんが名前で呼ぶんですよ。知ってますけど、どうしてその名前を?」
「こちらです」
高村は神代に綺麗な色の封筒を差し出した。
161
あなたにおすすめの小説
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない
若松だんご
恋愛
――俺には、将来を誓った相手がいるんです。
お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。
――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。
ほげええっ!?
ちょっ、ちょっと待ってください、課長!
あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?
課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。
――俺のところに来い。
オオカミ課長に、強引に同居させられた。
――この方が、恋人らしいだろ。
うん。そうなんだけど。そうなんですけど。
気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。
イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。
(仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???
すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。
勘違いで別れを告げた日から豹変した婚約者が毎晩迫ってきて困っています
Adria
恋愛
詩音は怪我をして実家の病院に診察に行った時に、婚約者のある噂を耳にした。その噂を聞いて、今まで彼が自分に触れなかった理由に気づく。
意を決して彼を解放してあげるつもりで別れを告げると、その日から穏やかだった彼はいなくなり、執着を剥き出しにしたSな彼になってしまった。
戸惑う反面、毎日激愛を注がれ次第に溺れていく――
イラスト:らぎ様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる