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4.目の前のハードルが高い…
目の前のハードルが高い…⑤
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その後すぐにテーブルに運ばれたノンアルコールのスパークリングワインで乾杯し、美味しい食事に舌鼓を打つ。
「先日は素敵なお手紙をありがとうございました」
神代ににこりと微笑まれて、香澄は顔が赤くなってしまう。
「突然のことですみませんでした。ご迷惑ではありませんでしたか?」
「いいえ。実は秘書も目を通してしまったんです。すみません」
そこで香澄はハッとする。確かに思わず会社に出してしまったけれど、神代ほどの立場の人ならば秘書がいて当然だし、秘書が目を通しても仕方ない。改めて変なことは書いていなかったわよね、と自分が書いた文章を香澄は心の中で振り返る。
(多分、大丈夫だわ)
おそらく自宅に戻れば下書きを確認することもできると思うのだ。
「こちらこそ、すみません。会社にお送りするものではなかったですよね」
しゅんとすると神代はあわてて否定する。
「とんでもない! 今後そういうことはしないと秘書も言っていましたし、とても嬉しかったんです。毎日送ってくれてもいいくらいだ」
「毎日? そ、それは無理です!」
ふふっと神代から聞こえた笑い声にそれは冗談なのだと香澄は察する。香澄が気まずい思いをしないようにと言ってくれたのだろう。本当に素敵な人だ。
「香澄さんが会いたいと思ってくださっていることが伝わって、とても嬉しかった」
「え!?」
突然名前で呼ばれたので驚いた香澄の食器がカチャカチャっと音を立てる。動揺した香澄がカトラリーを滑らせてしまったのだ。それでも嬉しくないかといえば嬉しい。
神代も驚いたようだったが、香澄が動揺した理由を察して口元を手で抑える。自分の失言に気づいたようだ。軽くため息をついたあと、咳払いした。
「実は最近いつも心の中では香澄さん、と呼んでいたんです」
「は……い」
そう呼ばれても構わないし、正直に言えば呼ばれただけでどきんとした。
「香澄さん、と呼んでも構いませんか?」
「はい……」
とても嬉しかった。
「俺のことは?」
名前で呼べ、ということだろうか。香澄は動揺しすぎて顔が真っ赤になるし心臓がばくばくと大きな音をたてていた。名前はもちろん知っているが、口を開こうとすると喉が詰まってしまう。
香澄にはまだハードルが高いと神代も察したようだった。苦笑して首を傾げる。
「まだ、ハードルが高そうですね?」
赤い顔のまま、こくんと香澄は頷いた。
「では、名前はおいおいということにしましょう」
無理強いしない優しさが好きだった。
メインの肉料理『仔牛のフィレ肉のポアレ』もとても美味しくいただいていると、神代が口を開く。
「今は俺も忙しいのですが、秘書に言って今後は少し時間を取るようにしています。その調整がつくまではバタバタするかと思います。香澄さんもお忙しそうですが、書道教室や学校の指導ですか?」
香澄はこくりと頷いた。
「そうですね。お教室などで忙しいのもその通りなのですが、今後は展覧会の準備などもあるのでさらに忙しくなるかもしれません」
「先日は素敵なお手紙をありがとうございました」
神代ににこりと微笑まれて、香澄は顔が赤くなってしまう。
「突然のことですみませんでした。ご迷惑ではありませんでしたか?」
「いいえ。実は秘書も目を通してしまったんです。すみません」
そこで香澄はハッとする。確かに思わず会社に出してしまったけれど、神代ほどの立場の人ならば秘書がいて当然だし、秘書が目を通しても仕方ない。改めて変なことは書いていなかったわよね、と自分が書いた文章を香澄は心の中で振り返る。
(多分、大丈夫だわ)
おそらく自宅に戻れば下書きを確認することもできると思うのだ。
「こちらこそ、すみません。会社にお送りするものではなかったですよね」
しゅんとすると神代はあわてて否定する。
「とんでもない! 今後そういうことはしないと秘書も言っていましたし、とても嬉しかったんです。毎日送ってくれてもいいくらいだ」
「毎日? そ、それは無理です!」
ふふっと神代から聞こえた笑い声にそれは冗談なのだと香澄は察する。香澄が気まずい思いをしないようにと言ってくれたのだろう。本当に素敵な人だ。
「香澄さんが会いたいと思ってくださっていることが伝わって、とても嬉しかった」
「え!?」
突然名前で呼ばれたので驚いた香澄の食器がカチャカチャっと音を立てる。動揺した香澄がカトラリーを滑らせてしまったのだ。それでも嬉しくないかといえば嬉しい。
神代も驚いたようだったが、香澄が動揺した理由を察して口元を手で抑える。自分の失言に気づいたようだ。軽くため息をついたあと、咳払いした。
「実は最近いつも心の中では香澄さん、と呼んでいたんです」
「は……い」
そう呼ばれても構わないし、正直に言えば呼ばれただけでどきんとした。
「香澄さん、と呼んでも構いませんか?」
「はい……」
とても嬉しかった。
「俺のことは?」
名前で呼べ、ということだろうか。香澄は動揺しすぎて顔が真っ赤になるし心臓がばくばくと大きな音をたてていた。名前はもちろん知っているが、口を開こうとすると喉が詰まってしまう。
香澄にはまだハードルが高いと神代も察したようだった。苦笑して首を傾げる。
「まだ、ハードルが高そうですね?」
赤い顔のまま、こくんと香澄は頷いた。
「では、名前はおいおいということにしましょう」
無理強いしない優しさが好きだった。
メインの肉料理『仔牛のフィレ肉のポアレ』もとても美味しくいただいていると、神代が口を開く。
「今は俺も忙しいのですが、秘書に言って今後は少し時間を取るようにしています。その調整がつくまではバタバタするかと思います。香澄さんもお忙しそうですが、書道教室や学校の指導ですか?」
香澄はこくりと頷いた。
「そうですね。お教室などで忙しいのもその通りなのですが、今後は展覧会の準備などもあるのでさらに忙しくなるかもしれません」
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