敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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6.ボジティブとネガティブの間に

ボジティブとネガティブの間に②

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 自己紹介はいらないと言ったら、反発するかと思ったのだが香澄は戸惑ったような表情を見せただけだった。その時は政略的なものだから顔を合わせればそれで十分だと思っていたのに、その香澄の戸惑ったような顔が頼りなく、神代の心に引っかかったのだ。

 食事をしている間も神代はそのようすをつぶさに見ていた。
 結婚したら一緒に過ごすうえで食事の仕方というのは、合う合わないが大きいと神代は思っている。
 品のない食事の仕方やペースが合わないようなことがあればそれもストレスとなる。そういった意味で香澄の食事の仕方は好ましいものだった。

 店の人への対応は丁寧でこちらが客だからと高飛車になることもない。食事が自分の前に運ばれてきた時は素直に嬉しそうな表情をする。食事をする店は神代が選択したものだったので、喜んでもらえればこちらも嬉しいし、気が合うなと感じる。

 香澄が前菜を口に入れた時、その顔からは『おいしい!』と言葉にされていなくても表情からこぼれ出ていて微笑ましいものだった。
 香澄に対して可愛いな、と思ったのはそれが最初だ。

 ぱくぱくと嬉しそうに食事を進めていく姿は本当に可愛らしく小動物のようだ。写真の気の強そうな印象など、どこかに行ってしまった。


 ──榛色……と。
 色素が薄く、彫りの深い顔立ちなので「ハーフなの?」と聞かれることはたまにあるが、その瞳や髪の色を榛色と称されたことはなかった。

 その表現が神代はとても気に入ってしまったのだ。
 だから、適当に顔合わせを済ませたら帰るつもりにしていたのに、香澄をお気に入りの噴水パフォーマンスに誘ってしまった。瞳をきらきらと輝かせながら噴水を見ている香澄の横顔を見つめ、胸がぎゅっと絞られるような気持ちになったものだ。

 もしもここでこのお見合いを断ったら、この彼女はまた誰か他の人とお見合いをして、誰か他の人のものになってしまうのかもしれない。そんなことを考えるとそれが許せないような心地になった。


「ご趣味は? とか聞くものなんですかね?」
 そういうと「まあ……」と言ってくすくす笑う。その笑い顔が可愛くてぽろっと可愛いといってもお上手なんですねとさらりと流されてしまって、少し神代は焦った。

 本当にそう心から思っているのに、そんな風に流されてはかなわない。帰ってきたのは「書道が好きなんです」という言葉だった。正直、そこで初めてあの写真の彼女だろうかという気持ちが刺のように心に引っかかったことも間違いはない。

 その後書道についていろいろ教えてくれた。正直今まであまり関わりのないことで興味もなかったが、香澄が瞳を輝かせながら話をするから、とても興味をひかれたのだ。

 詳しく聞くと教室で教えているというので「柚木先生」と呼んだらふわりと頬を染める。そのピンクに染まった頬に思わず触れてしまっても、仕方のないことなのではないだろうか。
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