敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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6.ボジティブとネガティブの間に

ボジティブとネガティブの間に④

「そう思ってもらって構わない。一度は顔を合わせたんだ。実在しないわけでもない。本当は直接彼女の家族に依頼してもいいんだが、最初からだますつもりがあったのか。現状では判断できないんだ。だからこちらから頭を下げるようなことはしたくない」

 神代がそう説明すると友人は納得したようだった。
「分かった。調査結果を悪いことで使うわけではないようだから、個人的に引き受ける」
「礼はする」
 そう言うと友人はにやりと笑った。

「金はいらない。個人的に受けるものだ。けど調査の結果によって神代が彼女と上手くいったときは、ぜひその彼女に会わせてくれ」

 結果がどうなるか、その時点では分からなかったので承知したのだが、今にして思えばそんな約束をしても良かったのだろうかと少し悔やむ部分もなくはない。

 それでも友人はさすがのリサーチ力で一週間ほどで彼女の正体を調べ上げた。
「名前は柚木香澄。香るに澄んだ水などの澄だ。年齢は当初に聞いていた年齢と違うな。二十六歳だ。書道家なのも間違いない。雅号は『翠澄すいとう』翠に澄と書く。主に自宅で書道教室などをしているようだが、他にも書によるデザインなんかもしていて、店の看板や会社の名前なんかのデザインも提供しているみたいだ。確かに美人だな。柔らかい雰囲気、というか」

「顔まで見たのか!?」
「展覧会では何度も入賞しているみたいだし、会派での仕事も引き受けている関係で写真が掲載されていたんだ」
 友人は彼女の画像まで手に入れてくれていた。神代はその画像をさっさと自分の方に引き寄せる。

「この子だ。間違いない」
 間違えるはずもない。逃げても必ず捕まえると誓った相手だ。
 長い黒髪、色白の肌、卵型の柔らかい顔の輪郭と実年齢を聞くとそれより若く見える大きな目や可愛らしい口元。間違いない。

「住所は柚木の家だったよ。ただし最初に聞いた柚木家とは別。親族なんだな。彼女自身は親と一緒に暮らしている。書道教室は実家の敷地の中にこじんまりとしているから見つからなかったんだ」
「さすがだ。ありがとう」
 そして見つけた香澄の家を神代は訪ねて行ったのだった。


 神代を見つけた父親の顔は怯えも含んだものだった。
「ひぃっっ……」
 ──幽霊でも見たような顔はやめてもらおうか。
 にっこりとわざとらしく神代は笑って見せた。

「俺が誰かは分かっていますよね?」
「ま……まさか、だって神代さんほどの方なら他にもきっとお見合いなんて引きも切らないだろうからと思っていたんです……っ」
「俺は本気でした。本当に香澄さんと結婚前提としてお付き合いをしたいと思っているんです!」

「か……香澄……」
 父親はガックリしていた。
「そのことも分かっているんですね」

 神代が経緯を予想するにはこうだ。
 本来の神代の見合い相手は『柚木菜々美』だった。しかし何らかの事情があり、見合いに穴を開けるわけにはいかない叔父に頼まれた『柚木香澄』が身代わりとなって見合いをした。
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