38 / 86
8.白状させられています
白状させられています②
「とっても美味しいです」
香澄はカウンターの向こうにいる吉野にそう話しかける。
「それはよかったです」
そして香澄はまた働いている菜々美の姿を見た。
「菜々美ちゃんは真面目に働いていますね」
「愛想も良くて私にはないところを持っているので、実は非常に助かっています。それにさすがはお嬢様と言うのか、間違いのない舌を持っていますよ」
「ああ、叔父さまはグルメだから」
菜々美は小さな頃から美味しい店に連れていかれていたはずだ。自然と舌は鍛えられていたのだろう。
「接客も丁寧で愛想も良くて、お客様に好かれていますよ」
「そうなのね……。私が知っている菜々美ちゃんは自由、というか……」
「自由! そういう言い方もあるんですね。私はなんてわがままなお嬢様かと思いましたけど」
オブラートに包んで言ったのだが、吉野には笑い飛ばされてしまった。吉野は菜々美のことを本当によく分かっている。
「だからこそ、女将さんに言われて必死に頑張っていた彼女を知っています。前の店でも菜々美さんは努力家で、それでいて自由で明るくてみんなに好かれていました」
それはとてもよく分かる。そのわがままなところさえ魅力的なのが菜々美だからだ。
もともとはお嬢様育ちでわがままに育てられていた。それがいろんな経験を重ねて、このように言ってもらえるように成長したのだということが分かって、菜々美の努力を思うと香澄は涙が出そうだった。
その時、カラリと引き戸が開いて、新しい客が入ってきた。
香澄には見覚えのあるスマートなスーツ姿だ。
「ご予約ですか?」
そう尋ねた吉野に今店に入ってきたばかりの神代は険しい表情を店の中に向けている。
「いえ。待ち合わせです。香澄さん」
「はい。神代さん……」
「どういうことです?」
「え?」
顔を合わせるなり突然そう言われて香澄は戸惑ってしまった。
神代としては、菜々美が見つかったという話なのに、当の菜々美は席にいなくて香澄の前には端正な顔立ちの吉野がいる。しかもたった今まで親し気に離していた風情なのだ。その関係性を疑ってしまっても仕方のないことだろう。
間違ってはいないが、神代は大きく勘違いしていた。確かに普段男性不信気味の香澄が和気あいあいと話していたのだから、誤解したくなるのも当然ではあるが。
「神代さん?」
香澄は首を傾げる。
「菜々美さんが見つかったという話ではなかったのですか?」
「ええ。そうです」
「なぜ、菜々美さんがいなくて、あなたはこの店の人と楽しそうに話しているんですか?」
「え? ええ?」
交際などしたことのない香澄である。もちろん嫉妬の感情をぶつけられたこともなく、なぜ神代が怒っているのか分からなくて少し悲しい気持ちになりかけていたときだ。
菜々美が神代の後ろから現れて、香澄をぎゅうっと抱きしめた。
「香澄ちゃんをいじめるなら。絶対に渡しませんよ?」
香澄はカウンターの向こうにいる吉野にそう話しかける。
「それはよかったです」
そして香澄はまた働いている菜々美の姿を見た。
「菜々美ちゃんは真面目に働いていますね」
「愛想も良くて私にはないところを持っているので、実は非常に助かっています。それにさすがはお嬢様と言うのか、間違いのない舌を持っていますよ」
「ああ、叔父さまはグルメだから」
菜々美は小さな頃から美味しい店に連れていかれていたはずだ。自然と舌は鍛えられていたのだろう。
「接客も丁寧で愛想も良くて、お客様に好かれていますよ」
「そうなのね……。私が知っている菜々美ちゃんは自由、というか……」
「自由! そういう言い方もあるんですね。私はなんてわがままなお嬢様かと思いましたけど」
オブラートに包んで言ったのだが、吉野には笑い飛ばされてしまった。吉野は菜々美のことを本当によく分かっている。
「だからこそ、女将さんに言われて必死に頑張っていた彼女を知っています。前の店でも菜々美さんは努力家で、それでいて自由で明るくてみんなに好かれていました」
それはとてもよく分かる。そのわがままなところさえ魅力的なのが菜々美だからだ。
もともとはお嬢様育ちでわがままに育てられていた。それがいろんな経験を重ねて、このように言ってもらえるように成長したのだということが分かって、菜々美の努力を思うと香澄は涙が出そうだった。
その時、カラリと引き戸が開いて、新しい客が入ってきた。
香澄には見覚えのあるスマートなスーツ姿だ。
「ご予約ですか?」
そう尋ねた吉野に今店に入ってきたばかりの神代は険しい表情を店の中に向けている。
「いえ。待ち合わせです。香澄さん」
「はい。神代さん……」
「どういうことです?」
「え?」
顔を合わせるなり突然そう言われて香澄は戸惑ってしまった。
神代としては、菜々美が見つかったという話なのに、当の菜々美は席にいなくて香澄の前には端正な顔立ちの吉野がいる。しかもたった今まで親し気に離していた風情なのだ。その関係性を疑ってしまっても仕方のないことだろう。
間違ってはいないが、神代は大きく勘違いしていた。確かに普段男性不信気味の香澄が和気あいあいと話していたのだから、誤解したくなるのも当然ではあるが。
「神代さん?」
香澄は首を傾げる。
「菜々美さんが見つかったという話ではなかったのですか?」
「ええ。そうです」
「なぜ、菜々美さんがいなくて、あなたはこの店の人と楽しそうに話しているんですか?」
「え? ええ?」
交際などしたことのない香澄である。もちろん嫉妬の感情をぶつけられたこともなく、なぜ神代が怒っているのか分からなくて少し悲しい気持ちになりかけていたときだ。
菜々美が神代の後ろから現れて、香澄をぎゅうっと抱きしめた。
「香澄ちゃんをいじめるなら。絶対に渡しませんよ?」
あなたにおすすめの小説
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』
まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」
五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。
夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。
生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。
冷淡な視線、姉と比較される日々。
「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」
その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。
しかし、彼女が消えた翌朝。
カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。
そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。
そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。
――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」
真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。
だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。
これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
あなたと別れて、この子を生みました
キムラましゅろう
恋愛
約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。
クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。
自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。
この子は私一人で生んだ私一人の子だと。
ジュリアとクリスの過去に何があったのか。
子は鎹となり得るのか。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
⚠️ご注意⚠️
作者は元サヤハピエン主義です。
え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。
誤字脱字、最初に謝っておきます。
申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ
小説家になろうさんにも時差投稿します。