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12.仲違い
仲違い⑤
(輝きが心から失われることがないなんて、嘘だわ……)
香澄にとっては輝きそのものが神代で、失ってしまったら輝きがどこにあるかも分からない。
「佳祐さんっ……」
それでも今週のお稽古の時には出品する文字を決めて、清柊のところに持っていかなくてはいけないのだ。
『燦然は心中に在りて馴化せしとも失する事無し』
香澄が決めた言葉と全く同じ意味になるように言葉を選択した。書にしたときのバランスなどを勘案するとこのように書いた方がいい。
大きさは一メートルほどの半紙に書くことを考えていた。ちょうど手を半分くらいに広げた大きさだ。紙は横向きで横書き。
道具一式を出してきて、紙を準備する。真っ白い紙に書くイメージを作っていく。
集中してくれば、悲しい出来事なんか忘れてしまうものだ。
いいと思う形で三枚ほどを一気に仕上げる。そして、香澄は筆をおいて、息を大きく吐いた。
熱意のままに一気に書き上げたものだ。けれど、芸術というのはそれだけではない。
さらにそれを第三者的に見て、修正点を探していく。そうして錬成されたものが真に人の前に出せるものなのだ。心を落ち着けながら、墨が乾くのを待つ。
その間は生徒の採点などをして時間を過ごした。
いつもの香澄だ。今まで過ごしてきたこととなにも変わらない。それでも心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになって、口から自然とため息が零れてしまうのを抑えることができなかったのだった。
香澄の書を見た清柊は眉間にシワを寄せていた。
「どうしたんです?」
「え?」
「『燦然』ですとか『失する事無し』と書いていますが、その輝きはこの書から見えづらくないですか? 柚木さんらしくないです」
香澄の顔から血の気が引いた。清柊は厳しい時は確かに厳しいが今までこんなに強いダメ出しをくらったことはない。
「らしく、ない……ですか?」
「ないですね。見るだけで元気をもらえそうな書が柚木さんの持ち味だった。こんな、迷子のように萎縮しているのはあなたらしくないです」
迷子のように萎縮……それはまさに今の香澄の気持ちを捉えていた。
「書き直し……てきます」
「そうですね。なにか心配事があるのなら、それを解決してから書いた方がいいかもしれません」
それは香澄の胸に強く刺さった言葉だった。
しょぼんとしながら、帰り道を車で送迎してもらっていると、スマートフォンが着信を知らせる。神代かもしれない、と慌てて通話ボタンを押すと電話の向こうからは岡野の情けない声が聞こえてきたのだった。
『翠澄先生、助けてー』
「え? 芳睡先生?」
通話してきたのは先日展覧会で会ったばかりの岡野芳睡だった。
香澄にとっては輝きそのものが神代で、失ってしまったら輝きがどこにあるかも分からない。
「佳祐さんっ……」
それでも今週のお稽古の時には出品する文字を決めて、清柊のところに持っていかなくてはいけないのだ。
『燦然は心中に在りて馴化せしとも失する事無し』
香澄が決めた言葉と全く同じ意味になるように言葉を選択した。書にしたときのバランスなどを勘案するとこのように書いた方がいい。
大きさは一メートルほどの半紙に書くことを考えていた。ちょうど手を半分くらいに広げた大きさだ。紙は横向きで横書き。
道具一式を出してきて、紙を準備する。真っ白い紙に書くイメージを作っていく。
集中してくれば、悲しい出来事なんか忘れてしまうものだ。
いいと思う形で三枚ほどを一気に仕上げる。そして、香澄は筆をおいて、息を大きく吐いた。
熱意のままに一気に書き上げたものだ。けれど、芸術というのはそれだけではない。
さらにそれを第三者的に見て、修正点を探していく。そうして錬成されたものが真に人の前に出せるものなのだ。心を落ち着けながら、墨が乾くのを待つ。
その間は生徒の採点などをして時間を過ごした。
いつもの香澄だ。今まで過ごしてきたこととなにも変わらない。それでも心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになって、口から自然とため息が零れてしまうのを抑えることができなかったのだった。
香澄の書を見た清柊は眉間にシワを寄せていた。
「どうしたんです?」
「え?」
「『燦然』ですとか『失する事無し』と書いていますが、その輝きはこの書から見えづらくないですか? 柚木さんらしくないです」
香澄の顔から血の気が引いた。清柊は厳しい時は確かに厳しいが今までこんなに強いダメ出しをくらったことはない。
「らしく、ない……ですか?」
「ないですね。見るだけで元気をもらえそうな書が柚木さんの持ち味だった。こんな、迷子のように萎縮しているのはあなたらしくないです」
迷子のように萎縮……それはまさに今の香澄の気持ちを捉えていた。
「書き直し……てきます」
「そうですね。なにか心配事があるのなら、それを解決してから書いた方がいいかもしれません」
それは香澄の胸に強く刺さった言葉だった。
しょぼんとしながら、帰り道を車で送迎してもらっていると、スマートフォンが着信を知らせる。神代かもしれない、と慌てて通話ボタンを押すと電話の向こうからは岡野の情けない声が聞こえてきたのだった。
『翠澄先生、助けてー』
「え? 芳睡先生?」
通話してきたのは先日展覧会で会ったばかりの岡野芳睡だった。
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