敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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15.雨降って地固まる

雨降って地固まる③

 配達された荷物を持って神代が部屋に入ってきて香澄は初めて驚いた。その手には箱に入った薔薇の花があったからだ。
 赤味はあるが、真っ赤ではなく少し落ち着いた色合いの薔薇で三本ほどが白い箱に入り、丁寧にリボンをかけられ包装されている。
「すごい……とても綺麗……」

「ブラックティっていうんですよ。珍しい紅茶色の薔薇で芳香も紅茶の香りと言われているんです。花言葉もなかなか素敵ですよ。『決して滅びることのない愛、永遠の愛』というんです。香澄さんが泊まりにいらっしゃるというので」
 神代に手渡されて、香澄はその薔薇を受け取る。
 芳香もとてもいいものだった。
「いい香り……」
「香澄さん……」

 香澄の目の前にケースに入った煌びやかな指輪が差し出された。
「改めて言います。俺と結婚してください」
 ぎゅっうっと胸を掴まれるような気持ちになった。鼻がツンとして熱くなる。香澄は指輪ケースを持っている神代の手をきゅっと握った。
「はい。こちらこそ、お願いいたします」
 幸せな朝に、幸せなプロポーズだった。薔薇と指輪を手に抱いて、二人の唇は自然に重なった。

 幸せな朝から一か月ほど経過したあと、最近香澄は左手薬指の指輪の存在にもだんだん慣れてきていた。そんな香澄の姿が教室の中にある。展覧会用の文字を練習するためだ。
 白い紙を目の前にして、今は以前とは全然違う気持ちで紙の前にいることに気づく。香澄は墨と、適度な太さの筆を選び出した。

 墨を少なめにして薄くして表現できる人もいるし、細い筆で美しく表現する人もいる。書道の表現の仕方は様々だ。
 香澄は筆を置く強さによって太さが変わるところが表現として面白いところだと思っているので、自分の書ではあえて太いところと細いところをつくる。文字の大きさも同じだ。

『燦然は心中に在りて馴化せしとも失する事無し』
 香澄の心の中の輝きはなくなってしまったかと思った。けれど諦めないで大事にしていればどれだけ小さくともその輝きはなくなることはない。

 自分でも実感したことだったのだ。
 不思議なことなのだが、以前に書いたものよりも字に安定感があるように思える。
 何枚か練習をして、心を落ち着けたあと大きな紙を用意する。これだと思う文字で一気に書いた。

 最後に筆を抜くようにして書き終えたとき、大きな呼吸が漏れる。
 ──できた。
 まだ完成ではないけれど、今の自分にできるベストのような気がした。

 書道の時は紙を破ってしまってもいけないので指輪は外してある。香澄の道具をしまってあるキャビネットの上に今はケースごとおいてあった。そのケースは開いていてきらきらと香澄に光を届けていた。

 自然と目がいってしまう。その輝きは香澄に元気をくれていて、見るだけでも神代が側にいるようで胸がほわりと温かくなる。
 香澄は練成会に出すための書と生徒さんの見本をいくつか作って、筆を置く。最後に書道で使用しているテーブルを片付けて、指輪をつけた。
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