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5.断れません
断れません①
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そしてその2ヶ月ほどの後、2回の公判を終え判決が降りた。
裁判には通常時間がかかる、というイメージだったのだが。
何だか早いように翠咲は感じた。
前のようにミーティングルームに課長、翠咲、渡真利、倉橋の4人が集まる。
そうして渡真利が判決文を見せた。
「『保険会社は極力速やかに判断をすること。極力履行期以内での判断をし、契約者に速やかに通知すること』だって」
「えーと、それは……?」
「なるはやで判断してあげてねってこと」
「支払え、ではなくて?」
てっきり払えという話なのだと思っていた翠咲は、きょとんとしてしまう。
「ないねえ。向こうは『払ってくれません』と言っているけど、判断はあくまで保険会社の約款に基づくものだし、こちらは何も約款からは外れたことはしていないからねえ。まあ、時間かかってるのは事実だから、そこはごめんねってことで。大体、まだ判断が下りてもないのに払えって言ってくることがそもそもおかしい」
「もし、判断に不満があるのなら、別件になるしな」
課長もそう言ってくすくす笑っていた。
何となく、こうなることを察していたような気配もある。
「オフレコだけど公判終わって向こうの弁護士と話したけど、弁護士は止めたらしいよ。まだ早いって。でも依頼人が不払いだろうって譲らなかったらしい」
「こっちはまだ払うとも、払わないとも言っていないからね。確認したいから時間をくださいと言っているだけで」
「そこを淡々とうちの弁護士が突いていって裁判官もそれで納得して、この判決。いやー、倉橋先生お見事だったな。あ、今後の対応についてはうちが代理人として弁護士を通すってことになっているから、判断が決定したら、うちに連絡もらえれば結構ですよ」
「何だかその人、メリットあったのかしら……」
「ないね」
渡真利がキッパリと翠咲に言い切った。
「奴は法律を甘く見ている。法はそんな自分に都合の良いいいものじゃない。もし、奴が今度こちらの判断を気に入らないと言って、もしそこに虚偽があれば、裁判で嘘を言うことは認められないからね。それでも闘うなら、こっちも徹底的にやるだけだよ」
渡真利は感じが良い人だと思ったけれど、凄烈なところもある人なんだと翠咲は思った。
倉橋にもそういうところがあるんだろうか。
この淡々とした人でも、正義感で熱くなることが?
ふと翠咲が見る倉橋は相変わらずで、表情を変える気配もない。
「まあ、こいつも分かりづらいけど、今回は超絶に気合入っていたよな」
「いつもと同じです」
「そうかあ? 怒ってんのかなって思ったけど」
「宝条さんが……」
え⁉︎私⁉︎
「宝条さんがあれだけこだわっていたから、黒だと思っただけです。担当者の方はその道のプロですから、おそらく感覚で分かるんでしょう。僕はただ、それを確定する道筋をつけただけです。しっかり確認してくれていたから、もし今後、別件で裁判になっても問題はないと思いましたし」
先日もきちんと翠咲は仕事をしていた、と倉橋は言ってくれていた。
それでも、こんな風に言ってくれると嬉しい。
たとえ、能面であっても……だ。
「ありがとうございます」
「いいえ。仕事をしただけです」
うん。ですよね。
だと思いました。
課長の沢村と二人でお礼を言って、翠咲は渡真利と倉橋を見送った。
裁判には通常時間がかかる、というイメージだったのだが。
何だか早いように翠咲は感じた。
前のようにミーティングルームに課長、翠咲、渡真利、倉橋の4人が集まる。
そうして渡真利が判決文を見せた。
「『保険会社は極力速やかに判断をすること。極力履行期以内での判断をし、契約者に速やかに通知すること』だって」
「えーと、それは……?」
「なるはやで判断してあげてねってこと」
「支払え、ではなくて?」
てっきり払えという話なのだと思っていた翠咲は、きょとんとしてしまう。
「ないねえ。向こうは『払ってくれません』と言っているけど、判断はあくまで保険会社の約款に基づくものだし、こちらは何も約款からは外れたことはしていないからねえ。まあ、時間かかってるのは事実だから、そこはごめんねってことで。大体、まだ判断が下りてもないのに払えって言ってくることがそもそもおかしい」
「もし、判断に不満があるのなら、別件になるしな」
課長もそう言ってくすくす笑っていた。
何となく、こうなることを察していたような気配もある。
「オフレコだけど公判終わって向こうの弁護士と話したけど、弁護士は止めたらしいよ。まだ早いって。でも依頼人が不払いだろうって譲らなかったらしい」
「こっちはまだ払うとも、払わないとも言っていないからね。確認したいから時間をくださいと言っているだけで」
「そこを淡々とうちの弁護士が突いていって裁判官もそれで納得して、この判決。いやー、倉橋先生お見事だったな。あ、今後の対応についてはうちが代理人として弁護士を通すってことになっているから、判断が決定したら、うちに連絡もらえれば結構ですよ」
「何だかその人、メリットあったのかしら……」
「ないね」
渡真利がキッパリと翠咲に言い切った。
「奴は法律を甘く見ている。法はそんな自分に都合の良いいいものじゃない。もし、奴が今度こちらの判断を気に入らないと言って、もしそこに虚偽があれば、裁判で嘘を言うことは認められないからね。それでも闘うなら、こっちも徹底的にやるだけだよ」
渡真利は感じが良い人だと思ったけれど、凄烈なところもある人なんだと翠咲は思った。
倉橋にもそういうところがあるんだろうか。
この淡々とした人でも、正義感で熱くなることが?
ふと翠咲が見る倉橋は相変わらずで、表情を変える気配もない。
「まあ、こいつも分かりづらいけど、今回は超絶に気合入っていたよな」
「いつもと同じです」
「そうかあ? 怒ってんのかなって思ったけど」
「宝条さんが……」
え⁉︎私⁉︎
「宝条さんがあれだけこだわっていたから、黒だと思っただけです。担当者の方はその道のプロですから、おそらく感覚で分かるんでしょう。僕はただ、それを確定する道筋をつけただけです。しっかり確認してくれていたから、もし今後、別件で裁判になっても問題はないと思いましたし」
先日もきちんと翠咲は仕事をしていた、と倉橋は言ってくれていた。
それでも、こんな風に言ってくれると嬉しい。
たとえ、能面であっても……だ。
「ありがとうございます」
「いいえ。仕事をしただけです」
うん。ですよね。
だと思いました。
課長の沢村と二人でお礼を言って、翠咲は渡真利と倉橋を見送った。
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